第2話 気配察知。

サスケさんが消えると突然目の前の空中に、巻物が1つポンッと現れた。

横向きに浮いている巻物を手に取ると目の前に半透明の画面が出てくる。



『職業クエスト:森で2週間、飲まず食わずで生き残る事。

     備考:魔法・スキルは使用不可。

     追伸:全てを使って生き延びろ。  忍び頭 サスケ』



すると、インベントリに入れる方法なども表示される。

なるほど、触れて『収納』と念じれば入れられると、出す時はリストから出すかショートカットに入れていれば念じると出せるのか。


便利だな。

巻物は収納すると自動的に受注した事になったようで、クエスト欄に表示された。

現実感があって偶にゲームの中だと忘れそうだが、こういう機能のお陰でゲームだと認識できる。



「さて、2週間どうするかな」

飲まず食わずなので、食料等を探す必要は無いしなぁ。

拠点となる場所を確保するくらいかな?

夜は魔物が多そうだし、夜は強い魔物が出るとゲームの定番もありそうだ。

そう思いながら森の中を歩き出した。





あれから暫く歩いているが、森の中で草履は歩きにくい。

何か固定できる物は無いかとその辺りを見渡すと、木に巻き付いた蔦を発見。


「これなら使えるかな?」

サバイバル系のゲームならこれを素材にローブとか作るんだろうけど、このゲームはリアル志向なので自分の手で作るしかない、って言うか今はスキルを使えないんだった。



そう思って力いっぱい引っ張って千切ると、草履と足を一緒に巻き付ける。

土踏まずの所以外に蔦を巻いて頑丈にしてみた。



巻き終わりその場でジャンプして確かめると、結構良い感じになったと思う。

草履が蔦靴になった! みたいな?


「これならいいか」

動きやすくなったので歩き始めようとすると、前方にある茂みの中から大きな猪っぽい生き物が出て来た。


大きな2本の牙が口から下に向かって伸びており、額は岩肌のようになっている。

まさに魔物!!


「ってマジ?」

デカい……俺よりデカいんですけど!?

軽ワゴン車程あるぞ?



「ブフォッ!」

俺が固まっていると猪は、足で地面を蹴って土埃を上げている。

突進する気満々ですよね~。


そう思った瞬間、猪が物凄い速さで突進してきた。

軽トラが突っ込んで来るような感覚だ。

しかし、俺にも現実には無いステータスがある!


とりあえず横に飛んで躱そうとするが間に合わず、思いっきり体当たりされて吹っ飛んだ。

「ぐはっ!」

俺は木に思いっきり叩きつけられそのまま地面に落ちる。



めちゃくちゃ痛いんですけど!?

そんな事を思っていると意識が朦朧とし、視界が暗転する。


気が付き目を開けると、森の中に横たわっていた。

ハッとなり身体を起こして周りを見るが猪は居ない。

いや、俺が別の場所で蘇ったのか。



「はぁ~……あんなのがいる森で生き残れって」

こちとら魔法もスキルも使えないんだぞ!

めちゃくちゃ痛ぇし。


しかし、痛覚設定を100%にしないとこの感覚が現実と変わるんだよなぁ。

折角のフルダイブだし異世界として楽しみたいんだよね。


痛覚が100%でも現実よりは多少抑えられてるらしいけど……これは今までのゲームと違うのは間違いないな。


以前あったゲームのように、死にまくりながらの攻略は止めた方が良さそうだ。


「まあ、痛みにはその内慣れるか」

人間とはそういう生き物だしな!




それよりもどうやって生き残るかだな……。

さっきは魔物が近づいて来るのに気付けなかったからやられたんだ。


こういう時に気配察知のスキルがあればいいんだろうけど、今はあっても使えないしなぁ。

地面に座り込んだまま暫く考えて、ある1つの考えにいきつく。



スキルを使えなくても、自分で気配を感じればいいんじゃね?


このゲームは感覚などは現実と変わらない。

なら、気配を感じる事も自力でできるのでは?

そこまで考えると、サスケのあの言葉を思い出した。



『全てを使って生き延びろ』



そういう事か……ゲームの中だけじゃなく、現実の自分の力も使えって事か?

まさにプレイヤースキルを使えって事だな。

いや、むしろこれはプレイヤースキルを鍛えるいい機会かもしれない。


そうだ、魔法やスキルが使えないなら、自分の技術を磨くしかないよな?

「はは……楽しくなってきた!」

自然と笑みが零れる。


この現実じゃ経験できないサバイバル。

生きてるって感じるこの感覚。

最高か!!



さて、先ずは気配を感じる事から始めないと、魔物に速攻で殺されるな。

気配を感じる事は誰にでもできる。


例えば部屋に居て、隣の部屋に人が居るか居ないかを感じる事が出来るのも、気配を感じるという事だ。


生き物が出す音や呼吸音、行動する時の感情や脳波という物は、自然と人は無意識に感じ取っている……と思う。

今までの人生経験からの答えだ。


それを意識すればやってやれない事は無い……はず。



さっそく周りの気配に集中する。

よし、特に何も居ないな。

歩き始めると、木の陰から大きな熊に襲われリスポーンしました。


ちなみに、このチュートリアルの間はデスペナルティがないようだ。



その後も、幾度となく魔物に殺されては気配を感じると言うのを繰り返していると、十数回リスポーンした頃には何となく分かってきた。


最初は気のせいかと思える事も徐々にハッキリと確信に変わっていく感覚。

そんな事を繰り返して6日目の夜。

ログアウトの時間がやってきた。



GFWは時間加速が適用されていて、現実時間の1時間がゲーム内では1日となっている。

そして最長ログイン時間が7時間となっているため、ゲーム内6日目の深夜0時、7日目になった瞬間、強制ログアウトになるのだ。


強制ログアウトをすると、再ログインには1時間経たないとできない仕様だ。

なので、強制ログアウト前に一旦ログアウトする。



このゲーム、街中以外でログアウトするとアバターが残る仕様で、こんな森だとログインしたら死亡していたとかになるんだが、既に死にまくっているので気にしない。

好きなだけ俺のアバターを食ってくれ。



ログアウトし、風呂や晩飯等を済ませログインする。



目を開くとまた別の場所になっているので、おそらく食われたのだろう。

死にまくっているのでクエスト達成時間はリセットされている。

死なずに2週間、生き残れるのか?




その後、プレイヤースキルを鍛えながら死ぬ事を繰り返すが、ゲーム内で2ヶ月程経った頃。

俺は漸く気配を感じられるようになった。

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