第22話 イベントの仕込み。

テアード王国王都へ来た俺は城へ行き、ルゥが居た部屋に影渡りで入り、ルゥに変装すると部屋を出て通ったメイドに声を掛ける。


「あら、丁度良いわ。ブリュスタルを呼んで頂戴」

「畏まりました」


そう言ってメイドは歩いて行くのを見届けて部屋に戻り、部屋の中を物色していると扉がノックされ。


『陛下、ブリュスタルです』

「入りなさい」


俺はソファに座って部屋に置いてあったお茶を飲みながらそう告げると、扉が開き入って来たのは、白髪で長い顎鬚を生やし、白い布に金の刺繍が入ったローブを着た爺さんだった。


こいつがブリュスタルか。

目つきがかなり鋭い。


対面に座るように促し、ブリュスタルが座ると話し始める。



「あなた、私の代わりに王になりなさい」

「私がですか!? ……それはいったいどういう」


素直に驚くブリュスタル。

こいつもルゥに記憶を弄られてるのかな?


「私は他にやる事が出来たから、この国はあなたの好きにして良いわよ?」

「……何か私を試されているとかではなく?」


頷く俺。

用心深いな。


「私が王になると、ルゥ様はいかがなさるおつもりで?」

「あら、私の言う事が聞けないと?」


そう言いながら俺は、左手に瘴気を纏う。


「っ!? いえいえ!! 決してそのような事では……分かりました。では本当に私の好きにしてよろしいのですね?」

「ええ、国民の記憶は弄っておくから、明日からはあなたがテアード王国の国王よ」


そう言うと奴は、目をギラギラさせ喜びを噛み締めながら冷静に答える。


「有難き幸せ……ところで、本当に好きにしてよろしいのですか?」

「くどいわよ? 他の者にしようかしら?」

「すみません!! まさかいきなり王になれるとは思ってもみなかったもので……」


まあ、そりゃそうか。

しかし……。


「そう言えば……あなた、まだ元第二王女を狙ってるのかしら?」

「はい、元とはいえ王族です。良からぬ事を考える輩を抑えるためにも、手元においた方が良いかと思いまして」


ああ、それで攫おうと……。


「元王はどうしてるかしら?」

「と言いますと、元騎士団長ですか?」

「ええ、変な動きはしてないかしらね?」

「そちらは問題ありません。元宰相のカバレンと共に、地下に幽閉しております」

「あらそう、じゃあ、私はそろそろ行くわ」

「もう戻らないと?」

「忙しいのよ。まあ、たまに様子を見に来るわ」

「はっ! 最強の国にしてみせます」

「それは楽しみね」


俺はそう言うとレジスタンスの隠れ家がある地下へ、時空転移した。



地下に転移するとアリバに変装。


ルゥの変装は肩が凝るなと思いながら、隠れ家の扉をノックすると小窓が開き、以前と同じ若い男が顔を覗かせる。


「ん? あんたは以前来た人か」

「どうもっす。ちょっとリュバッセンさんにお話がありやして」

「まあ、あんたなら良いか」


そう言うと扉を開け中に入れてくれた。

そのままリュバッセンの部屋へ案内され、俺が来た事を告げると。


『あの盗賊か、入ってくれ』

「どうぞ」


扉を開け入るように促され、中に入ると執務机にはリュバッセンがおり、ソファには第二王女であるエミュリシアとプレイヤーのコロンが座っていた。


俺が入って来るのを見るなりコロンが。


「あんた、何しに来たの? ハンゾウは? 依頼を出したんだけど?」

「その事でお話があって来やした」


そう返しリュバッセンを見ると彼は頷き、ソファに座るように言われ、コロンとエミュリシアの対面に座り、リュバッセンはエミュリシアの隣に座ると口を開く。


「で? 話とは? ハンゾウの仲間に依頼を出したんだが、その事で何か? まさか依頼は断られたのか?」

「先に言っときやすが、依頼は別の形で受けやす」

「別の形? エミュリシアの保護では無く別の形とは?」

「王を倒して新たな女王の誕生! という計画っす」


