第13話 事件です。
関所に居た兵士とナイトクラブを殲滅したゼロと俺は、馬車に乗って帝都を目指す。
途中街には寄らず、野宿をしながら帝都へ向かい、約半月(ゲーム内時間)後。
ログインして土の中から出て林の中、朝日の木漏れ日を浴びる。
気持ち良いねぇ~。
朝食のサンドイッチをさっさと食って影渡りで林を抜け、ゼロと従者が居る場所へ向かうと全身鎧を着た騎士風の男女が6人程、地面に座ってゼロと会話をしていた。
「……へ~、じゃあゼロさんは皇帝と交渉するために帝都へ?」
「帝国がゼルメアに侵攻したのは知ってるだろ?」
「ああ、掲示板で見た。帝国兵が悪魔化したとか書いてあったけど、マジだったんだ」
「たった1日で殲滅したとか書いてあったけど、本当なの?」
「まあ、相手が召喚した悪魔が半分以上吸収したけど、残りは殲滅したな」
「おお、流石剣聖」
俺はゼロの影に移りそのまま話を聞く。
話からすると彼らは騎士のクランで、現在街道に現れる賊を掃除するために巡回しているらしい。
ギルドで最近、街道によく出る賊の討伐依頼が出ているらしく、彼らは治安を守るため、こうして巡回しているとの事。
そこでたまたま動画で見たゼロを発見し、声を掛けてきたという訳だ。
「じゃあそろそろ出発するよ」
「あっ、じゃあ俺達も巡回に戻ろうか」
「ご馳走様でした」
「落ち着いたら戦って下さいね?」
「ああ、ゼルメアに来ればいつでも相手してやるさ」
「絶対行きます!」
そうして騎士達は俺達とは逆方向へ歩いて行き、ゼロと従者が馬車に乗って帝都を目指して出発した。
暫く進んだところで影の中から声を掛ける。
『大会とは何かするのか?』
「ん? 聞いてたのか、帝国との戦争が落ち着いたら闘技大会を開こうかと思ってな」
騎士達との会話の中でゼロが、彼らに言っていたのだ。
『ゼルメアに闘技場が出来るから遊びに来いよ』と。
そんな面白そうな話を黙っていたとはな!
『ゼルメアに闘技場を作ると言っていたが、そのような場所があったか?』
「あぁ~……アイドールと俺が更地にした場所に、ヒヨが闘技場を建てようと言い出してな」
おお、ヒヨが言い出したとは以外だ。
「国に人が来るようにイベントを考えていたらしい、そこで丁度良い感じの広場が出来たからって」
『闘技場を建てるとなると結構時間が掛かりそうだが?』
「いやいや、ヒヨがやればすぐだ。闘技場だけなら1日で建つんじゃないか?」
マジかよ。
流石賢者。
『主に報告しても良いか?』
「ああ、当然キジも誘うつもりだしな。最強を決める大会だ」
良いね。
最強を決める大会。
その後、特に問題も無く俺達は、昼前には帝都に到着した。
街に入るため馬車用の列に並び、10分程で俺達の順番が来たのでゼロが顔を出すと門番に告げる。
「ゼルメアから来た剣聖のゼロだ。ゼルメアに対して侵攻した事について話し合いに来た」
すると門番は一瞬固まり。
「しょ、少々お待ち下さい」
そう告げ門の横にある詰所へ走って行き、暫くすると戻って来て、門を入った所で待つように言われた。
今城へ知らせに走っているというので、指示があるまで待機してほしいとの事。
馬車を停めてゼロがうちの店で買った煙草を吸い始めたので、影の中から話しかける。
『こういう場合、先触れを出しておくものでは?』
「俺も来てから気付いた。つっても、戦争中だからなぁ」
確かに、先触れを出したからと言って素直に応じるとは思えないな。
まあそれでも、先触れは出しておいたほうが話はスムーズに進んだだろうけどね。
それから約1時間程経っても何も動きが無いので、俺が見てこようかと提案すると。
「そうだな。流石に長すぎるし、俺も宿に移るからその間にどうなってるか調べてくれるか?」
『承知』
俺はゼロの影に印を付けるとすぐ影渡りで城へ向かい、城に到着したところで何やら騒ぎになっていた。
兵士やメイド、更に騎士達が慌ただしく動いている。
行ったり来たりと、ゼロを警戒して隊列を組んでいる訳では無い様子。
何があった?
