第12話 陰法。

俺は全ての技を頭の中でイメージし、力の流れ、力の入れ方、魔力を流すタイミング等全て頭の中で繰り返し行う。


そこで気付いた事がある。


どの技も魔力を流すタイミングと力の入れるタイミングが重要な事に。

身体の動きと魔力の動きが揃わないと力を発揮しない技。


鬼滅剛流に、硬い相手を斬るという技がある。

しかしそれは、魔物が対象だ。

魔力を流すタイミングを合わせれば斬れるのは分かるが……鎧もそれで斬れるか?


そう言えば神気を無意識に使った時、意識せずに硬いシルズを斬れたな。

やっぱり神気を使わないと斬れない?


……いや、魔力でも出来るはず。

影の神が言っていた。


『力は使い方』と。



俺は以前から疑問に思っている事がある。

それは『神気で威圧が出来るのに、なぜ魔力じゃ出来ないのか?』という事だ。


最初はエネルギーの質が違うからと思っていたが、威圧の制御が出来るようになって分かった。


あれは神気に相手を倒す気持ちが乗っている事に。

その後、勿論魔力で試した事もある。

しかし威圧は出来なかったのだ。


そこで神気だから、魔力だからと納得した自分が居た。

だが影の神が言った『力は使い方』という言葉を聞いて考えは変わったね。

神気で出来る事は魔力でも出来るはずだと。


神気が上とか魔力が下とかじゃない。

エーテルという1つのエネルギーが分離して、別々の異なるエネルギーになったのだ。


なら、使い方も変わるはず。

魔力で出来なかった威圧、乗せる意志や気持ちが違うとしたら?

魔力と神気が陰と陽だとすれば使い方を逆にすれば、同じになるのでは?



俺は魔力を全身に流し、周囲に放出すると不動金剛術を掛けていない騎士達が動きを止め、身体を震わせ始めた。


「な、なんだこの『寒気』は?」

「お前もか?」

「あ、あ……あいつだ」


1人の騎士がそう言って俺を見る。


「……な、なあ」

「どどうした?」

「こ、これ以上足が前に進まないんだが?」

「奇遇だな……俺もだ」

「いったい何が起こってる?」

「何か状態異常にでも掛かったか?」


気付かず混乱する騎士達も居る中、数人は俺が原因だと既に気付いたようだ。

まさかこうなるとは俺も思っていなかったよ。


魔力の威圧。



神気の時は相手を倒す意志や殺気を乗せた威圧だが、魔力の場合は感情を消し『無の状態』で魔力を放っている。


言わば自分を『殺している』ようなものだ。

相手を倒すとか殺すとかそういう意志や気持ちは一切無く、ただ目の前の事に集中するような感覚だな。


神気の威圧を受けた者は大抵恐怖心を抱くが、魔力の威圧は心ではなく身体が反応する感じか?


騎士達は誰も恐怖心を抱いている者は居ないようだし、身体が勝手に反応しいてるので混乱している状態といったところか。


神気と魔力でこうも変わるとは面白い。

さて、次は鎧を斬れるかどうかだが……この状態で魔力を制御するのが滅茶苦茶難しいぞ!


相手を斬るつもりでも、それを出さないようにしなければいけないのだ。



しかし明鏡止水のお陰か、全身に魔力を流し直刀に流した状態にするとよく分かる。


今までと流した時とは明らかに違う。

何て言えば良いのか……今まではお湯だったのが、冷水になった感じ?

強化した感じも全然違う。


以前は馴染む感じだったのが、今は沁み込むと言えば良いのかより深い感じだ。

魔力も意志や気持ち1つでここまで変わるのか。


楽し過ぎてテンション上がりそうだが、おそらく精神耐性スキルのお陰で平静でいられてるんだろうな。


俺は空間感知で騎士達の居場所を把握すると、縮地を使わず静かにそして素早く動き、騎士達の間を縫って後方へ辿り着く。


「消えた?」

「いや、後ろにいる!」

「いつの間に!?」

「身体が……っ!? 動いた……!?」


俺が不動金剛術と威圧を解くと止まっていた騎士達が動き出した瞬間、騎士達の首や胴体がズレ光の粒子となり消えていった。



「鎧ごと斬っただと!?」

「防御無視の攻撃か!?」

「気を付けろ! ユニークスキルかもしれんぞ!!」


ユニークスキルは使ってませんよ~。

しかし、あの状態は制御がかなり難しいな。

まだ長い時間は無理そうだ。


まあ、攻撃の瞬間だけでもあの状態になれば良いか。

……うむ、決めた。


神気、エーテルときて新たに『陰法いんほう』と名付けよう。


陰は最後に行きつく場所、通常見られない面の事を言うらしいからな。

魔力の普段は見られない面の意味を込めてそう名付けた。


名前も決まったところで、さっそく陰法の訓練に付き合ってもらうか。



陰法を発動しその場から素早く移動し、残っている騎士達を鎧や盾ごと切り裂いていった結果。

数分後には後方に居た騎士達は全員、光の粒子となり消える。


騎士達を斬っていて思ったのは、神気の時と違い陰法はかなり意識がはっきりし、逆に色々考えそうになるのを押さえるのが難しい。


これもその内慣れるのかな?


そんな事を考えながら直刀を振り血糊を掃うと納刀し、前方を見ると丁度ゼロが最後の騎士の喉を突き刺し、光の粒子にしたところだった。


「よう、そっちも終わったようだな」

「うむ、先程終わった」


ゼロも剣を振り血糊を掃うと鞘に納めながら問いかけてくる。


「そういやさっき、何かやってなかったか? こっちからスゲー寒いというか悪寒を感じたんだが?」


なるほど、魔力の威圧はそう感じるのか。

もっと訓練すれば変わるかな?


「うむ、新しい技の事だろう」

「マジ? どんな技?」

「それは教えられん……気になるなら主に伝えるので、後日聞いてくれ」

「なるほど、新しい報告は常に主が先か……もう伝えた?」

「いや、まだだが?」


気が速すぎる!!



するとゼロが、周囲を見て微妙な表情をしながら。


「殲滅したのはちょっとマズかったかな?」


と言うので。


「問題無いだろう。今も帝国とは戦争中だ。邪魔する者は消せば良い」

「……だな! ハンゾウが言うと何か納得しやすいな」


俺が忍者だから?

まあ、実際戦争中だし、向こうが先に侵攻してきたのだ。

こちらが侵攻しても文句は言えまい。


2人での侵攻だけどね。


あっ、ゼロの従者はちゃんと居るぞ。

馬車の操縦をしている。



さて、さっさと帝都に行って戦争を終わらせよう。

交渉はゼロがするけど。

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