第14話 怒るゼロ。

ゼロの影に転移するとゼロは、ギルドの訓練場で剣の素振りをしていた。

少し離れて従者もちゃんと居るのを確かめた俺は、影の中から声を掛ける。


『ゼロ殿』

「おう、戻ったか」


話しながらも素振りを続けるゼロ。


『どうやら皇帝が暗殺された事で、城の中が大騒ぎになっていたぞ』

「なに?」


そこで手を止め、剣を鞘に納めるとクリーンで全身を綺麗にし、ギルドの個室を借りるからそこで詳しく話をする事に。



流石Sランク、個室をすぐ借りられたゼロが中に入り従者が鍵を閉めると俺が音の結界を張って話が漏れないようにする。


ゼロがソファに座り、従者は共有収納からゼロのお茶を用意し、俺は扉の前に立ちながら皇帝が暗殺された事、リオールが次代の皇帝になる事、犯人は見つかっていない事を話す。


一応皇帝の叔父が怪しい事もね。


「……なるほど。それで俺の対応が遅いのか」

「どうする? リオールが皇帝になるまで待つか?」

「ん~……ちょっとヒヨに相談してみる」


ゼロは念話でヒヨと話しているのか静かになり、暫くして顔を上げると告げる。


「今から城に乗り込むぞ」

「今から? 陛下はなんと言っていた?」

「とりあえず賠償させてついでにその、次代皇帝がどんな奴か確かめてほしいってさ」

「うむ……リオールが戦争を仕掛けて来る人間か確かめるのだな?」

「ああ、皇帝が誰になろうと仲良く出来るなら問題無い、ただし……」


俺を真剣な表情で見るゼロ。

……なるほど。


「もしもの時は拙者が始末しよう」

「よろしく。とりあえずは話し合いだな」


俺は頷き影に潜りゼロの影に移る。



それからすぐギルドを出て従者を伴いゼロは城へ向かうと、当然の如く城門で止められた。


「現在城に入る事は出来ん、早々に立ち去れ。でなければ捕縛するぞ」

「俺はゼルメアから来た剣聖のゼロだ。帝国がゼルメアに侵攻したのは知ってるよな? 既に殲滅された事も。なので今度はこっちが侵攻してきたんだが……どうやら何かあったらしいな?」


2人の門番はゼロの言葉に身体が一瞬固まり、槍をゼロに向ける。


「怪しい奴め! 捕縛する!! 動くなよ!?」

「お前ら話を聞いてたか? ……ゼルメアから来た使者を捕縛とは、とことんうちとやり合いたいようだな?」


そう言いながら剣を抜くゼロ。

しかし、ここで騒ぎを起こせば話し合いどころではなくなるので、俺が不動金剛術で門番を縛る。


「ん? どうした?」

『ゼロ殿、こいつらは動けなくした。そのまま城の中へ進もう』

「派手に殴り込もうとしたんだけどな」


と、不満げに言いながら剣を鞘に納めると、門番の間を通って城門を潜り中に入った。



城の中に入ると明らかに慌ただしい様子を見てゼロは、目の前を横切るメイドを捕まえ、ゼルメアから来た使者だと伝え、皇帝と話し合いに来た事を告げる。


「えっ、あっ、はい、では控室へご案内します」

「ありがとう、上の人を呼んでくれると有難い」

「畏まりました」


そう言ってソファとテーブルが置かれた部屋に案内され、ゼロはソファに座り従者は扉の横に立って人が来るのを待つ。

俺はゼロの影の中だ。


しかしその後、30分程経っても誰も来ない。


痺れを切らしたゼロが席を立ちあがり、部屋を出ようとするので一旦止め、俺が呼んで来ると言い座らせると俺は、すぐさま影渡りで城の中を移動し、それっぽい人物を探すと執務室で先代皇帝を発見。


音の結界を張ると奴の影の中から声を掛ける。


『先代皇帝、控室にゼルメアの使者が来ているぞ』

「っ!? ……何者じゃ?」


俺は奴の背後に姿を現し短刀を首に添え、耳元で話す。


「拙者の事はどうでも良い、それよりゼルメアの剣聖が控室に来ている。ゼルメアに対する賠償の話し合いのためにな」

「……お主か、ジルラスを殺した忍びの者というのは」

「あぁ、そんな事もあったな」

「その忍びの者が何じゃ? ゼルメアの剣聖? 今はそんな事にかまっている暇は無い」


俺はそこで神気による威圧を少し放ち。


「ほう、では帝国は滅びる選択をするという事だな?」

「なんじゃと? ゼルメア如きが帝国を潰せると思うておるのか? 異界人じゃからと調子にのるなよ? こちらにも異界人の手の者はおるからの」

「ああ、戦場に居たな。しかし……すでに始末した。力の半分を失い蘇っているだろうが、そうなっては役立たずだ」

「……送った兵が全滅したという報告は本当じゃったか」


そう言って肩の力が抜ける先代皇帝。


「戦争を仕掛けた理由は我が主への報復か?」

「キジ丸か……そんな事はどうでも良いが、あの女の言葉に乗せられた現皇帝が仕掛けた戦争じゃ」

「その皇帝が暗殺されたと聞いたが?」

「っ!? ……流石忍びの者じゃ。だから今は話し合いをしている場合ではないと言う事じゃ」

「そんな事はどうでも良い」

「何じゃと?」

「ゼルメアに対する賠償の話を、ゼルメアから来た使者と話せ、そろそろ待たされ過ぎている剣聖殿が暴れん内にな。ちなみに剣聖殿は異界人だ」

「なっ!? ……分かった準備をしたらすぐ向かう」

「そう伝える」


俺は影に潜りゼロの元へ戻ると、先代皇帝との話を説明し、もうすぐ来る事を伝えるとホッとしたようにソファにもたれ掛かり煙草を吸い始める。



それから10分程して扉が突然開かれ、先代皇帝と将軍と数人の騎士が入って来た。


ゼロは煙草を吸いソファにもたれ掛かりながら。


「どんだけ待たせんだよ?」

「きさま!? アインリク様に向かって無礼だぞ!!」


と将軍が怒りを露わにするとゼロは、煙草の火を摘んで消し吸い殻をインベントリに収納すると前屈みになり、将軍を睨みながら告げる。


「お前らがゼルメアに対して侵攻し、それを返り討ちにしてここまで俺は侵攻して来たんだよ。それを長い時間待たせて何が挨拶だ? 先ずはお前らが謝罪しろよ。潰すぞ?」


おお、ゼロはかなりイライラが溜まっていたようだな。

まあ、あれだけ待たされりゃ俺でも怒るね。


騎士達も剣に手を掛けいつでも抜ける状態で先代皇帝は、手を上げて将軍と騎士達を止めるとソファに座りながら口を開く。


「待たせてすまんの。いろいろ立て込んでおるんじゃ」

「ああ、皇帝が暗殺されたんだろ?」

「なっ!? なぜきさまが知っている!?」


将軍が驚いて叫ぶが、先代皇帝のアインリクが、忍びの者が入り込んでいる事を告げると納得したのか、静かになったところでアインリクが続けて話す。


「で? ゼルメアは何を望んでおるんじゃ?」

「そうだな。先ずは賠償金に10憶G、それから今後、一切ゼルメアに戦争を仕掛けない事を誓ってもらおうか」

「なるほどのう……まずは事の経緯から話そうか」

「そうだな。いきなり戦争を仕掛けてきた理由もはっきりしてないし……『悪魔』が絡んでそうだしな」


ゼロがそう言うと先代皇帝も将軍も騎士達も、驚いた表情をする。



兵士が悪魔化したのを知らないのか?

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