第4話 1ー紅時2 廓のあさげ
女郎を掻き分けて、あさげが出る水場の最前列まで来た。
他の女郎は怒声を上げながら、飯と汁を踏んだくっで行く。
「紫様のあさげを下さい。」
御膳台に乗っているのは、菜物、飯、汁物、香物だけだった。
「私の分も乗せて下さい。早く。」
紅時は苛立ち。自分が幼子なのが口惜しかった。
「禿の分は終わったよ。」
明白な嘘。
「終わってない。乗せて下さい。」
「五月蝿いね。無いものはないよ。」
紅時は仕方なく下がった。花魁の禿と云うだけで嫉妬は凄まじい。彼女は知っていたし、虐められるに慣れていた。
禿の飯は粟しかない。それすら貰えない日々が続いている。
使えている若紫の御膳は一つしかない。
「ごめんやし。」
紅時は、直ぐ様壁に背を貼り付けた。新造の女郎が紅時を思いっきり押したからだ。汁物が御膳に零れる。だが、まだ食べられなくはない。
「かんにんえ。」
言葉と同時に紅時が新造の足を払ったと同時に、御膳から右手を外してから、後ろに力一杯押した。女郎は上体を揺らし、睨み付けて来た。
其の隙に、他の女郎が二人に割って入る。
「若紫様のあさげやろ!花魁の食べ物に何ばするとか!」
紅時は着物の柄で、新造の夕顔だと分かった。紅時と同じ花魁に使えている身分である。
「なんや!」
紅時にいけずをした女郎が叫ぶ。
「紅時。
鼻におできのある女郎が手招きする。紅時は直ぐに廊下の角を曲がった。
「又、あんたは目を付けられ易いのだから、あさげ等新造に任せれば良いだろに……。」
「朝一で動けるのは禿の私位ですから……。」
「禿でもあんたは美人過ぎるよ。其の上、花魁の御気に入りだし……。夕顔に伝えとくから、朝夕は自分の分だけ貰いなさい。あんた。又あさげ自分の分だけ貰えなかったの……。もう!どうせ、おかあはんに云っても、裏口合わせるだけだろうし、禿と二人分はくれないだろうし……。」
紅時が御膳を持って先に進む。
「あさげが冷める。
「私はとっくに食べてるさ。後、末摘花は辞めとくれ。私は花魁の御抱えじゃないのだからね。若紫は私よりも若く、歴は私が上さね。」
「でも、部屋に遊びに来てる。」
「何だかんだで顔が広い奴はどの廓には、いるものさ。」
「まあね。末摘花がいけずしてるの見たことない。」
「楽しいのかね……。私には解らんがね。」
二階の階段を登って行くと突き当り迄進んだ。襖を開くと、花魁が煙管を吹かしている。
カンと灰を捨てる甲高い音がした。
「御前が居たなら、何かあったな……。」
末摘花がおできの鼻を擦った。
紅時が御膳を若紫の前にゆっくりと置いた。
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