第18話 原初の意味。

俺は『原初』の悪魔と聞いて思ったのは、最初に生まれた悪魔という事。

その後に生まれた悪魔は原初の悪魔とは別もの。


しかし、その『最初に生まれた』というのが、俺の思い違いだとしたら?

今このゲーム世界に居る人類は『第8世代』だ。


もし奴が言う原初が『第1世代』だとしたら?

それはかなり異なる。


なぜなら第1世代に『魔力は存在しない』からね。

エーテルが分離して魔力とマナになったのは、もっと後だ。

だとしたら、奴は魔力を使わない悪魔。

いや、魔力も使えるだろうけど。


エーテルが存在した時代の悪魔は……エーテルを使うのか?

どっちにしろ、こいつに魔力を流しても殺せない事は分かった。


おそらく神気も無理だろう。

エーテルの時代に生まれた悪魔なら、魔力も神気も効かないはず。

ならエーテルを使うまで。



でも、今は神気で作った分身なので使えません!

とりあえずいろいろ試すか。


「お前はエーテルを使う悪魔か?」


すると奴はお茶を飲んでいた手が止まり、振り向かず答える。


「まさかエーテルを知ってる人間がこの時代に居るとはねぇ……あなた何歳なの?」

「で? お前はエーテルを使うのか?」

「フフフ、私は悪魔よ? そもそも悪魔が何か知ってるかしら?」


ん?

そりゃ悪い奴だろ?


「悪の塊?」

「そうねぇ。近いかしら、じゃあ殺す前に教えてあげる……」


奴はそう言うとソファから立ち振り向くと話し始めた。


「悪魔はね。人間が存在すれば必ず生まれるモノが集まり、そこから生まれる存在よ」


人間が存在すれば必ず生まれるモノ……。


「負の感情という事か?」

「ええ、人間の負のエネルギーは人間が存在する限り、いつの時代もあるのよ」

「それが集まり悪魔は生まれると?」

「そのとおり……」


ルゥが言うには、人間の負の感情、それから穢れた魂が生まれ変わる時、綺麗にされて生まれ変わるが、落とした汚れはどこに溜まるのか?

溜まった汚れはどうなるのか?


人間が住む次元とは違う次元に溜まり、それはいずれ自我を持ち始める。

それが悪魔だと……人の念が集まって悪霊になるって何かで言ってたな。



「なるほど、つまりお前達は、人間の裏という訳か」

「フフ、そうね。あなた達が表なら私達は裏になるわね……じゃあ、そろそろお別れよ」


その瞬間、以前と同じように胸から黒い棘が生え、分身が消滅してしまった。

だが俺は、エーテルで作った分身を奴の背後に出し、首目掛けて短刀を振り抜く。


刃が首に当たる瞬間奴は、爪を伸ばし受け止め鍔迫り合い状態になる。


「たった今殺したはずなのに……というのは冗談よ」

「だろうな」


こいつは俺が分身だと見抜いていたようだ。


「面白い能力ね? 以前も似た者を殺した事があるけど」


そうか、第1世代の時に職業システムは無かったから知らないんだな。

って、以前倒したのはキジ丸の分身だろ。


「今回はちゃんと防ぐんだな?」

「ええ、漸く本体が出て来たようだし、ちゃんと相手をしてあげるわ」


ん?

いや、これも分身ですけど?

……まさかこいつ、エーテルを感知出来るのか?

それで本体だと勘違いしてる?


「そうか、それは有難い」

「そう思えるのも今だけよ?」


次の瞬間、奴の姿が消えると危険察知が反応したので咄嗟に空蝉術を発動。

すると背後から長い爪で胸を貫かれてしまう。


だが俺は、奴の背後に瞬間移動し、エーテルを流した右手に持つ短刀で奴の首を斬るが、奴は頭を下げ避けると振り向きながら左手の爪を伸ばし振り抜いてくる。


俺は左手で腰の短刀を抜きざまに爪を右側へ受け流し、左膝を奴の腹へ入れ吹っ飛ばす。

すると奴はフワっと浮き、ゆっくり床へ下りた。



「私に攻撃を入れるとは中々やるわねぇ」

「まだまだこれからだ」


効いて無さそうだけど。

それにこいつの力、何となくだがエーテルではなさそうな気がする。


「フフフ、このままだとせっかくのお城が壊れちゃいそうだから、場所を変えるわね?」

「なに?」


奴はそう言い、指を鳴らした瞬間周囲の景色が変わり、気付けば荒れた大地に立っていた。


「なんだここは?」

「私達が生まれた時代の世界よ」


何ですと?

つまり第1世代の頃?

こんな荒れてたの?


「それを模して私が作った空間だけどねぇ」


空間っていうか世界に見えるのは気のせいか?

実は壁があるとか?

それにしても流石原初の悪魔。


自然と俺まで転移させるとはね。

それより……。


「お前を倒せば閉じ込められるとか?」

「それは無いわよ。私が死ねばこの空間も消えるから、あなたは元の部屋に戻るだけ。倒せればの話だけど」

「それを聞いて安心した……気兼ねなしに戦えて倒せるなら、これ以上ない訓練になりそうだ」

「訓練? ……頭大丈夫かしら?」


うるせぇよ。

こっちは慣れないエーテルを使うんだ。

せっかくなら訓練に付き合ってもらおうじゃん。


魔物相手にエーテルを使うとこっちが強すぎて訓練にならないし、かと言って人間相手でもエーテルを使える人間が回りに居ないので、訓練にならないんです。


一応分身とは訓練してるけど、やっぱり実戦の方が伸びが良いんだよね。



その前に1つ気になっている事を聞いておこう。


「お前がテアード王国の新しい女王になった訳ではないよな?」

「なに急に? ……でもよく分かったわね。私がテアード王国の女王よ?」


マジかよ、クレナイが言ってたのはこいつか……ん?

おかしくね?


こいつは戦争が始まってから召喚されてるんだぞ?

その前からテアード王国の女王って事は決してあり得ない。


やっぱりシティアが女王だったのを、こいつが奪った?

じゃあ、シティアはこいつが殺したって事かな?



「お前が女王になる前の女王はどうした?」

「あら? 私が最初から女王よ?」


首を傾げるルゥ。


「それはあり得ない、お前は戦争が始まってから召喚されている」

「フフ、バレちゃったか……私は以前の女王に譲ってもらったのよ」


譲ってもらった?


「つまり殺したと?」

「違うわよ。文字通り譲ってもらったのよ」


……嘘は吐いてないような気もするが、悪魔だしな。

シティアが悪魔に女王の座を譲ったって事になるが……どうもしっくりこない。


何かまた勘違いしてるのか?



とりあえずこいつを殺せば、問題は1つ消えるな。

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