第3話
「まあ……誰にでもできるというものではないのですね」
「WEB小説ではSNS的な宣伝が盛んですけど、六地蔵さんは宣伝などは?」
その真木の問いに、六地蔵が突然、爪をボリボリと噛みだした。長年の癖なのか、爪と皮膚がボロボロになっている。
「そ、そもそも私の小説は、趣味、自己満足として書いているだけなので、宣伝などする必要はないのですねッ!!」
唇がハエの羽のように細かく震えている。何か地雷を踏んでしまったのか……、真木は話題を変えた。
「お一人だと、お食事とか大変ではないですか?」
「ああ……すべて出前なのですね。基本的に外にはほとんど出ないのですね」
唇の震えは、ピタリとおさまった。
「人気作家さんはどなたも缶詰め状態になりがちですけど、皆さんそれぞれ上手なストレス解消法を持っておられますね」
「寝ておりますですね私は、気分転換したいと思った時には。本当は猫を飼いたいのですが、ペットは禁止なのですね」
猫が好きなのだろう。ノートPCの脇には小さな木彫りの猫が置かれている。
その木彫りの猫を見ながら真木は言った。
「ああ、ペットは癒やしてくれますね。睡眠時間は十分に取れていますか?」
「なかなか難しいのですね。なんせ連載を10本ほど抱えておりますもので……」
10本……!! 驚異的な数字である。ある大御所作家が小説を書くには体力が必要と言っていたが、仮に週刊、隔週、月刊、締め切りがバラけていたとしても、よほど体力がないと瀕死どころか、即死コースではないか。
真木は、そんな思いは顔には出さず「いくつもの小説を同時進行で組み立て、うまく展開させるというのは、人間わざとは私にはとても思えません。ひたすら尊敬してしまいます」と言った。
六地蔵のまったく整えられていない毛虫のような眉毛が、ヒクッヒクッと動いた。
さきほどのひきつれも、今の眉毛の動きも、もしかして喜びの表現なのか……喜びを抑えている……?
「難しく考えなくてもいいのですね、自分の頭の中に浮かぶ事を好きなように文章にしていくだけなのですね。そして自分の好きを詰め込めば、結果はついてくるのですね。好きな事をしているだけなので、さほど疲れもしないですしね」
そう言って六地蔵はおもむろにマウスを操作し、自作のアクセス数の欄を表示した。
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