第3話 怪しい街。

サテルと話をしていろいろ分かり、これは急がないと危ないと思いそろそろ行く事と告げ、家を出るとサテルが玄関まで見送ってくれた時、ある物をくれた。



「これを持って行きな」

「これは?」

「マナ結晶を鎮める術式さ」


活性化させる術式を知ってるなら逆も知ってるか。


「精霊に効くかは分かんないけどね。もし発動しそうになったら何が何でも止めな、じゃないとこの世界は滅ぶよ?」

「うむ、拙者もそのつもりだ。全員殺してでも止めてやる」

「あたしはもう歳だからね。何も出来ないが無事に済むよう祈ってるよ」

「任せておけ、では……」


俺は玄関先で影に潜り、家から離れた場所に転移するとカゲを念話で呼ぶ。


『周囲の様子は?』

『問題ありません』

『話が終わったから出発するぞ』

『はっ!』



すると俺の影から出て来るカゲに乗り、空を駆けバルデン連邦に入る。


サテルは精霊を使った兵器の作り方を知っているようだが、危険性に気付き作るのを中止したので、始末はしない。


一応心眼で兵器の事を知っているか色で見たけど、色は青だった。

おそらくバルデン連邦が作った兵器とは、まったく違う兵器なんだろう。

なのでサテルは放置だ。


誠実そうだしな。



バルデン連邦に入り、広がる大地、山や森、草原と丘、山から流れる川を眺めながら進み、先ずはこの国の事を調べないと何も分からないので、どこかの街へ寄る事にし、空から街が無いか眺めながら進んでいると、遠くに見える山の向こう側に、何やら蒸気のような物を吐き出している街を発見。


とりあえずそこへ向かってもらい、近づいて行くとはっきりと分かる。

滅茶苦茶大きな工場っぽい街。


大きなタンクのような物や、直径数メートルあるパイプが何本も通っており、至る所で機械が動き蒸気を噴き出している。


まさにスチームパンクといった感じの街で、全体的に鉄の街って感じだ。

かなり技術が進んでいるようだな。


街の中心には、数百メートルある巨大な機械があり、頂上では常にポンプのように動き、何かを地中から汲み上げているようにも見える。



街まで数百メートルの所に来るとカゲが。


『何やら変な臭いがしますね』

『臭い? ……ん? 微かに硫黄っぽい臭いがするか?』

『あの街から出てる煙が臭いの元のようです』


蒸気以外にも煙をモクモク吐き出してる煙突が街の至る所にあるので、きっとそれだろう。


何を作ってるんだ?

化学薬品?

まあ、自然にとってはあまり良い物とは思えないな。

人体にも。



街は山を越えた盆地にあり、周囲を山が囲っている状態。

周囲に人が通っている様子は無く、鉄の高い壁に囲まれている。


街道に降りようかと思ったがどうやら街道は無く、あの街に続く道が見当たらない。


これはもしかして、秘密の街みたいな感じか?

外からアクセス出来ない街。

怪し過ぎるでしょ。


俺は街から少し離れた場所に降りてもらい、カゲを帰すとすぐ影に潜り、一旦外壁の傍まで転移して様子を伺う。


影の中から周囲を確認し、目の前の壁を見上げる。

たけーな。


どうやら周囲に何も居ないようなので、影から出て改めて周囲を見回す。

すると外壁の近くの地面は土になっているが、数メートル離れると草地になっているのだが、その草地の草が茶色く枯れている事に気付く。


よく見ると街の周囲、壁沿いにある草地の草が全て枯れているのが分かり、これは明らかにこの臭いのせいだと分かった。



俺は影に潜ると影渡りで街の中にある影に転移し、周囲を確認するとそこは、建物の間にあるジメジメした薄暗い路地裏で、建物の壁には大量の配管と、路地裏に垂れ流しされている謎の液体が目に入り、顔を顰める。


するとその液体の臭いが強化された鼻に届き、洗剤のような匂いがした。

この建物で使われている洗濯物の汚水か? と思ったが、その液体を看破で見るとどうやらこれは、洗浄液というのは分かったが、何を洗浄するのかは書かれていない。


そこで俺は、空間感知で建物の中を確認。

それで分かったのはこの周囲にある建物は、全て工場だという事。


中に何やら人が大量に居て手作業で何やら作っている様子が分かる。

生産工場?

もっと調べてみないと分からないな。


俺はそこで、1人で居る人物を空間感知と魔力感知で発見し、そいつの影に転移すると周囲を確認。


どうやらこいつは上の立場のようで、良い執務机と大きな椅子に座り、葉巻のような物を吹かしているオッサンだった。


部屋は壁沿いに本棚が並び、ガラス扉が付いた棚の中にはライフルのような物や、剣等が飾られている。

床は絨毯が敷かれ、かなり豪華な部屋なので、上の立場なのだろうと分かったのだ。


看破で見ると名前は『ベルック』で、職業は『錬金術師』だ。


服装は紺色の軍服みたいな感じで、おそらくこの工場の制服っぽい。

金髪のオールバックで、切れ長な目をし、性格の悪さが滲み出ている顔だな。



俺は部屋の外に転移し、適当に変装で顔を変え、同じ服装にすると扉をノックする。


『……何だ?』

「すみません『あの件』でお話が」

『入れ』


おお、あの件で通ったよ。

悪い事してる奴の常識だな。


扉を開けて中に入るとベルックは怪訝な表情をし、口を開く。


「誰だお前? どこの部署だ?」


俺は答えながら執務机まで歩いて行く。


「はい、私は処理をしている部署の者です」

「処理? あぁ、で? 何の用だ? 私は忙しいんだ、さっさと要件を話せ」

「では……お前の顔を貰おう」

「はっ? 何言って……!?」


後ろに回した手で印を結び、不動金剛術で奴を動けなくすると執務机を迂回し、奴の隣まで歩いて行き、顔を近づけ。


「……じゃあな」


魔糸を首に巻き付け切断するとすぐ収納し、クリーンで血を綺麗にすると奴の顔と声に替え、豪華な椅子に座り机を物色する。


どうして変装して奴に近付いたかというと、奴の声を知りたかったからです。



重ねられた紙の束や、纏められている資料、引き出しの中を漁りながら煙草を吸っていると、扉をノックされた。


やべ。


「誰だ?」

『すみません、材料の発注に問題がありまして』

「入れ」


そして入って来た男は、小太りで眼鏡を掛けた男。

服装は俺と同じ型だが色が白だ。


ペコペコ頭を下げながら前まで来ると、資料を手渡してきた。


「すみません、部下が発注ミスをしてしまいまして『オルカバの油』が大量に届いてしまったのですが……どうしましょう?」


オルカバの油なんぞ聞いた事もねぇな。

何に使うんだ? と思いながら考えるフリをして資料に目を通すと、オルカバの油という項目の横に『中和剤』と書かれているのを発見。


油を中和剤に使う?

まあ、よく分からんがここは。


「うむ……発注してしまったなら仕方ない、倉庫に入れておけ、私が何とかする」


すると男は目を見開き口を開けて固まる。


「どうした? 今は忙しいのだ、そんな事で一々私に聞くな、ほれ、さっさと行け」

「あ、あっ、ありがとうございます! 首を斬られるかと思っておりました。数日前に突然何人かが故郷に帰ると言って辞めてしまったので人手が足りなく、今回の発注ミスも元々担当していた者が辞めてしまったのが原因でして……あっ、長々とすみません。失礼します!」


そう言って男は部屋を出て行き、それを見送った後俺は思う。



首を斬られるって、物理的に首チョンパって意味じゃないよな?

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