第6話 1ー紅時4 花魁下駄
若紫がおかあさんに会う為に一階迄降りてきた。
自室から出ない花魁に驚きつつも、打ち掛けの豪華さに皆、振り返った。
花魁道中の装具である。明るめの紫の着物に紅色の入った打ち掛け。銀糸の刺繍がされている帯。
紅時は障子の前に座ると、「おかあはん。若紫が相談したい事がありんす。」と声を出した。
「お入り。」
くぐもった声が障子からする。
紅時が開くと、若紫が先に進んだ。
おかあさんは台帳を見つめながら、若紫の顔を見て立ち上がった。
「うむ。悪くないね。着付けも髪も天都で見たよりも華やかだわ。で、白粉も塗ってあるのだから、何がしたいのか御云い。」
「紫様に高下駄を履く練習をさせて下され。」
紅時が喋った。
「花魁が倒れたり、下駄が脱げたら、また妓楼からやり直しだったらしいね。二階の廊下に呉座を引きな。其処で練習を、おやり。手乗せに屈強な男がいるね。一番背が高い奴を貸すよ。全く花魁下駄が履ける様になるのは三年掛かるってのに、二週間しか猶予を与えない伊勢の旦那さんもよくやるよ。明白な嫌がらせだよ。全く。外八文字が出来るまで脱ぐんじゃない。此の看板に泥は塗らせるなよ。」
「おおきに。なら天都で働いてた楼主も貸しとくれやす。」
「何に使うんだい。」
「所作を変えないと着物に埋もれてしまう。此の様な重い着物で舞など舞えないえ。」
「あい、分かった。」
おかあさんは手を二回叩いて、楼主を呼んだ。おかあさんとは違い温厚そうだか眼だけが笑っていて、光がギラついている男が出て来た。
「江戸吉原で教わった技術をおせておやりよ。」
「此の着物では花魁は何もでけへん。周りの仕事を禿がやるだけや。夕顔も連れて来るのやろ。舞踊や遊びは夕顔に任せなされ。花魁道中はまず茶屋に迎え行き、帰りも道中で帰る。体力勝負や。まず、高下駄に馴染まんとな。喜助、御前が手乗せや。二週は練習や。楼主に恥をかかせるなよ。」
下女達が呉座を持って、二階に上がる。面白そうに女郎達が覗き込んでいる。
おかあさんは二度と手を叩き、「御前等は昼見世だろ。早くおし」と急かした。
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