第19話 冥黒。

シティアに女王の座を譲ってもらったというルゥ。

その言葉にしっくりこなかったが、思い出した。

帝国で謁見した時、後ろに男が居たという騎士の話を。


シティアは悪魔に操られている可能性が高い。

悪魔は何の目的でそんな事をしているのかまったく分からないが、見つけて始末すれば良いだけの話だ。


俺は短刀を納刀しながら告げる。


「お前達悪魔がどんな目的で動いているのかは知らないが、始末させてもらう」

「目的? 私はこの国の女王になって良い国を作るのが目的よ?」

「そうか……」


俺は縮地で奴の背後へ回り、直刀にエーテルを流しながら抜きざまに振り下ろす。

しかし、奴の身体から黒い液体のような物がヌルっと出て触手になり、防がれてしまう。


液体が何本もの触手になり、奴の身体に纏わり付きながら数本の触手が左右から迫ってくる。


咄嗟に後方に跳び避けると触手は追いかけて来るので、着地すると直刀で全ての触手を弾き返すが止まらず、次第に全方位から触手が迫るようになってきた。


直刀で弾いた感触からして触手はゴムのような感じだ。

しかし、避けて地面に刺さった触手は、簡単に地面に穴を空ける程の強度があり、当たれば身体に穴が空いてしまうだろう。



触手が増えた事で手数が足らなくなってきたので瞬影で五重にし、全ての触手を弾きながら考える。


エーテルを流しても斬れない触手って事は、エーテルを流して斬ってもこいつも斬れない可能性が高い。


原初の悪魔が使う力。

エーテルの時代に生まれた悪魔が使う力ってなんだ?

悪魔は負のエネルギーが溜まって生まれる存在、裏と表。


エーテルが表のエネルギーなら裏は何になる?

……そう言えばどの悪魔も『瘴気』を使うな。

そもそも瘴気ってなんだ?


触れれば状態異常になるし、下手すれば死ぬ。

瘴気が負のエネルギーの塊ならその逆は、正のエネルギーになるが……。



すると一瞬の隙を突かれ、触手が俺の脇腹を掠め、血を流してしまう。


「フフ、戦いながら考え事かしら?」

「お前を倒す方法を考えているだけだ」

「良い事教えてあげる……」


少し間を空けて奴は言う。


「私は死なないのよね」


……はっ?

なにそのチートみたいな存在。

ありえないだろ。


そんな者が居ればゲームバランスは崩壊だ。

必ず方法はあるはず。


考えろ俺、エーテルを流しても斬れない触手。

……エーテルの制御が甘い?

魔力も神気も流すタイミングが大事だと影の神も使徒の半蔵も言っていた。


ただ俺の制御が甘いなら、もっと制御出来るようになれば良いだけの話。



俺はエーテルを放ち衝撃波を生み、触手の動きを一瞬止めると縮地で奴の左側へ行き、直刀を横一閃。


しかし、黒い液体に防がれてしまう。

まだ甘いか。


触手が迫って来たので避けながら奴の全身を斬り刻むが、全て黒い液体に防がれてしまい、触手の1本が背後から俺の腹を貫く。


「フフフ、久しぶりにちゃんと戦うのは楽しかったわ。さようなら」


……うむ、なるほど。

これは本体でやらないと無理そうだな。


「お前を倒す方法は分かった」

「でももう死んじゃうあなたには無理ね」

「その傷……防げなかったようだな」


奴の足に小さな傷が付いているのだ。

俺が斬り刻み、微かに付けた傷。

ただエーテルの制御が甘いだけだと分かった。


これなら『本体』でやれば勝てる。


「あら、やるわね。でも……この程度じゃ意味無いわよ?」


奴はそう言いながら傷を治し、ドレスも綺麗に戻す。


「次は必ず倒す……さらばだ」

「次は無いわよ?」


俺はそう言いながら霧のように四散し姿を消すと、本体で奴の背後に姿を現し『全ての縛りと加重を解いた状態』でエーテルを練り、奴の首を斬る。


しかし奴の黒い液体に防がれ、奴は咄嗟に前に跳び振り返りながら着地。


「あなた、何人居る……さっきとはまるで別人ね」


奴は初めて真剣な表情をし、鋭い目つきになった。


「お前を倒すには全力を出す必要があるのでな」

「今のは危なかったわ」


黒い液体で防いだ俺の攻撃のはずが、黒い液体が斬れたのを確かに見たぞ。

これでまともに戦える。



「いくぞ?」

「仕方ないわね。私も本気を出してあげる」

「それは有難い」


良い訓練になるね。


奴は全身に絡まっている黒い液体を右手に集めると黒い細剣を作り、左手には黒い炎を纏い始めた。


「暗黒属性か」

「さぁ? どうかしら?」


違うのか?

まあ、当たるのはヤバそうだな。



すると奴は左手を前に出した瞬間、黒い炎の球を放つ。


俺は縮地で奴の背後に回り、直刀を振り抜くと細剣で受け止められるが、すぐさま奴の腹に蹴りを入れ吹っ飛ばすと、更に縮地で吹っ飛んだ奴の横へ行き直刀を振り下ろす。


すると奴は、フワっと身体を浮かせ後転し避けると左手の黒い炎が俺の全身を包み込んだ。


その瞬間、全身が焼かれるように熱くなりながらも、体内にある力が奪われるのを感じた。


「くっ……」


これはヤバい。

エーテルの制御が狂う。

回復が出来ない。

かと言って魔力にすれば即終了だ。


俺はその場で片膝を突き、焼かれる熱さと力を失う感覚に耐えながらも制御に集中し、不動金剛術を解くように全身にエーテルを流すと、黒い炎を掻き消した。


極限の状態で集中したお陰か炎は何とか消えたが、身体が思いどおりに動かない。

ステータスを確認すると。


『状態:侵食』


となっていた。

何かに侵食されている?

あの黒い炎か?


また制御が乱れる中俺は、更に集中してエーテルを全身に流し放出する。

すると微かに身体が動くようになった事を確認すると立ち上がり、構えた瞬間俺の胸から黒い細剣が生えた。


「フフ、まさか冥黒めいこくを受けて死なない人間が居るとは思わなかったわ」


めいこく?

なんだそれ?


いや、それより細剣を抜かないと……あっ、ダメだ。

身体が動かない。


「さようなら」


俺はその言葉を聞いてから地面に倒れ絶命する。



……うむ、まさか殺されるとはな。

それにしても冥黒ってなんだ?


あっ、錬生術で生き返るので大丈夫ですよ。

それよりあの炎、かなりヤバいな。


暗黒属性の炎かと思ったけど、まったく違うとはね。

試しに受けてみたが、あれはもう受けないでおこう。


お陰で新しい技を思いついたし、試させてもらおうか。

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