第3話 不完全。

影明流秘奥義。安殺領域・黒糸



無数の黒い糸が檻のように悪魔化した兵士達を囲と次の瞬間、上下左右、全方位から黒い線が檻の中を走り、細かいマス目を作る。


兵士達の身体を貫通しているが、兵士達はなんの痛みも無い事に首を傾げたところで俺は刀を横一閃。

すると兵士達の身体が塵のように砕け消滅した。



黒糸は当然魔糸で暗黒属性となっている。

本来暗黒属性は、身体に傷を付けずに相手の精神、生命力に直接攻撃を与える属性だ。


しかし、その身体の中に入るが痛みは無いという特性を利用し、中に入った糸を伝い魔力の斬撃を流したのがこの技。


以前作った技をさっき悪魔用に変えた技だがこれは、元々大量の敵を囲み細切れにしたり突き刺したりする技である。


魔糸を伝い魔力の斬撃を伝えるのは、最近訓練をしていてやっと出来た事だがかなり便利だな。



「スゲーな、大量の兵士が一瞬だぜ」

「まだ何人か残ってるよ?」


ミルクの言うとおり、数人は生かしてある。

話を聞くためだ。


俺はハンゾウの分身を数体残して解除すると、分身で残った兵士達を不動金剛術で縛り、一旦影に沈めて俺達の元へ連れて来る。


影から出した兵士は未だに赤い眼と黒い靄を纏っている状態だ。

すると隊長らしき兵士が俺達を見て笑みを浮かべると、口を開く。


「お前達の国は終わりだ」

「この状況でよく言えるな?」


と、螺旋は呆れるが俺は、少々不安になる。


「あんた達が悪魔になるために飲んだのは何だ?」

「偉大なる御方から頂いた力だ」


偉大なる御方?


「それはもしかして原初の悪魔か?」


俺の問いに兵士は一瞬キョトンとした後、笑みを浮かべ遠くを見ながら。


「あの御方は、我々に進化という素晴らしい力を授けて下さったのだ」


進化?

悪魔化が?

進化というより変化だと思うけど……ん?


俺はそこで違和感を覚え、その違和感が何なのかすぐ気付く。


おかしい……こいつらは悪魔化したはずなのに、そいつらを倒したけどスキルを1つも取得していない。


悪魔化じゃないのか?

いや、眼が赤くなって黒い靄、瘴気を纏うのは悪魔だけだろ。

それに、タピオカもステータスが初期値に戻ってると言っていた。

それは完全に悪魔の特性だ。


なのにスキルを取得出来ないとなると……なんだ?

完全な悪魔じゃない?


こっちの力は奪えるのに、倒してもスキルを取得出来ないってメリットがまったく無いんですけど?

こいつらと戦うだけ無駄じゃん。

むしろマイナスだな。


しかし、こちらだけ奪われるのは納得出来ないね……。



……あれ?

そう言えば、タピオカを殺した兵士。

あいつ、何も変わっていなかったな。


本来悪魔は、倒した相手の力を奪い自分の力にするはずなのに、まったくあいつの強さが変わっていなかったぞ?

どういう事だ?


「おいキジ丸、原初の悪魔ってなんだ?」

「お兄ちゃん知らないの? 原初の悪魔ってのはね……」


ミルクが漫画やラノベで謂われている原初の悪魔の事を話しているが、色んな作品が混ざっているので、原初の悪魔が最強の存在みたいになっている。


「やべーじゃん。そんな奴が居るのかよ」

「そう! 原初の悪魔はヤバいのよ。それが居ると世界は終わりって訳」

「ちょっと違う部分もあるけど、とりあえず原初の悪魔が関わってるのは分かったな」

「どうすんだ?」


螺旋の問いに少し考える。


おそらく原初の悪魔は、デスロードさんが言っていた奴だと思う……そうあってほしい。

そんなのが何体もいると、このゲーム世界は本当に終わるだろう。


原初の悪魔がバルデン連邦を滅ぼした後、こっちの大陸に来てる事は分かった。

次はテアード王国を滅ぼすつもりなのか?

それとも帝国?

はたまたゼルメア王国の可能性もある。


どう動けば一番良いのか……決まってるよな。



「先ずは……」


言いかけたところでタピオカが、鳥の召喚獣に乗って空から降りて来る。


「おーい、良かった。みんな無事みたいですね」

「おうタピオカ」

「……ごめんね。庇ってもらって」

「良いって、気にしない気にしない、職業も召喚獣もそのままだし、スキルレベルとステータスはまた鍛えればいいだけだよ」


……ん?


「キジ丸さん、どうしたんです?」


俺がじっとタピオカを見ているとそう聞いて来たので、気になっている事を話すと。


「えっ? ……えーっと確かにHPやMPも初期に戻ってますけど、職業もクラスもそのままですね。スキルは全部レベル1になってます。まあ、悪魔にやられたので仕方ないと言えば仕方ないですね」


当分鍛えないといけないですけど、と最後に言うタピオカの言葉を無視して俺は、1つの可能性にいき着く。



俺が気になっていたのは、職業とクラスがそのままだという事だ。

以前悪魔が言っていたとおりなら、職業もクラスも初期に戻るはず。

まさに『生まれた状態』に戻るはずである。


なのにタピオカの職業はそのままで、クラスもそのままとなると考えられるのは……。


「こいつらを通して大元の悪魔が力を吸収している?」


だから完全な初期に戻る訳じゃないのかも?


「キジ丸、どういう事だ?」


螺旋に聞かれ顔を上げると3人が俺をジッと見ていた。


「あぁ、たぶんだけどな……」


俺がいまの可能性を全部説明すると。



「なるほど」

「流石原初の悪魔だね」

「それで僕の職業もクラスもそのままって事か……つまりこの兵士達は本当の悪魔じゃないって事ですか?」

「ああ、おそらく大元の悪魔が力を吸収するために、一部を悪魔にした感じだろう」

「完全な悪魔じゃないのか」

「……それって、ヤバいんじゃないですか?」


タピオカの言葉に俺は頷く。


それが本当なら、こいつらだけって事はないだろう。

ゼロ達が向かった帝国側の兵士も、こうなっている可能性が高い。


そんな5万の軍が街に入ってみろ、虐殺されてどれだけの力が大元の悪魔に吸収されるか……。



俺はすぐゼロに、そっちは大丈夫かチャットを送ると……。


『いや、かなりマズい事になってる』

『どうした? 兵士達が変身したとか?』

『なんだそれ? ヒーローかよ。って、違う。魔の領域の森の一部が更地になっちまった』

『は? 相手が広域魔法でも使ったのか?』

『……アイドールと俺です』

『ん? 何が?』

『だから、アイドールの魔法と俺の技で森の一部が更地になっちまったの! 後でヒヨに怒られる!! なんとかしてくれ!!』


なんじゃそりゃ。

てっきり帝国の兵士が悪魔化したのかと思ったじゃん。


『どれくらい片付いた?』

『まだ半分も終わってないが……』


チャットが途中で終わってる。

何かあったのか?


と思っていると。


『なあ、兵士の眼が赤くなって黒い靄を纏っているんだが?』

『そっちもか』

『って事はキジの方もか?』

『ああ、それは……』


簡単に悪魔の眷属みたいな状態になっていると伝える。

やられたらステータスとスキルレベルが初期値に戻る事も。


『マジかよ!? 兵を引かせないとヤバい』


あっちもなったかぁ。

こっちは片付いたし、応援に向かうか。



倒してもスキル取得出来ないんだけどねぇ。

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