第14話
駅で電車を待つ間、六地蔵は突然つぶやきだす。
「自己満足で書いておりますので……読まれたいと思っておりません……」
当然、周囲の人は驚く。そんな時は、まだ良かった。
次第にその声は大きくなっていった。
通勤ラッシュの満員の電車内で、つり革につかまりながら突如、六地蔵は叫んだ。
「アマチュアは好きに書くんじゃああッ!! 好きを詰め込むんじゃああッ!!」
周囲の人々は仰天し、電車内は異様な雰囲気に包まれた。ただ、それは法的に問題はない。取り締まる事はできない。次第に彼の周りにいつもスペースができた。彼は今度は、そのスペースを埋め始めた。見知らぬ人に近づいていき、脈絡なく話しかけた。電車で隣に座る人に、コンビニで居合わせた人に、道ですれちがう人に。
「拙作を読んでほしいのですね――」
そう言ったかと思うと、
「自己満足で書いておりますので読まれなくても気にしておりません」と言う。
突然、見知らぬ男に、それもあのどこかモアイを彷彿とさせる彼に、そんな事を言われた人の困惑は想像するに難くない。訳が分からなかったろう。
さらに奇行は続く。
ある飲食店で、客が帰ってくれないと警察に通報があった。
警官が駆けつけると、店内の消火栓の赤いランプの前で恍惚の表情を浮かべ、六地蔵が突っ立っていた。彼の中では、消火栓は赤いインジケーターに見えていたのかもしれない。
警官が根気強く諭し、彼を帰らせた。
そして、ある日、極めつけの事が起こってしまった。
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