第1話
電車に乗り、頭の中で想定問答を繰り広げていると、30分ほどの時間はすぐに過ぎた。
担当する六地蔵リクオの住まいは「自然と快適な住まいをともに」というコンセプトのもと数年前に特別区画として、広大な緑地公園内に建てられたツインタワー型マンションの一室だ。
たどり着いたツインタワー東棟の入り口で、緊張しながら4階の部屋番号を押し、来訪を告げると「開けます」という声とともに玄関ドアが解錠された。
豪華なゆとりあふれるエントランスだ。3つあるエレベーターの1つに乗り込み、タッチパネルの「4F」にふれた。
六地蔵リクオの部屋のドアホンを押した。
ドアが開き、現れたゴボウのようにひょろりとした男に、真木は一瞬息を呑んだ。
学生の頃なら、その驚きが露骨に出てしまったかもしれない。
でも、もう学生ではない。
「はじめまして六地蔵さん。今日はお忙しい中お時間いただき、ありがとうございます。これから担当させていただきますKADOYAMA出版の真木と申します」
そういって丁寧に頭を下げてから、ぎこちない手付きで名刺を差し出した。
六地蔵リクオは、目を合わせないまま「こちらこそなのですね」と、奇妙な言葉遣いで名刺を受け取った。
顔を上げ、改めて六地蔵を観察する。表情を動かしてはいけない。
小説を書くような人は、こういう人も多いのだろう。
しかし、端的に言ってひどい格好である。
坊主頭が無造作に伸びたような髪型に、着ているトレーナーは何かのアニメキャラなのか、妖怪のような物がでかでかと描かれている。それをガッツリとズボンにイン……となると、そうそうお目にかかれるものではない。資料には32歳とあったが、20歳ぐらいにも40歳ぐらいにも見えた。
これから部屋に入れば、この男と二人きりなのだ。怖くないといえばうそになる。
でも大丈夫、真木はそう自分に言い聞かせる。
昨今の犯罪事情を鑑み、万一のためにGPS付き防犯ブザーを持たされている。押せば即座に110番に通報され「すぐに警察官が現場に向かいます」と大音量で繰り返される。
「どうぞなのですね」と言って中に入っていく六地蔵に「失礼します」と声をかけ、靴をそろえてから続いた――。
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