第2話 マナの結晶。

玄関から中に入るとリビングのようになっており、ソファとテーブル、壁沿いには棚が置かれ、色んな物が飾られあっちこっちにオレンジ色の柔らかい灯りが点いていて幻想的な雰囲気がある。


壁には盾のような物が飾られ、その横には剣が2本。

そしてその下には、木で出来た長い杖が飾られているのが視界に入り、やはりここは魔女の家だと確信した。


いや、分からないけどね。



立ち止まって部屋の中を見回していると、奥に続く入り口からスッと長い白髪の黒いローブを着た婆さんが杖を突いて姿を現す。


「何を突っ立っておる、ほれ、そこに座りな」


そう言ってソファを顎で指すので忍者姿のまま座り、こんな事ならキジ丸で入れば良かったと思う。


婆さんは対面に腰を下ろし、いきなり手元にカップを取り出し、俺の前に置く。


「お前は異界人か?」

「ん? あぁ、今のは収納魔法だよ。あたしはこの世界の住人さ。お前さんは異界人のようだね?」

「っ!? よく分かったな」

「これでも長い事生きてるからね。視る目はあるよ」

「すまんな、この姿で茶は飲めんのだ」

「そうなのかい?」


俺は掟の事を軽く説明する。


「はぁ~、難儀な掟だねぇ、影の者にそんな決まりがあったとは、長く生きてるけど知らなかったよ」

「拙者は忍び故名は無いが、ハンゾウと呼ばれている」

「あぁ、あたしは『サテル』だよ」


俺はこっそり看破で見る。

すると。


名前はサテルで、職業が『白の魔女』となっていた。

やっぱり魔女だ!!

と、叫びそうになったが堪え、冷静に話を続ける。


「サテル殿はここで何を?」

「まあ、隠居だね。人との関わりが煩わしくなってねぇ」

「ほう……ん?」

「どうしたんだい?」

「いや、ちょっと何か引っ掛かってな」


サテルは首を傾げる。

俺も首を傾げる。


何だ?

魔女が何かあったっけ?

いや、名前の方か?

……あぁ、サテルってどっかで見た事あるような?


「すまないがサテル殿は、何か本に書かれるような、有名な人物だったりしないか?」

「あたしの名前が書かれるとしたら、歴史か兵器関係の本だね」

「兵器? ……あっ! エレティアの制作者!」

「おや? あたしがエレティアの制作者とよく知ってるね? 情報は出さないように頼んでおいたけど、どうやら出てしまったようだね」

「いや、拙者がエレティアをスキルで視て知っていただけだ」

「ほう、鑑定を使えるのかい、若いのにやるねぇ、流石異界人だ」



俺はなぜエレティアの制作者がこんな所に居るのか気になり聞くと、兵器を開発した事への罪悪感と兵器によって殺された者の遺族から恨まれていると思い込み、人との関わりを捨て、こうして隠居しているとの事。


「エレティアに使う弾は、マナの塊らしいが、そのような物を作れるのか?」

「ああ、あれは大地の地中深くにマナが長い時間を掛けて集まり、固まった物を使ってるんだよ」

「つまり自然に出来た物を加工して使っていると?」


頷くサテル。


なるほど、どおりで弾の値段が高い訳だ。

希少な鉱石を使ってるなら納得。


「ん? 珍しいね、あんたも持ってるじゃないか」


そう言って俺の腕を見る。

視線を追うとそこには、閻魔鉱で作った腕輪があった。


「……ん? これは閻魔鉱と呼ばれている鉱石だが、これがマナの塊だと?」

「ああ、その色は間違いないね。重いだろ?」

「確かに普通の鉱石より重いが、これがマナの塊?」

「地域によって呼び方は変わるけど、それは間違いなくマナの結晶さ」


閻魔鉱がマナの結晶……マジ?

あっ、なるほど!

だから神気で硬質化した時、閻魔鉱とそっくりの色になったのか。


神気はマナ、マナは神気だ。

ん? って事は、マナの結晶を作れるのでは?



そう思い俺は、HPを1000消費すると全ての神気を掌に集め、固めるイメージを流す


すると掌に金色の光が集まり、BB弾サイズの紫っぽい球が完成。

小っさ!?


「なんだい今のは? ……それは、もしかしてマナの結晶かい!?」

「ああ、今自分で作ってみたが、小さ過ぎるな」


これじゃ弾には使えない。

しかしサテルは。


「何馬鹿な事言ってんだい! マナの結晶を人が作るなんて聞いた事も無いよ! しかもその色……普通の結晶とは違うね」


そう、俺が作った球は黒銀と言うより、紫が強い。

これはおそらく俺の色が着いているんだろう。


「あんたは精霊人かい?」

「精霊人とは? 精霊獣の人って事か?」

「いや、精霊人はマナを扱える者の事をそう呼ぶんだよ」

「それは、覚醒者の事ではないか?」

「覚醒者? なんだいそれは?」


おう、まさに地域が違うと呼び方が変わるんだな。


俺は覚醒者の事を簡単に説明する。

するとサテルは。


「あぁ、確かに他の人には使えない能力を持ってたね」

「会った事が?」

「かなり昔だけど、他の大陸から来た者がそんなのを持ってたよ」


ほう、別大陸からユニークスキルを持った奴が……って、忍者の始祖じゃないよな?

時代が違うか。



「それに、その色はおそらく出来る過程が違うからその色になったんだろうね」


俺は首を傾げ、詳しく聞くと自然の結晶は、地中の成分を一緒に取り込んで結晶になっているので、黒銀になるとサテルは言う。


なるほど、だから俺の色がそのまま出たんだな。


俺はずっと閻魔鉱は、ただ重いだけの鉱石かと思ってたけど、こっちの大陸では既に正体を解明し、それを加工して武器に使っているとはね。

俺も刀に使ってるけど。


マナの塊だとは知らなかった。


「この腕輪も爆発するのか?」


俺は自分の腕輪を見て聞くとサテルは、笑いながら答える。


「いや、マナの結晶に直接衝撃を与えても爆発する事は無いさ、それを活性化させるには、術式が必要だからね」

「術式……エレティアにはそれが?」


頷くサテル。


「バルデン連邦が精霊を兵器に使っていると聞いたが、それは可能なのか?」


するとサテルは鋭い目つきをし、静かに言う。


「それは本当かい?」


俺は頷く。


「精霊を兵器に……馬鹿な事をしたもんだね、そんな事をしたら世界が滅ぶよ」


おお、神(管理AI)と同じ答え!

神ですか?



すると間を置いてサテルが告げる。


「精霊を兵器に使うと精霊は、マナを失い魔物化するからね」

「……ファントム?」

「ファントムってのはなんだい?」

「精霊や妖精が魔物化したものをそう呼ぶ」

「そうだよ、精霊を兵器に使うなんてしてみな、マナを失った精霊は魔力を吸収してその、ファントムってのになっちまうさ」


えっ、それってやばくね?

確かファントムって自然災害の比じゃないってギルマスが言ってたよな?


「あたしも昔はそんな事を考えて試そうとしたけどね、途中で気付いて止めたのさ……そこに手を出せば世界が滅ぶってね」


うげ、これは兵器を使われる前に国を滅ぼさないとヤバいな。



作った奴、マジサイコパス。

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