第8話 総力戦
俺はガチャで謎のアイテム『
こんなもの一体、何に使えばいいんだ……?
俺はそう思いつつ、本来の任務であるクエストへと向かうために、カリウスたちのいる場所へと戻った。
「ごめんなさい。こんなに待たせてしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。それより試したかったことってなんですか?」
「そんな大したことではないですよ。ちょっとステータスの確認をしてただけです」
俺は咄嗟に嘘をついた。俺はカリウスやオリヴィアから少し離れた彼女から見えない場所でスライムと戦っていた。理由はオリヴィアは俺のことをカリウスを捕獲することができるレベルで強いと勘違いしているだろうから今更スライムが倒せるかどうか試していたなんて理由で寄り道したとは言えなかったからだ。
「あ、そこから東に向かってください」
「了解です。カリウス頼む東に向かってくれ」
道案内は彼女に任せて俺はカリウスの制御に集中していた。カリウスは俺の言葉を理解しているわけではないようだが命令通りに東へと進行する。恐らくこれも『テイマー』の何らかの効果なのだろうか。
「ところで、今から俺たちが討伐に向かうルシファーホークってどんなモンスターなんですか?」
「とんでもなく強いです……私のパーティーはルシファーホーク一匹に壊滅させられました……」
「え?……」
彼女の方を見ると今にも泣きだしそうな悲痛な面持ちだった。
「私以外の仲間は全員今はもうこの世には……だからどうしても仲間の仇が打ちたいのです。しかし、私一人では到底かなわなくて……そんな時、貴方が一人でいたので声をかけてみたんです」
そうだったのか……。このクエストにそんな重い事情があったとは知らなかった。
「そうだったんですか……。ごめんなさいそんな悲しいことを話させてしまって」
「いえ、私が一人で勝手に感情的になって話してしまっただけですから。」
彼女はそう言うとにっこりとほほ笑んで、先ほどまでの物憂い気な雰囲気は消えてなくなっていた。恐らく気丈に振舞っているのだろう。俺はそんな彼女の仇を取るのに協力したいという気持ちが湧き上がっていた。
あれから彼女は気を取り直して俺にルシファーホークについての情報を教えてくれた。ルシファーホークは大抵は単独で行動する生物で自分一匹で縄張りを持っているらしい。その仇のルシファーホークは岩場に生息しているということを彼女から教わった。
しばらく東へと進んでいると、鳥型のモンスターが縄張りとしている岩場まで来ていた。恐らくあれがルシファーホークだろう。辺り一面には15メートルはあるだろう岩に囲まれており、その上空を鳥がこちら目掛けて滑空してきていた。
やばいッ!
俺はすぐにカリウスから降りて臨戦態勢を取った。
相手は空を飛んでいるためこちらに攻撃手段がないな……地面ならカリウスを戦わせることも可能だが、相手は上空なため俺たちは打つ手がなかった。それを察してか、鳥は俺たち目掛けて飛んでくるかと思ったらまた上昇していくというフェイントを繰り返していた。
気を抜いたら一気にやられるな……しかもこんな状態ではこちらの集中力がもたないジリ貧だ。
オリヴィアはカリウスから降りると魔法の詠唱を始めた。オリヴィアって魔法で攻撃するタイプの人だったんだ!?全く気が付かなかった。
しかし、オリヴィアの攻撃は相手に対して全く効いていない様子だ。唯一の攻撃手段であるオリヴィアの魔法でもダメなのか……
オリヴィアはこちらの事情を察してか、次に植物の蔓のようなものを地面から生やすとルシファーホーク目掛けて飛ばした。恐らくこれで捕縛して地面に引き寄せるためだろう。しかし、ルシファーホークは動きが速すぎて捉えきれない。
完全に八方ふさがりで、俺たちはなす術がなくなっていた。
相手もこちらに攻撃してくるわけでもなくいつまでもフェイントのようなことを続けている。恐らくこちらの集中力が切れた瞬間を狙っているのだろう。
攻撃さえ当たればなんとかなるのに……。ん?攻撃さえ当たれば?
