第3話 節

 これは令和時代の物語。


 彼の姿を探しては迷子になる。

 心も体も無くなってしまいそうな感覚。


 彼は側にいるのに遠くを見ている気がする。

 女の感がそう述べている。


 疑心は安易に伊藤節いとう せつを苦しめる。

 自分を一番好きな人が、相手は一番をこうに渡している。不安は憤りに変わる前に、子供を身籠った。

 節は“ごめんなさい”と謝れなかった。彼の想い人を私も知っている。過去に何があったかも知っている。


 絆がどれ程強いかも知っている。だから、女である自分が彼との間に子供が出来た事を後ろめたく感じる。


 紅に一生出来ない事をした。女でなければ出来ない事をした。だから、夫である伊藤秋継いとうあきつぐに謝れなかった。

 紅には頭を下げるべきか悩んでいる。寝取ったのは、自分だと言うのを少し違う気がするからだ。


 腹で胎児が胎動をおこす。


「大丈夫よ。もう、寝なさい。」


 節がお腹を擦ると、直ぐに動きが止まる。

 母とは心が繋がっている様だ。紅の事を思い出すと必ず反応を示す胎児。


「大丈夫か……。腹が張るのか?」


 秋継がベットから上体を起こした。まだ目が開き、きっていない。寝ぼけている。


「大丈夫。明日も早いのだから、眠って……。」


「何かあったら、起こしてくれ。」


 秋継は枕に顔を埋めた。直ぐに寝息を立てている。




 節は彼を起こさない様にベットから立ち上がると、部屋を出てダイニングテーブルのある居間に出た。

 キッチンで水を飲んでから、ダイニングテーブルにコップを置く。


 眠れそうにない……。

 不安な夜は何時もそうだ。


 スマホの画面をタップする。ラインを起動し、時宮律之ときみやりつのにメッセージを送る。


 数分経つと、スマホは着信音をバイブレーションで伝えた。


「え。起きてるの?」


 直ぐに節は画面をタップした。


「お久しぶりです。田所さん。」


「間違えてるから……。」


「ああ、名前が旧姓でしたね。でも、私に電話なんて、珍しい……。お二人で仲良くやってるのではないのですか?」


「仲はいいわよ。でも、不安なだけ……。」


「受験の中学生にする話ではないと思いますが……。まあ、ホルモンバランスの異常でしょうね。明日、産婦人科に行くべきです。」


「適切でいいわね。安心するわ。」


「先生が馬鹿なだけですよ。紅を心配するなら、晴がガードしてますから、不安がる事等ありません。今世は晴が強い。流石、慶吾隊の隊長ですよ。曇りが全くない。」


「確かに……。秋継の側に、律之くんが居てくれて安心するわ。仕事場まで着ける訳にもいかないしね。」


 節は微笑んだ。


「受験生の副担の先生の方が大変ですよ。特に女子が……。結婚したのを知ってるのに、粘る娘はまだ居ますからね。」


 取り留めのない話を律之がすると、節は小さく笑った。


 夜は更けっていくのだった。

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