第2話 最強の兵士?

「落ち着けお前ら」


奴らに突っ込もうとする螺旋とミルクを止める。


「ただ突っ込めば、タピオカの二の舞いになるぞ」

「……あの銃弾は弾けないのか?」

「たぶんさっきみたいにやっても弾けない」

「なんで分かるの?」

「あれはおそらく悪魔のスキルだ。ただ掠っただけでも呪いを受ける可能性がある」


そう言うと2人は納得し、どうするのか聞いて来たのでここは……。


「ハンゾウ、やれ」

「承知」


ハンゾウで前に出て両手で印を結ぶと兵士の影から影分身を出し、見える範囲の兵士の首を狩る。

勿論魔力を流してだ。


「……分身か? ヤバいな」

「どんだけ敵が居ても一瞬だねぇ」


実はそうでもない。

これは実力が近い相手だと簡単に避けられるし、分身を消される事もある。

まあ、雑魚処理には丁度良いけどね。



悪魔になったからなのか兵士達は、恐怖心というものが無いようで、一気に仲間が殺されようと後続の兵士が次々とやってくる。


すると後方部隊の兵士が、あの赤黒い銃弾を撃ってきたので、身体を横に逸らし避けた瞬間、全身の力が抜け、その場で片膝を突いてしまう。


「キジ丸!?」

「当たったの!?」

「いや……避けたけど」


なんだ?

避けたはずなのになんで力が入らない?


状態を確認しても特に異常は無いし……ん?

微かにHPが減ってる?

しかも、今も徐々に減ってるって事は、何か攻撃を受けているはずだけど……。


空間感知と魔力感知で周囲を確認するが特に何も無い様子。

訳が分からん。


「ん? ……おい、地面の下に何か居ないか?」


と、螺旋が周囲を警戒しながら言うとミルクが、確かめるようにしゃがみ込み地面に触れる。


「これは……なんだろう? 生物じゃない気がするけど、何かあるね」


空間感知と魔力感知では何も無かったぞ?

地面……。



すると隊長らしき男が。


「クククッ、我々は新たな力を手に入れたのだ。誰にも負けない最強の兵士が生まれる!!」


次の瞬間、あっちこっちで地面の土や周囲にある木とその根が盛り上がり、徐々に人の形を作りだす。


「さぁお前達、テアード王国に繁栄を!!」

『UOOOOO!!!』


土や木の根が集まり人型になったモノは、男の言葉に答えるように低い唸り声を上げる。


魔物のせいで周辺は殆ど木が無くなり更地状態だ。

しかし、隊長は悪魔に操られているのか洗脳されているのか、自分達が悪魔になっている事に疑問を抱いていないようだな。



「なんだこいつら?」

「召喚かな?」


その間に俺の身体に力が入るようになり、減少していたHPも止まる。

なんだったんだ?


まるで毒沼に入ったようなダメージ……いや、そうか!

俺は目の前に居る人型の魔物を見て理解した。


「あいつらは死霊だ」

「死霊?」

「死霊術士が居るって事?」

「いや、おそらく悪魔のスキルだと思う」


霊視で見るとよく分かる。

あいつらの中に死霊が入っている事に。

そして、地面の中にまだ大量の死霊が居る事も。


俺のHPが減って力が入らなかったのは、こいつらにドレインされていたからだ。

てっきりあの銃弾が原因かと思ったが、やっぱり違ったな。



「まさか死霊を引き連れているとはな」

「さっき死んだ兵士の死霊かもしれねぇぞ?」

「いや、それは無い」

「なんで言い切れるの?」


悪魔になった人間は死霊にはなれず、魂ごと消滅する。


「マジか」

「悪魔が死ねば転生は無いって事?」

「それより来るぞ」


土と根っこで出来た人型の魔物が見た目とは違い、結構速い動きで迫って来たので俺達は、その場から姿を消すように移動し、魔物を殴り、蹴り、斬っていく。


だが、魔物は破壊されてもすぐ再生し、次々と襲い掛かってくる。


「こりゃあ、埒が明かないぞ!」

「なんで光属性でも死なないの!?」


そう、ミルクが言うとおり、俺も回復属性と光属性で攻撃をしているが、まったく効いている様子が無い。


死霊なら回復属性と光属性で倒せるはずなんだけどな。

普通の死霊じゃないって事か?


