第10話 とどめ

 ルシファーホークの活躍によって敵の一人が瀕死になった。俺たちを囲っている盗賊共はまだ何が起こったのか理解が追い付ていない様子だ。


「おい?何しやがったてめぇッ!」

「俺は何もしてないぞ?」

「嘘つくんじゃねえよ。風が俺を横切ったと思ったらアルゴが倒れてるじゃねーか。お前、いったいどんな魔法を使いやがった!?」


剣も構えず先ほどまで高みの見物を決めていた男が何やら錯乱して俺に問い詰める。アルゴ?ってのは恐らくこいつの今、倒れている仲間の名前のことか。


余裕ぶっていて恐らくルシファーの動きを見ていなかったのだろう。完全に俺がこいつの仲間を魔法か何かで倒したと勘違いしているようだ。


「魔法?そんなもの俺は使わない」

「だったらどうやって一瞬でアルゴを倒したってんだ!何だよこれどうなってんだ、説明しろお前らッ!」


男は錯乱して今度は仲間にまで当たり始めた。男の仲間達もアルゴとやらが倒されたことに動揺しており、とても状況を説明するような余裕はないようだった。


「こいつがやったんだ、お前の仲間をな」

俺は上空で翼をはためかせているルシファーホークの方を目線で示した。

「あれは……ルシファーホーク……だと……?」


ルシファーは盗賊たちの魔法による先制攻撃を受けた際に遥か上空へと避難していたため、この男はルシファーの存在に気が付かなかったのだろう。スキル『急降下』を使用した際に一度、ルシファーはこちらに降りてきているがこの男、余裕をぶっこいていてやはりその時も見ていなかったようだ。


今になってようやくルシファーの存在に気が付いたという訳だ。


「ルシファーホークって言ったら、この辺りのパーティーを壊滅させまくってるって噂になってるヤツだろ、何でここにいんだよそんなヤツがッ」

「それはルシファーが俺のペットだからだ」

「ペット……?」


男は間の抜けたような顔でこちらを見ている。いったい何を言っているんだこいつというこの男の心の声が聞こえてくるようだった。


「ああ……、ルシファーは俺のペットだ。お前らそんな俺に挑んできたっていう覚悟はできてるんだろうな?」


俺はただ、この世界を楽しみたいだけだ。そのためには俺の邪魔をする奴は排除していく。こいつらにもお灸をすえたほうがいいだろう。


「タチバナさん!大丈夫ですかッ!?」


オリヴィアがカリウスとアインを連れて急いでこちらに駆けつけてくる。そうか……あの魔法の効果が切れて動けるようになったのか。


「大丈夫ですよ、でも気を付けて敵はまだ6人いますから」


あの全身の力が抜ける厄介な魔法を放ってくる奴がまだ残っている。油断はできない。だが、さっきは先制攻撃だったから攻撃を食らったが対峙している今なら、もうあの魔法をまともに受けたりはしないだろう。


「さあ、どうする?まだお前たちは6人いる。数のうえでは俺たちより有利だが続けるか?」


俺たちはペットを合わせて5人、対して奴らはまだ6人いる。こちらは数的不利だが、奴らは先ほどのルシファーの攻撃を間近で見て怖気づいているようだった。


「うるせえ余裕ぶってんじゃねえ!」


先程まで高みの見物を決め込んでいた男がそんなセリフを吐きながら剣を取り必死になってこちらに向かってくる。皮肉なものだな。一方でこの男の仲間はもはや戦意喪失しているようだ。一歩も動かずただ、この男が戦っているのを見ているだけだ。


こちらに剣を振りかざしてきた男だったが……―――


―――ムニュ


アインが剣を受け止めていた。全くダメージが入っていないようだ。流石、固有スキル『スライム』を持っているだけのことはある。


「何だよこれッ!?なんで効いてねえんだこいつ!」


どうやら固有スキル『スライム』の存在を知らないらしい。この辺りで盗賊をしているこいつがスライムと戦ったことがないというのは考えにくいから、恐らく固有スキル持ちのスライムって意外とレアなのかもしれない。


そんなことを考える余裕があるくらい、今の俺は落ち着いていた。


ただでさえ強いルシファーに加えてさっきまで動けなかった仲間が加勢してくれている。こんなに心強いことはない。


カリウスは固有スキル『群れのボス』を発動させ、辺り一面に小型のカリウス・クロコダイルを呼び寄せた。そいつは盗賊共目掛けて一斉に飛び掛かる。


「なんだよこいつら、あっちいっけよ!」

「ちょっと私に押し付けないでよ」

「やめろぉー!降参させてくれぇー!」


「………やめろぉ…お………」

「たすけて…たすけて……おねが……い…」


そこにはこの世の地獄絵図が展開されていた。戦意喪失している奴らも含めて盗賊共に噛みつくこのワニの群れ。敵だとメチャクチャ厄介だったが味方にするとこんなに頼もしいことはない。


「もはや、お前ご自慢の仲間は全員、戦闘不能だがどうするんだ?まだ続けるか?」


一人残されたこのボス格の男に向けて俺はそう問うた。もはやこいつの仲間は群れに蹂躙されておりとても戦闘を続けられる状態ではない。こいつ自身も群れ相手に善戦してはいるが、長くはもたないだろう。


しばらくすると……―――



―――「あ…ああ……………」

「ゆ……ゆるし……てくれ……」

「ん?何て言ったんだ。全く聞こえない」

「許してくれ……頼む、たのむ……」

「分かった。ゆるしてやるよ」


俺はそう言って微笑むと大剣でとどめをさした。


すると男は空から現れた謎の光に照らされてゆっくりと消えていった。消えた後、その男の持ち物であろうアイテムが複数ドロップした。


なるほど……この世界で死亡した場合はそういう風になるのか。まさに異世界って感じだな。


「お……おい、お前!許してやるって言っておいて何だそれはッ!?」

「何だまだ喋る元気があるのか」


カリウスの固有スキル『群れのボス』は一定時間が経過すると小型のワニ共はどこかに帰っていった。この男はワニ共に噛みつかれて満身創痍ながらも残った気力を振り絞り俺を詰る。


「奴は苦しそうだったからな。あいつの罪を赦して楽にしてやったんだろ?」


男は俺を化け物か何かを見るような目で見てくる。何だ、お前たちから仕掛けてきたんじゃないか。それなのに俺を鬼扱いか?ちょっと形勢が悪くなったら謝罪して逃げようなんてそんな甘いことは許されない。


「次はお前を赦してやる」


俺はそう言うと大剣を握りなおした。


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