第7話 初めてのレベルアップ

 俺はこの頼みを安請負して良いものかどうか迷っていた。俺が強いのはあくまでペットのおかげなところがあるからな……。このクエストの難易度はBと記載されていたが、Bがどれほどの難易度なのか初めてクエストを受ける俺としてはいまいちその難易度の程度が分からないというのもあった。


でも俺、装備買い込んでステータス上げまくったしペットだってカリウスとアインがメチャクチャ強いしぶっちゃけこんなクエストいけるんじゃね……?


足手まといになってしまうんじゃないかと思う一方で、装備を買い込んだことによって根拠のない自信が俺の中に芽生えていた。先程まで萎縮していたにも関わらず今の俺の心の中は謎の万能感が支配していた。


装備を着たことでそれなりに見える自分の実力というものを早く試してみたいという気持ちにはやっており普通なら俺は絶対、簡単に二つ返事で応答しないのだが……


「やっぱりだめですよね?……いきなりクエストを一緒に行ってくれなんて言われても、見ず知らずの他人ですもんね……」


「いえ、俺なんかで良ければいいですよ。それにお姉さんを一人で行かせるわけにはいかないですよ」


などと、善人面して簡単に承諾してしまった。さも、相手の心配をしているように装ってはいるが、実態は装備を着た俺の実力を早く試してみたいだけだった。


 ところで俺が先ほどギルドと連呼していたこの場所はどうやらギルドではなく、ただのクエスト仲介所だった。前に来た時、チラッと見ただけで似たような格好の連中が集まってたから全員同じギルドのメンバーかなんかだと勘違いしてしまっていた。


ギルドでないのなら、ここにいる奴らは全員身内ってわけじゃあなさそうだな。それなら、どこかにあぶれてるやつとかいないのか。いたらこのパーティークエストを一緒に受けてほしいんだが……


そう思って辺りを見渡してみるも、あぶれてる奴はいなさそうだった。何らかの繋がりだろうか、数人単位の仲間とつるんでおりあちこちで自分たちの受けるクエストの作戦でも立てているのか、それとも雑談しているだけなのか分からないが身内以外は近寄りがたい雰囲気だ。


しょうがない二人で行くか。

名前を知らないのは不便だと考えた俺は隣にいる女性に名前を訊いた。


「ところで、何とお呼びすれば良いですか?俺のことは橘と呼んでください」


あっ……しまった。つい癖で本名を言ってしまった。せっかく異世界で第2の人生を謳歌しようと考えてたのにリアルネームを持ち込んでどうするよ俺のバカ!


だが……もう仕方ない。俺はこの世界でも橘で通すしかないだろう。


「タチバナさんですね?私のことはオリヴィアと呼んでください」


「いいお名前ですね。よろしくお願いします」


何だこの定型文みたいな返答は。俺、こういう義務的な会話しかできないんだよな……


しかし、この世界のことを知るためには人と交流をもって情報を集めていくしかない。辛くても頑張るしかないな……


俺とオリヴィアはクエストの目的地へと向かうため店の外へと出てきた。


街ではモンスターが普通に歩いていても誰も気にも留めない。俺も先程までそのことに関心がなくスルーしていたが今になってこのおかしさに気が付いた。見たところ一部のモンスターは労働力として人に飼われているらしい。俺自身がペットを街の中で連れて歩いてても何も言われなかったのはそういうことだったのか!


実際、普通に街の中にモンスター連れ込んでたら憲兵だか何だかに処罰されてもおかしくないよな。労働力か何かだと思われて助かったのかも……。良かった……。


街にいるモンスターの頭にはPETという文字は記されていない。恐らくスキルとか使わずに力で捕獲されて飼いならされてるってわけか。暴れたら大変そうだな……


そんなことを思いながら俺とオリヴィアは街を抜けてクエストの討伐対象がいる場所へと目指した。途中で、宿の外で待たせていたカリウスとアインもつれて。


「さ、オリヴィアさん乗ってください。」


「えっこのモンスターってカリウス・クロコダイルですよね!?この辺りのクエストではA級難易度ですよこのモンスター!!それを捕獲して調教してしまうだなんてタチバナさんお強いんですね」


「まあ、全然大したことないですよ」


俺はそう言って笑った。実際、俺はあまりカリウスの捕獲時に役に立っていないのでこれは謙遜ではない。しかしオリヴィアはそんなこと知る由もないため、A級を捕獲する実力がありながらへりくだる腰の低い変な奴に見えていることだろう。