そこで一応看破で見るが、こいつらはゴーレムとしか出ていない。

しかもたったのCクラスだ。



1分程魔物と戦いながら観察をしていると、ある事に気付く。

こいつらを斬った後、再生する時に黒い靄が微かに発生している事に。


あれは瘴気?

なんで死霊が瘴気を……あっ、そうか!


「こいつら、全員悪魔だ!」

「は? 死霊じゃねぇのか?」

「どういう事!?」

「あの兵士達と同じだ。死霊を悪魔化してる」

「はぁ!? なんだそれ!?」

「悪魔の死霊なんて聞いた事ないんだけど!?」


俺も初めて見るよ。


でも、瘴気が出てるって事は間違いなく悪魔だ。

悪魔の死霊……まさに悪霊!

って、そんな事はどうでもいい。


悪魔と分かれば簡単だ。


「いいかお前ら、魔力を流すタイミングが大事だ。死霊だから光か回復属性にしろよ!」


俺はそう言いながら目の前の魔物の胴体を切断すると同時に、回復属性の魔力を流す。


すると魔物は再生する事なく、塵のようになり砕け消滅。



螺旋達を見ると最初は流すタイミングを掴めなかったようだが、徐々に魔物を消滅させていき、数分後にはまだ残っている悪魔の兵士達が、俺達を囲んでいた。


「さぁ、ここからだ」

「まだまだ戦えるぜ!」

「全員倒してタピオカの仇を討つ!」


いや、リスポーンしてるってば。


試しにチャットを送ると。


『全部初期値に戻ってましたぁ~。でも、職業と召喚獣はそのままなので、今向かってます! って、螺旋とミルクには念話で言いましたよ?』


俺は2人をジト目で見る。

そういう事は報告しろよ。


って、戻ってる事を知っていてミルクはまだ仇とか言ってるのか。

よっぽどタピオカがやられた事に怒っているようだな。

まさか、兄の友達に惚れている?

仲良さそうだしね。



「タピオカが戻って来る前に、片付けよう」

「おう!」

「そうだね……って、連絡来た?」

「チャットを送ったら戻ってるって『お前らに念話で言った』と返事が来たけど?」


ジト目で見ると2人は目を逸らし。


「まああれだ、魔物の相手が忙しくてな」

「そう! 忘れてた訳じゃないよ?」

「……まあ良いか」


そう言うとホッとする2人。

俺はそれよりも、こいつらを片付ける事を優先する。

悪魔化した兵士なんぞ害でしかないからな。



なのでここからは、全力でいかせて頂きます!


「ハンゾウ」

「はっ」


俺の背後に出したハンゾウに。


「全力でやるぞ」

「御意」


そう言ってハンゾウの分身を増加法で100体作り、周囲に散開させる。


「おお、大量のハンゾウだ」

「やっぱり忍者って凄いねぇ」


俺は本体のキジ丸で首をコキっと鳴らしながら前にでると、2人に告げる。


「大技を出すからちょっと下がっててくれ」

「おう!」

「オッケー! どんな技かな?」

「ハンゾウも居るから、あの隕石とか?」

「この辺りが吹っ飛ぶじゃん」


誰がするか。


今回の技は、大量の敵を仕留めるために作った技を、たった今悪魔用に変えたものだ。

上手くいくかは分からないけど、たぶん大丈夫。



全ての分身が両手で印を結び、俺自身は体内に神気で印を書くと刀を抜き、腰を落とし構える。



影明流秘奥義・安殺領域あんさつりょういき黒糸こくし



その瞬間、無数の黒い糸の檻が兵士達を囲んだ。

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