第6話

 エレベーターで最上階に上がり、フロア最奥にある教授室のドアをノックした。

 どうぞという声に、真木は緊張しながら入室した。 


 広い――。真木がいま立つ入り口から教授の机までが遠い。

 それでも部屋中に久條錬三教授から発せられる威厳が、隅々まで粒子のように満ちている。

 教授の背後にはガラス越しに市街地の壮観が広がり、教授の右手側の壁には、いくつもの埋込型モニターが整然と並んでいた。

 

「実際に会ってみて、どうだったね」

 そう静かに、やさしく教授に問いかけられた。


「はい。極度に人付き合いが苦手そうな印象は受けたものの、ここに入るほどとも思えませんでした。訪問中、ただの一度も視線が合う事はなく、注意は常にPCに注がれていました。六地蔵さんの頭の中はウェブ小説で占められ、服装や食事などをはじめとして世間一般に対する興味は極めて薄いと思われます」


 こことは――精神のバランスが著しく損なわれ、放置すると自他への危害があやぶまれる患者を、本人にそれと悟られず保護し、24時間管理体制のもと回復を目指す秘密裏の医療センターである。

 人権の観点から強制入院はさせられず、かといって野放しにもできない。拡大自殺の多発など昨今の社会情勢からの苦肉の策だ。


 それぞれの症状に合わせ、可能な限り無理ない形で、経過観察とともに治療を進めていく。六地蔵リクオのケースをはじめ、患者の心の安定を図るため、臨床心理士や精神科医が最も適切であろう役割に扮し、日常的に接していく。


 六地蔵の場合、それは編集担当者だった――。


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