俺がそう言うと全員首を傾げる中、コロンが言う。


「女王でしょ? それに、女王を倒してって言うけど、そんな簡単な話しじゃないでしょうよ」

「あっ、明日からは女王ではなく王っす。それと……これは旦那からの指示なんで強制っす!」

「旦那?」

「異界人のキジ丸さんっすね」

「キジ丸って人は何て言ってんの?」


俺は、この国が不安定だとゼルメアが落ち着かないから、強制的に安定させるため、エミュリシアを女王にし、ゼルメアと国交を結んでもらうつもりだと伝える。


「つまり、ゼルメアのためって事ね」

「そうっす。で、どうっすか?」


と、先程から考え込んでいるリュバッセンを見ると。


「そうだな……話は分かったが、肝心の王を倒す筋書きを聞いてないぞ?」

「それを今から説明するっす。まず明日からは女王ではなく王になる人物、これがまあ最低な奴なんで、それをエミュリシアとリュバッセンさんが退治するって流れっすけど……」


別にエミュリシア本人が出る必要は無い。

そこは俺が変装して上手くやるつもりだ。

その後は本人に任せるけどね。



話し終わるとリュバッセンが。


「……つまり、あの忍びの者がエミュリシア様に変装し、王を退治して新たな女王になると?」

「そうっす。あっ、王は生かしたまま捕らえるっすから安心してくださいっす」

「そこは別にどちらでも構わないが……そもそも、国民はその王の事を知っているのか?」

「それは今晩から仕込むんで大丈夫っす」

「仕込む? 何をするんだ?」

「それは企業秘密っすね」

「企業秘密って……現実の言葉じゃん」

「旦那が言ってたっす」


そう言うとコロンも納得し、他の皆も何となく納得した。

まさか【精神属性】が必要になるとは思わなかったな。

まあ、これでこの国を安定させられそうだし、使うのは今回くらいだろうね。


その後、行動の打ち合わせをすると俺は、国民の記憶を弄るために夜の街へと出かける。



まず、どうやって使うのか確かめないとなぁ……おっ、チンピラを発見。


夜の街を歩き実験体を探していると、路地裏で2人の男が女の行く手を阻み無理やり口説こうとしていたので、アリバのまま向かう。


「良いだろ? 俺達と気持ちよくなろうぜ?」

「そうそう、こんな時間にここに居るって事はそういう目的で来たんだろ?」

「違います! 弟を探してるだけです! どいて下さい!」

「またまたぁ、この辺りに若い女が来る事がそういう事だって知ってんだろ?」

「なら一緒に探してやるぜ? なぁ?」

「ああ、気持ちよくなりながら探そうぜ?」


おお、清々しい程のクズが居る。

まあ、女もこんな薄暗い路地裏に居る事が間違いだけどね。

普段なら放置だが、今は実験体が欲しいので丁度良い。


「すいやせん」

「ん?」

「なんだ? お前も混ざりたいのか?」


俺が声を掛けると更に増えたと思い、女は恐怖の色を見せる。


「ちょっと実験体になって欲しいっすけど、良いっすか?」

「はっ? 実験体?」

「どんな気持ち良い事を実験するんだ?」


既に頭の中はピンクで埋まってるのかこいつは。

さて、同意を求める気は無いので……。



俺は2人の男の腹に拳を叩き込み、気絶させると金貨を1枚弾き女に渡すと告げる。


「慣れない事をするもんじゃ無いっすよ? さっさと帰った方がいいっす」

「えっ? ……あっ、ありがとうございます」


女は頭を下げ表通りに駆けて行った。

あの女が弟を探していると言っていたが心眼で視えたのは、金が無くなり身体を売ろうとしていたのだ。


しかし、直前になり怖くなったのだろう。

そうしないと生きていけない程、追い詰められてるって事だな。



俺は地面に倒れている2人の男を見てニヤっと笑い、さっそく記憶を弄る実験を始めた。


フッフッフッフッ、どんな記憶にしてやろうかねぇ。

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