第8話 侍っぽくない戦い方。

ハンゾウとカムの戦いの中、本体の俺はレックスと対峙していた。



「まさかあの時の侍が、後にあんな偉業を成し遂げるとは思ってもみなかったぜ」

「偉業? 何もしてないけど?」

「いやいやいや、あんた自分が結構有名なの分かってねぇのかよ!?」

「いや、偶に声を掛けられるけど、偉業なんてしてないぞ?」

「はぁ~、あんたはあのゾディラスを潰した事でギルドでも有名になってんだぜ? しかもプレイヤーの間じゃ、最強忍者ハンゾウの主って事でも有名だ」


あぁ、そういやギルドに顔を出してないや。

仁の国の兵士は今頃左遷されてるかな?

この戦争が終わったら顔を出すか。


「まあ、今はそんな事関係無いし、とりあえずやるか、いつでも良いぞ」

「スゲー余裕だな」

「もしかしてあのダンジョンで襲って来た時も魔法職?」

「ああ、当然だろ?」

「あの時一緒に居た奴は?」

「ありゃあの時だけ、同じ目的で集まった奴らだな」


なるほど、あの時も魔法職か。

ゼロと良い戦いをしてた記憶があるけど、1つ気になる事がある。


「なあ、なんで魔法剣士にならなかったんだ?」

「ん? 俺の職業を知ってるのか?」

「ああ、視たからな」

「ほう、鑑定で俺を見れるって事は、魔力制御は結構高いんだな」

「で? なんで魔法剣士にならなかったんだ?」


すると奴は、魔法職で剣を使って戦いたかった言い、その理由は魔法剣士だと型が決まった戦い方しか出来ないからだと言う。


魔法職で魔法を自在に使えるようになれば、剣に合わせて自分で色々出来ると思ったからだと。


確かに職業の魔法剣士だと、剣に炎を纏って戦ったりするのが基本だ。

それだと相手に手の内がバレているので、面白くないんだろうな。



「なるほど、納得」

「じゃあいくぜ?」

「おう」


すると奴は、一瞬で姿を消したと思うと俺の背後に姿を現し、剣を横に振り抜いてきたので屈んで避けながら後ろ回し蹴りを奴の腹に入れ、吹っ飛ばすと縮地で奴の飛んで行った先へ回り込み、刀を抜きざまに斬り上げる。


だが、奴に当たる瞬間、見えない壁に防がれてしまうが、そのまま力任せに振り抜き奴を上空へ上げた。


物理結界か、なら……。


俺は地を蹴り上空に打ち上げたレックスの横へ跳び、刀に斬気を流し振り下ろすとそれも結界に防がるがそのまま奴を地上へ叩きつける。


地上に着地すると土煙の中から。


「っ~、なんちゅう馬鹿力してんだよ」


と、くぼんだ地面から腰を摩りながら出て来た。


「ほう、頑丈な結界だな」

「結界は俺の得意分野なんでね……って、ヒビ入ってるし、バケモンかよ」

「あれに耐えられるなら、もうちょっと本気を出しても大丈夫そうだな」

「やっぱり手加減してたか」

「様子見って奴だ」

「流石最強忍者の主だな……勝てる気がしない」

「勝負は最後まで分からないぞ?」

「まあ、そうだな」


こっちはカムとも戦ってるんでね。

まあ、対処法は分かったので、あっちはすぐ決着が着くはず。



俺は神気を全身に流し、感覚を研ぎ澄ませる。


「……何かヤバそう」


全身に金色の光は纏っていない。

これは制御をして出なくしているからだ。

神気を使っているとバレないようにね。


まあ、まだまだ制御が甘いので、雰囲気が変わってバレるんだけど。


「いくぞ?」

「ああ、いつでも」


その瞬間、俺の周囲を炎の壁が包み込み、奴の姿が見えなくなる。

あいつの魔法か。


すると炎の中から、人型をした炎が大量に出て来て襲い掛かって来た。

ハルビターナさんの黒衣の炎バージョンみたいだな。


俺は神気を流した刀で襲い掛かる炎を切り裂いていく。

段々集中していくと、流れるように動き一振りで数十体を切り裂くようになり、徐々にスピードを上げていく。


その間にハンゾウの方が終了し、こちらもさっさと終わらせるかと気合を入れ数秒経つと、人型の炎は全て消え何も出て来なくなる。


魔力切れか?

この隙に終わらせよう。


俺は納刀しながら神気を周囲に放ち衝撃波を生み出すと、囲っていた炎の壁を吹き飛ばし、周囲が見えるようになると奴が、結界で衝撃波を防ぎ剣を構えているのが見えた。



俺も侍っぽくない戦い方を見せてやろうと思い納刀し、縮地で奴の左側に入ると同時に拳を奴の腹に打ち込むと結界が防ぐが、溜気で神気を一気に流して結界を破壊する。


「っ!?」


奴が驚いて固まった隙を突き、そこから深撃を使いながら拳の雨を奴の全身に打ち込み、ボロボロになった奴に一言。


「またやろう」


そう告げ、奴の心臓に拳を打ち込み浸透勁で神気を流すと奴の背中側に穴が空き、血を噴き出す。


「……侍…じゃねぇ…の?」

「俺は侍だ」


そう言って笑うと、奴はポカーンとした表情のまま光の粒子になって消えた。



「お疲れさん」

「キジ丸って侍だよな? なんで格闘家みたいな戦い方してんだよ?」


と、ゼロと螺旋は既に終わっていたようで、近づきながら声を掛けてきた。


「お疲れ、まあ、あいつらの真似をしてみた」

「侍っぽくない戦い方か?」

「イエス!」

「あのボコボコに殴ってたの、今度俺にも教えてくれ」


あれは忍者の特性が無いと無理だしなぁ……いや、魔力制御で出来るかも?


「分かった。落ち着いたら教えてやるよ」

「よし!」

「最後のあれは、神気か?」

「ああ、浸透勁で神気を流してみた」

「えげつねぇ……」

「なるほど、ああいうふうに流す方法もあるのか……」


螺旋が何やら考え込み始めたので、さっさと戦争を終わらせようと言い、3人で残っている兵士を片付け始める。


ちなみにハンゾウでもやっています。



騎士やアイドール、ミルク達が殆ど終わらせていたので、戦場に居た5万の帝国兵は、全て殲滅完了。

半分以上はルゥが吸収したんだけどね。


帝国側の大将はまったく知らない貴族で、とりあえず捕虜として連れて帰る事に。

戦後の交渉はゼロやヒヨ達に任せる。


と言っても、まだ戦争は終わっていない。

これから帝国へ赴き、降伏するのか続けるのか聞かないといけないのだ。

こちらの兵は数が少ないが、殆どがプレイヤーである。


死んでも復活するので、まだ戦争が続いても問題は無い。

デスペナを受けたプレイヤーも、戦争の戦いで鍛えれば良いしな。


帝国の事よりも俺は、悪魔の方が心配だ。

誰が召喚したのか、どんな願いを叶えたのか、何も分かっていない。


そこがはっきりするまで、落ち着けないよなぁ。



その後俺達は、捕虜と共に城へ戻り、ヒヨを交えて皆で今後の話し合いをした結果。


もし帝国が降伏しなければ、滅ぼす事を視野に入れ、今回の侵攻に対しての賠償を求めるため、ゼロと俺がと言うか、ハンゾウが向かう事になった。

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