第9話

 彼は総じて、暗い学生時代をすごしてきた。


 いつも教室の隅にいた。いわゆる学校カーストの最下層だ。そこからクラスの人気者たちを眺めた。たくさんの友達に囲まれて、異性に持て囃され、キラキラと輝いている同級生たちを。

 六地蔵は、自分は彼らのようになれないとわかっていた。

 だから本音とは裏腹に、あんな風になりたいとは思っていないと、己に言い聞かせ続けた。

 自分に刷り込むように、何度も何度も数え切れないほど。

 

 中学二年の時、素行の悪い女子グループにつけられた「キモアイ」というあだ名は、瞬く間に学年中に広まり定着してしまった。

 「キモアイ」とは「キモい」と、あのイースター島の「モアイ」をかけ合わせたものだったそうだ。彼の顔がモアイに似ているという理由でね。


 今も彼の深層心理に強烈に残っている出来事がある。


 バレンタインデーの日だ。皆が浮きたつ中、彼は自分には関係ない気にもしていない、周囲にもそう見えるよう祈りながら、教室の隅で縮こまっていた。それこそ地蔵のように。

 なのに教室に、名付け親の女子グループがドカドカと押し寄せてきた。

 彼女たちは教室の入り口から彼に向かって、大声で叫んだ。

 

「おいッ! キモアイ! チョコやろーか?」と。


 どう答えていいかわからない六地蔵が固まっていると、


「やるわけねーだろうがッ! 期待してんじゃねえよ、ブッ殺すぞ! この野郎!! キモアイのくせに物欲しそうな顔しやがって!! おめーはイースター島にでも行って顔だけ出して永遠に埋まってろよ!」


 それだけ言うと、爆笑しながら女子グループは去っていった。まるで突然やってきて理不尽に全てを破壊し尽くし、何事もなかったのように去っていく嵐のように。

 

 クラスメートたちが気の毒そうに彼を見つめる中、六地蔵はうつむき、心の中だけで「死ねッ死ねッ! 愚劣なサタンビッチどもッ! アホアホの低能サタンビッチは即刻死ぬべきなのですねッ! 妖怪をこよなく愛する私の妖術で、いつか呪い殺してやるのでございますねッ!!」そう罵った。

 

 彼の言う妖術は効果がなかったのか、その後も女子グループは溢れ出るパワーで彼をいたぶり続けた。

 長じて社会人になっても、相変わらず誰も、彼に見向きもしない。出勤して帰るだけの日々だ。

 絶望的な孤独の中で、大好きな妖怪にだけ想いを巡らせ、日々をやり過ごす。

 それが彼にとっての日常であり、人生だった。

 

 そんな彼が、カコヨモに出会ったのだ――。

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