第4話

 100話を超える長編小説の各話ごとに、10000近くのPVが整然と並んでいる。

 そのPVを見つめる六地蔵の顔に、また、ひきつれのようなものが走り、同時に毛虫マユが動いた。

 すかさず真木は言った。「ものすごい閲覧数ですね……」


「自分の好きを追求する。自己満足で書く。この私のスタイルを貫いてきたからこそ、今の地位があると思うのですね。読者や人気は後から付いてくるという事です」


 六地蔵は、にわかに饒舌になった。


「今、こんなに読まれている私の作品ですが、かつては私も多くのユーザーの中で埋もれていたのですね。昔、公募に送っていた時は一次選考すら通らなかったのです。しかしながら客観的に判断して、一次で落とされるような作品ではなかったのですね。KADOYAMAさんの公募に送ったこともあるのですね」


「申し訳ございません。当時のうちの下読みの質が悪かったという事だと思います」


 六地蔵の毛虫マユの動きが、ワサワサと一段と激しくなった。


「今はよくわかるのですね。公募なんてものは出版社の都合次第で、どうにでもできてしまうのですね……」

「業界として、そういう側面がある事は否めないと思います。どうかそれに懲りず、いつか出版する際には弊社をご贔屓にしていただければ」


「期待されているのはわかっているのですね。とはいえ、やはりウェブ小説優先になるのですね、それはわかってもらいたいのですね」

「もちろんです。六地蔵さんがウェブ小説を大切になさっている気持ちは、とてもよくわかりますので」

 

 今日のところは、そろそろ頃合いか……。真木はそう判断した。

「それでは今日は、これで失礼させていただきます。あまりお邪魔をしてはいけませんし、ごあいさつだけでしたので。またご連絡させていただきます」


「どうもなのですね……」

 六地蔵は、真木に顔も向けずにそう言い、キーボードを叩き始めた。


「失礼します」そう声をかけて玄関に向かった。

 丁寧にドアを閉め、大きく息を吸った――。

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