第10話
六地蔵にとって、カコヨモは「夢の国」だった。
普通の人なら、そうはならなかっただろう。だが、あまりにも孤独で暗い人生を送ってきた彼にとって――作品を書けば、誰かが読んでくれ、イイネがつき、コメントが書かれ、評価やレビューをくれる、やさしいコメントをくれる、彼の挙動に反応してくれる――それは文字通りの「楽園」だった。
かつて、六地蔵が夢見た世界だよ。
本当は――たくさんの友人に囲まれたかった。モテたかった。
本当は――誰かに小説を読んでもらいたかった、評価されたかった。
願望を抑圧した時間が長ければ長いほど、強ければ強いほど、その反動は激しくなる。依存が強くなる。
たとえば――今まで恋愛に縁のなかった人間、恋愛をあきらめていた人間に、恋人ができた時の状態を考えてみればいい。
ほんとは恋がしたかった。恋人がほしかった。しかし、自分には望み得ない。
だから興味のないふりをしてきた。周囲にはもちろん、自分自身にすら。
だが、なんらかで恋人ができた時、それまで長年その身にまとい、染み付いているはずの「恋愛など求めていない」という「偽りの仮面」は、いともたやすく吹き飛ぶ。
逆に、長年抑圧されてきた本音が、奔流の如くほとばしる。
それが極まってしまえば、恋愛のためなら他の全てを犠牲にする。
仕事もやめる、親も捨てる。己の人格すら捨てる、誰かの命を奪う事すらある。
そういう状態になる事を狙って、恋愛と縁のなさそうな異性に近づく者もいる。自分なしでは生きられないよう依存させ、思い通りに操るためにね。
彼にとってカコヨモは、抑圧してきた2つの願望を同時に叶えてくれた場所だ。
「友達がほしい」「小説を評価してもらいたい」という本当の願望を。
六地蔵は依存してしまったんだよ、カコヨモに――。
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