あー、冒険するのに何か足りないと思ったら地図だ。この世界、どれくらい広いのかすらいまだに良く分かっていない。ゲームとかなら必須級のアイテムだ。


俺が今知っている情報は最初の草原にはスライムが出てきて、その奥にはワニ。あとは草原を南下すればさっきいた繫栄している街に着くってことくらいか。なんか味気ない情報だな。もっと街の名前とか草原の名前とか普通に知りたい。そうじゃないと楽しめないからな。

ゲームでもやっぱり最初の街とかフィールドとか愛着が湧くものだしな。それの名前を知らないってのはちょっと興が削がれる要素ではある……。


転生した当初は戸惑っていたが、もうこうなりゃこの狂った世界をとことん楽しんでやると決めていた。


そのためには地図がいる。地図ならそのあたりの情報も記載されているだろうし、なんなら出てくるモンスターの強さまで記載されているものもあるだろう。恐らく。


俺はこのクエストが終了したら地図を購入しようと考えていた。


カリウスにオリヴィアとペットのアイン、そして俺が乗って移動していたが草原を街から北上していくと最初の俺が目覚めた草原へとやってきた。


俺はそこに着くと、オリヴィアに一回断りを入れてからカリウスから降りた。


どうしても試してみたいことがある。それは今の俺の強さだ。前まではスライムに対してダメージを与えられなかったが今の俺はどうだろう。装備を付けた自分の実力を試してみたかった。


俺はスライムと対峙すると、先制攻撃した。俺のペットのアインは固有スキル『スライム』で物理攻撃を80%軽減することができるが、果たしてこのスライムはどうなのか。固有スキルって個体差とかあるのかどうなのか未だに俺は分かっていないがゲームならスキルに個体差があることもある。それにあんな強力なスキル持ちがほいほいと大量に出てくるわけがない。果たしてこいつはどうだ……。


スライムは俺の斬撃を受けて、一瞬にしてアイテムに変化した。アイテムがドロップしたってことは……


やっぱり!


俺の読み通りだ。こいつは固有スキルを持っていない。もしくは固有スキルが『スライム』ではなく別のものに違いない。もし『スライム』の固有スキルを持っていたらいくら攻撃力が装備により上昇しているといってもアインの今までの耐久を見るに一撃で倒せるわけがない。


しかし、固有スキルを持っていないスライムを倒して、これで俺の実力が試せているのかどうかは疑問だが、今の俺にとってそんなことは重要ではなかった。


俺はスライムを倒した。その事実だけで感無量だ。


だって初めてだぞ、俺がモンスターを倒したの!!今までは捕獲しかしてこなくて、倒すのもペット任せだったが、初めて自分の実力で倒すことができて感動していた。


すると―――


―――「Lv.が上昇しました」


え?なんだ突然?

俺は訳も分からずとりあえず、ステータス画面を開いてみる。


『ステータス』


Lv.1→Lv.2


攻撃力+1


防御力+0


魔法攻撃力+0


防御力+0


素早さ+1



いや上がり幅少なッ!!


折角、初めてモンスターを倒したという事実に感動していたのにレベルが上がったと聞いてステータスを見てみればこのありさまだ。恐らく+が俺のレベル上昇による上がり幅なのだろう。こんなしょぼい上昇で感動に水を差されたわけだ。


俺が憤りを感じていると突然―――


―――『Lv.上昇によりガチャシステムが解放されました』


ガチャシステム?なんだそれ。あれか?ガチャをしたらアイテムがもらえるとかそういう奴か?


なぜか俺のステータス画面を開くための矢印が赤く点滅しているため、それを押してみるとステータス画面の下の方にガチャと表記されている所が新しく追加されていた。


なんだよこれ。俺は恐る恐る押してみる。ステータス画面がガチャ画面に切り替わった。その画面には『50コイン』と書かれているものや『500コイン』と表示されているものもあった。


えっ?これってやっぱあれか。高いほうがいいアイテムが出てくるとかそういう奴か?


ただ、今の俺に500コインを出せる余裕はない。とりあえず50コインの欄を押すと俺の目の前に煙幕がまかれたと思ったらその中からアイテムが出現した。


いにしえの地図』


手に取るとそう表記されていた。地図と書かれてはいるが古くてもう文字すらまともに読むことさえできない代物だ。なんだよこれどうやって使うんだ。


どうやって使うのか見当もつかないが俺は謎のアイテムを手に入れた。

















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