第21話 惚れてるよね?

ゼロの影に転移し帝都に戻るとゼロは、またもギルドの訓練場で訓練していた。

観光でもすれば良いのに。


俺は影の中でイブキに、テアード王国のレジスタンスに食料を届けている者に現在テアード王国のトップは不在なので、第二王女を女王にするには丁度良い事を伝えるように頼む。


ついでにシティアは既に居ない可能性がある事も。


『……分かりました。潜入させていた者達は、もうすぐゼルメアに到着する頃です』

『ああ、到着したら連絡してくれ、魔法を解除しにいくから』

『はっ!』


イブキとの念話を終了すると今度は、クレナイに念話でシティアがもう既に居ない可能性がある事を告げると……。


『悪魔が言ったなら、嘘の可能性もあるよな?』

『まあ、あるっちゃあるけど、そんな嘘を吐く意味があるか?』

『探させないためとか?』

『それこそなんのためだよ』

『見つかるとなにかマズい事があるかも?』


なんだそれ。


『クレナイ、シティアの事をそこまで……』

『違うからな? 人間と変わらないと言ってもNPCに惚れる訳ねぇだろ』

『あっ、そうなの? じゃあなんでそこまで拘る?』

『ん~、何かほっとけないというか、あいつがこの国は潰れた方が良いって言った時の表情がちょっと気になってな』


やっぱ惚れてんじゃん。


『ふ~ん、まあ、クレナイが納得するまで探しても良いと思うけど、死んでたらどうする?』

『それが分かれば特に問題はねぇかな? 今はまだ生きてる可能性があるからな』


うむ、確かに。

ハッキリさせたいって事か?

俺なら放置するけどなぁ。

まあ、それがクレナイって事なのかもね。


『じゃあ、何か分かれば連絡してくれ、こっちも他の者にシティアの行方を探らせとくよ』

『ああ、了解』


念話を終了してから思う。

クレナイってずっとシティアを追ってるよな。

本人は気付いてないだけで絶対惚れてるだろ。



さて……ん?

何か忘れてるような?

……シティアの事はクレナイに任せたし、次の女王の事もメンバーに伝えるように頼んだ。


後は……あっ、宰相だ。

新しい宰相が居るとか言ってたな。

そっちもメンバーに頼もうかな?


イブキに念話をしようとしたところで、イブキから念話が入る。


『マスター、テアード王国のレジスタンスから依頼が入りました』

『丁度念話しようと思ってたんだ。新しい宰相の事を新しいメンバーを送って調べてくれるか?』

『新しい宰相ですか? そちらでしたら既に調べはある程度ついてます。名前はブリュスタルという白髪の爺さんですね』


おう、仕事が速い。

ブリュスタルってシンスケに機械工学を教わったイーターの者だな。

やっぱり入り込んだか。


イブキによると今のところ、ブリュスタルに変な動きは無いそうだ。


『で? 依頼って?』

『はっ! リーダーのリュバッセンが、第二王女であるエミュリシアを保護してほしいとの事です』

『シティアも原初の悪魔も居ないのに狙われてるのか?』

『それが……』


イブキの話によると、今までに5回程狙われているらしく、ディーまで襲って来たとの事。


ディー以外は黒ずくめの賊で、全て返り討ちにしていたが、ディーの襲撃でプレイヤーのコロンがやられたらしく、地下の隠れ家も離れる事になったらしい。


エミュリシアを狙ってるのは、悪魔でもシティアでもなく、イーターが狙っている?

ってか、バルデン連邦のイーターは滅んだのに、まだ残ってるのかよ。

しつこい連中だな。



トップが居ないから今の内に女王にすれば? とイブキに言うと。


『今リュバッセンの近くに居るメンバーにそう伝えたのですが、それは難しいそうです』


難しい?

…………あぁ、いきなり新しい女王になっても国民が認めないって事かな?

でも、それだとルゥも……って、あいつは悪魔か。

魔法で記憶を弄ればなれるんだよな。


大々的にトップを倒して圧政から解放、という筋書きが無いと難しいって事ね。

…………よし。


『王女の保護は無しにしてエミュリシアを女王にする手伝いをすると伝えろ』

『よろしいのですか?』

『ああ、問題無い』

『トップが不在のテアード王国で、いきなり女王になるのは難しいと思いますが』


イブキも気付いてたのか。

なら……。


『ブリュスタルを使う』

『宰相を?』

『ああ、とりあえずリュバッセンにはそう伝えてくれ、仕込みは俺がする』

『はっ!』


そうして念話を終了し、訓練が終わって休憩しているゼロに影の中から声を掛ける。


『ゼロ殿、原初の悪魔の1体は始末したぞ』

「おっ? 戻ったのか。って、原初の悪魔を倒した?」

『ああ、それで次の指示が出たので、拙者は先に失礼する』

「えっ……いやいや、俺の護衛だろ?」

『主が、ゼロ殿に護衛は必要無いと、既に戦後処理の話し合いは終わったなら、離れて良いだろうと言われたのでな』

「マジか……まあ、確かに話し合いは終わったけどさ。この後摸擬戦がしたかったんだけどなぁ」


流石戦闘狂!

だがまだ戦争は完全に片付いてないのだ。

帝国側は一旦終わったが、テアード王国の方はまだ何も終わっていない。


ヒヨも帝国側を片付けてからテアード王国に手を付けようとしているが、もしルゥに気付かず放置してたら、かなりヤバかったと思うぞ。


以前は鎖国状態でゼルメアに害は無いと放置していたけど、このままだとゼルメアやこの大陸全土に被害が出そうだし、安定させるためにもエミュリシアを女王にしてゼルメアと良い関係を築いてもらわないとね。



『テアード王国側で不穏な動きがあるそうでな、そちらの処理を主に任されたのだ』

「テアード王国? そういやそっちはキジや螺旋達に任せてたな……分かった、ヒヨには俺から言っとく」

『感謝する』

「あっ、落ち着いたら摸擬戦の相手、してくれよ?」

『あの大会でどうだ?』

「いや、あれは異界人専用の大会にしようかと思ってんだよな」

『そうなのか?』

「異界人と住人だと不公平だろ? こっちは復活するけどあっちは死んだら終わりだしな」


あっ、俺も住人設定だった。

なら仕方ないか、俺はキジとして出よう。


『分かった。では全て片付いたらその時は』

「絶対だからな?」

『承知』


俺はそう答えると影渡りでテアード王都へ転移した。



さてと、仕込みを始めますか。

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