そうか!俺はあることを閃いた。
「アイン、あの鳥に擬態してくれ」
アインは俺の命令を聞くとすぐにルシファーホークに擬態した。相手の鳥はどうやら驚きを隠せないらしい。アインの強さを伺っており何も手出しせずに様子見に徹していた。俺はアインのスキル『変幻自在』を使って相手のルシファーホークに化けさせて気を引いているうちにある作戦を実行しようと考えていた。
変幻自在は姿かたちを変えることはできても強さは変わらない。しかし、相手の鳥はそんなこと知るはずもないため、いつまでも鳥に擬態したアインと不毛な睨み合いを続けていた。
今がチャンスだ。
「オリヴィアさんさっきの蔓をもう一回、お願いできませんか?今のうちに!」
オリヴィアは俺の言葉を聞いてはっとしたような表情をすると頷いて、魔法の詠唱を始めた。
頼む……。アイン気を引き付けててくれ……。今、鳥に気が付かれたら一貫の終わりだったが幸いなことに擬態しているアインに気を取られておりこちらに気が付いてはいない様子だ。
恐らく、最初にオリヴィアの魔法攻撃が効いていなかったことでこちらにリソースを割く必要がないと判断したのだろう。その侮りが命取りだ。
オリヴィアは一気に蔓状のものをルシファーホーク目掛けて飛ばした。ルシファーホークは蔓が近づく寸前でようやく気が付いたが、時すでに遅しだ。
オリヴィアは蔓で捉えると力いっぱいこちら側に引きずった。
しかし、相手の力が強すぎて思うようにこちらに引きずり切れない。
俺はカリウスに命令して蔓を噛ませ一気に引きずらせた。すると―――
―――ドンッ!!
ものすごい勢いでルシファーホークは地面にたたきつけられた。こいつが強いのはあくまで上空での話で地面に堕ちてしまえばこちらのものだ。ルシファーホークの表情はから感情はよく読み取れないが、醸し出す雰囲気がこちらに恐怖心を抱いていることを教えていた。
俺は大剣を手に取るとそれを鳥に目掛けていっきに振り下ろそうとした。
しかし―――
―――『ルシファーホークがあなたによって捕獲されました。』
例の音声が唐突に流れてきた。するとルシファーホークの頭上にはPETの文字が刻まれていた。
えぇ?……討伐の依頼なのに捕獲しちゃっていいのか?まあ、そもそも討伐の依頼は人間がその地帯の安心安全を確保するためのものだから、捕獲をしても依頼をクリアしたとみなされる可能性もあるよな……こればっかりは依頼の受付の人に聞いてみないと分からないが。
最初に出てきた感想はクエストをきちんとクリアできているのかという心配だった。しかもこの鳥、オリヴィアの仇な訳だし……
俺は申し訳なさそうにオリヴィアを見た。
しかしオリヴィアの反応は意外なもので……
「ありがとうございます……」
「え?何でですか?この鳥は貴方の仇なのでは?」
「私がモンスターを討伐する理由は街に住む人がその犠牲に合わず安全に暮らしてほしいからなんです。パーティーのみんなもそうでした。だから人間を積極的に襲うルシファーホークは見逃せませんでした。でも、もうPETになった以上、悪さはしませんよね?だからもう良いんです」
彼女はそういうとまた先程のように微笑んでいた。彼女の気持ちが俺には今一つ良く分からなかったが、彼女がそういうのなら良いだろう。
あとテイマーの発動条件に相手の『恐怖心』が関わっているということはもうほとんど確定だと言ってもいいだろう。カリウスとルシファーホークそのどちらも捕獲する際にこちらに対して畏怖していたのは明らかだったからだ。
何はともあれ、強力な敵が俺の味方になったことは確かだ。俺は既にこの鳥の強さがどれほどのものなのかステータス画面を見ることが楽しみで仕方なかった。
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