第17話 消えた女王。

ゼロ達が話している部屋の隅で俺は、念話でクレナイから詳しく話を聞く。



『戦争を仕掛けておいて女王不在ってどういう事? 隠れてるとか?』

『いや、そういう訳でもなさそうなんだよな』

『テアード王国に行ったところから詳しく教えてくれ』

『ああ、今俺はテアード王国の王都に居るんだが、1週間前に到着して城に侵入したんだが……』


クレナイの話によると、城に侵入した時点で既にシティアは不在だったという。

隅々まで探したが、シティアはどこにもおらず、代わりに見た事無い女が玉座に座っていたとの事。


まさか第二王女かと思い聞くが、シティアより年上の女で王族という雰囲気ではないらしい。


クレナイはそれからもずっとシティアを探し続けているというが、まったく見つからないそうだ。

なんの痕跡も無く、本当にテアード王国の女王になったのか、今では怪しいとクレナイは言う。



先代の王はどうなったのか聞くと、幽閉されているらしいがどこに居るのかはまったく分からない。

他に何か変わった事はあるか聞くと……。


『変わった事か……宰相だったか? そいつが居なくなって知らない爺さんが宰相になってたな』


宰相?

……これはメンバーに調べてもらった方がいいな。


『分かった。メンバーをそっちにやるから、いろいろ探ってもらうよ』

『俺も引き続き探る』

『了解、何か分かれば連絡してくれ』

『おう』


そうして念話を終了し、イブキに念話でテアード王国にメンバーは居るか聞くと、既に数人送り込んでいるというので、新しい女王の事について尋ねると。


『新しい女王? 元第一王女のシティアの事でしたら、以前お伝えしたとおりですが?』


俺はクレナイから聞いた話をする。


『シティアじゃない? ……おかしいですね。里の者は確かにシティアが女王になったと言っていましたが……少々お待ちを』


そう言って念話が終了すると数分後。


『マスター、テアード王国に居る者に聞きましたが、やはりシティアが女王だと言っています』


ん?

クレナイと言ってる事が違うんだけど?

これはまさか……。


俺は現在送り込んでいるメンバーは、いつから居るのか聞くと戦争が始まる少し前だという。


『イブキ、テアード王国に送り込んでいる者を今すぐ呼び戻せ』

『はっ!』


おお、なぜなのか聞かずに従ってくれるとはね。

なので理由も言っておく。


『おそらくメンバーは全員悪魔の魔法に掛かってる。それを解除するため、俺の店に集まるように伝えてくれるか?』

『悪魔の魔法に……承知しました』

『ついでに帝国に居る者も頼む』

『はっ!』


イブキとの念話を終了し、ゼロの背後へ移ると耳元でそろそろ行こうかと提案し、ゼロも帰りたかったのかすぐ頷くと。


「悪いが、俺達はそろそろ帰る。誓約と賠償金の10億Gはまた後日」

「ふむ、すまんの、ゴタゴタしておるので準備が出来次第、こちらから連絡をしようと思うが?」

「ああ、それで良い。次回は帝都に陛下が来る事になる。失礼が無いようにしろよ?」

「分かった。最大限のおもてなしをさせてもらおう」

「助かる。じゃあ……悪魔にはお互い気を付けてな」

「ふむ……ゼロ殿」


席を立ち部屋を出ようとするゼロを呼び止めるアインリク。

ゼロが振り返るとアインリクは、真剣な表情で。


「剣聖という高みに到ったゼロ殿に1つ聞きたい」

「なんだ?」

「ゼロ殿は悪魔を倒せるかの?」


ゼロは一瞬キョトンとした後、笑いながら答える。


「当然倒せる。と言うか……ハンゾウの方が強いぞ?」


そう言って部屋を出るゼロを見ていたアインリクは、俺に目を向け。


「剣聖より強いとはのう……『忍びの者に手を出してはならん』御伽噺は本当だったようじゃの」


ゼロの従者が出たのを確認すると俺は、何も答えずその場で影に潜り、ゼロの影に移った。


いやぁ、あんな事面と向かって言われても、忍者が自慢するのはおかしいし、なんて言えば良いのか分かりません。


どうだ!! と胸を張って言いたかったけどね。


ちなみに、ヒヨが帝都を訪れるのは、ヒヨが行きたいと言ったからだそうだ。

本来は国境近くで条約を結ぶもんだと思うけど、まあ、プレイヤーだし帝国側もそれは理解してるだろう。



城を出た俺達は宿屋に戻ると、既に昼を少し過ぎているので、ゼロと従者は食堂で昼飯をとる事に。


俺はその間にルゥを始末しようかと思い、影の中からゼロに離れる事を伝える。


「ん? どこ行くんだ?」

『主から受けた用事を済ませる』

「キジから? ……まあ良いぜ。どうせ今日はここに泊るし、明日の朝には出発するから、それまでに戻って来いよ?」

『承知した』


ってか、俺が居なくてもゼロなら襲われても大丈夫だと思うけど、護衛というより考える役割の方かな?


「そしたらまた摸擬戦に付き合ってくれ」


あっ、そっちの理由だったか。


『分かった』


俺はそう答え、影渡りでルゥに付けた印へ転移すると、転移した先はどうやらどこかの大きな建物の中のようで、ルゥは豪華な部屋のソファに座り、お茶を飲んでいた。



ん?

ここってもしかして……テアード王国の城?


影の中から外の様子を観察すると、以前見た事がある部屋で、確か2人の貴族が話をしていた部屋だ。


なぜここにルゥが?

と、それより始末するか。


俺は影の中から分身を出し、ソファに座っているルゥの背後に出ると首に短刀を添える。


「あら? どちらさんかしら?」


ルゥは慌てる事なくそう言いながら、最後にはお茶を飲む。


「主の命により、ここで死んでもらう」

「私を殺せるかしら?」

「悪魔を殺した事はある」

「ならやってみれば?」


そう言うので短刀に魔力を流しながら奴の首を掻っ切る。

しかし、奴は相変わらずお茶を飲み続けていた。


俺はすぐさま後方に跳び距離を空けると、魔力感知と空間感知で周囲を探るが、特におかしいところは無い。


なぜ死なない?

確かに首を斬って魔力を流したぞ?


斬ってすぐ黒い靄が溢れると傷はすぐ治った……つまりこいつは今までどおり魔力を流しても殺せない?


原初の悪魔。

今までの悪魔とは違うって事か。


本当に厄介な者を召喚しやがって。

探るしかないな。



「お前は偽者か?」


いや、それは無い、印を付けてあったからな。


「いえ、私は原初の悪魔、ルゥよ? それより、私を殺すんじゃなかったのかしら?」

「今までの悪魔とは違うようだな」

「フフ……漸く気付いたの? 私は原初の悪魔と伝えたはずよ?」

「原初の悪魔とはなんだ?」

「そのままの意味よ?」


原初の悪魔……原初……最初の悪魔って意味だろ?

それが他と違うって……ん?



最初に生まれた悪魔と、その後に生まれた悪魔は別もの?

……純粋な悪魔。


…………こいつが使っているのは『魔力』じゃない?

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