敵襲って訳じゃなさそうだし……。
そこで騎士2人が歩きながら話している内容が聞こえてきたので影に移る。
「……事だ。宰相様と先代様が言うには、何者かに殺されたらしいが、犯人の手がかりは無い」
「ではどうすると? ゼルメアの者が来ているらしいですが」
「それは後回しだ。とにかく陛下の影武者が代わりをし、暫くは他国に知られないようにすると言っていた」
陛下の影武者?
ん?
まさか、皇帝が殺されたのか?
……暗殺。
誰が?
なんの目的で?
「でだ、数日後『リオール様』を次代の皇帝にするため、公に儀式が行われる」
「リオール様? 確か逃げていたのでは?」
「それについては既に疑いは晴れている。誰かに嵌められたらしいがそれより、ニミア様を辺境の地へ連れて行く話が出ている。決まればお前が同行しろ」
「ニミア様が?」
「ニミア様の事を他国に知られるといろいろマズいらしいからな。辺境に閉じ込めるつもりだろう。まだ16歳と若いのに……」
「……分かりました」
「儀式が終わるまで俺達は、怪しい奴が居ないか警戒にあたる」
「はい!」
俺は通路の影に移り、思考に耽る。
何だかいろいろ起きてるな。
ってか、リオールって誰だよ。
ニミアって確か第一皇女だっけ?
って事はリオールはその上の子供か。
皇帝が知らない間に殺され、今は影武者が代わっている。
で、近い内に皇帝の座をリオールに譲るための儀式が行われる予定。
ん?
ニミアの事をなぜ隠そうとするんだ?
俺達も疑っていたが、念話の盗聴で疑惑は晴れているし、何かやったのか?
一旦宿に戻ってゼロに報告するか。
……あっ、その前に、帝国に潜入させてるメンバーから話を聞こう。
何があったのか詳しく知ってるだろうしね。
というわけで、イブキに念話で聞くと。
『はい、先程報告がありました。皇帝が暗殺されたと』
『うちのメンバーがやったわけじゃ、ないよな?』
『それはありません。指示の無い暗殺はしませんから』
『で? 潜入させている者から何か情報は?』
『はっ! それなんですが……』
イブキの話によると、潜入させている者が調べた結果。
犯人は内部の者である可能性が高いとの事。
メンバーが城の周囲を監視していたが、怪しい者はおらず、皇帝は今朝寝室のベッドの上で、遺体として発見されている。
昨日の夜は普通に寝室へ入る皇帝を確認しているので、それから朝までの間に殺されたという事だ。
しかし、その間怪しい者は一切城を出入りしていないという。
なので犯人は内部の者の可能性が高い。
『なるほど……ところで、リオールって誰か知ってる?』
『はい、リオールは第一皇子です。ニミアの5つ上の兄ですね』
『リオールが皇帝を殺したって事はありえるか?』
『そうですね。その可能性はありますが……皇帝の叔父にあたる人物の方が可能性は高いですね』
新たな登場人物!!
皇帝の叔父か……って事は先代の兄弟ね。
今更叔父が皇帝になるなんて事はあるのか?
その辺はよく分からないが、とにかくゼルメアへの賠償を請求しないとな。
皇帝が死のうが関係ねぇ。
『分かった。引き続き監視を頼む。動きがあればすぐ知らせてくれ』
『はっ!』
そうして念話を終了し、ゼロの影に付けた印へ転移した。
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