第2章 本当の職業

第5話

 このままちょっと外に出て、緑があふれる敷地内の散歩でもしたい気分だったが、そうもいかない。エレベーターホールに向かい、来た時とは違うオフィス階層用のエレベーターに乗りこんだ。


 ポケットの中から特殊なカードキーを取り出し、タッチパネルにかざす。それまで表示されていなかった最上階層が現れ、そのボタンにふれた。


 音もなく、すべるようにエレベーターが高速で昇っていく。

 扉が開くと、居抜きの広大なフロアが広がっている。


 割り当てられた自室に入り、伊達メガネをはずし、六地蔵リクオ専用の名刺を机の中にしまった。

 スーツの上着を脱ぎ去って、ハンガーにかけている白衣を身にまとう。

 白衣姿はだいぶ馴染んできた。鏡に映る自分の姿を少し誇らしげに思う。


 真木さとみは、KADOYAMA出版の社員ではない。インターン中の医師である。

 

 今日の訪問結果を、教授に報告しないといけない。

 インスタントコーヒーだけ入れ、PCを立ち上げて即座に取りかかる。

 つい先程の面会を頭の中で反芻しながら、客観的事実と推察を明確に分け構築していく。

 

 ちょうど終えたところで、内線が鳴った。教授室からだ。


「はい、真木です」

「おつかれだったね」

 受話器から教授の威厳ある声が響く。


「ありがとうございます。今、報告書が出来上がりました。報告に上がってもよろしいでしょうか」

「では、頼もう」それだけ言って、内線は切れた――。


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