第5話 腹ごしらえ

 街の門前でカリウスから降りて、街の中へと入った。物凄く栄えている街のようで至る所に人混みができており、近代的でどこか西洋を感じさせる建築物が並んでいた。


どこかに店はないものか。俺は先ほどカリウスが小型のワニ共を蹴散らしたときに手に入れた『ワニ革』をどこかに売ろうと考えていた。


金を手に入れたらとりあえず腹ごしらえをしよう。あとは宿だな。

そんなことを考えながら街を歩いていると、剣や盾が描かれた看板が立っていてひときわ賑わっている店があるのを見つけた。集まっている人間を見るに恐らくこの世界のハンターとか戦士とかそんな奴らだということは身に着けている装備品から一瞬で分かった。


「ここで売り買いができそうだな」


とりあえず、賑わっているその店に向かうと複数人の男が俺に絡んできた。


「そこの兄ちゃん、全く装備もせずに冒険をしようだなんてよほどの自信家か、もしくはただのバカくらいなものだぞ」


え?なんだ急に。俺は突然のことで動揺して言葉を返せないでいた。

するとその中の一人、恐らくこいつらのボス格であろう男が俺にこう要求してきた。


「兄ちゃんその手に持っているワニ革、俺によこしな」


俺にそう言う男は全身を鎧でフル装備しており、見るからに強そうだとこの世界に来たばかりの俺でも分かった。

やべぇ……目的は俺が今、手に持っているワニ革か。

これって横取りしたくなるほどそんなに高く売れるのか?


今の俺には収入源がこのワニ革しかない。これを取られたら俺は飯を買う金がなくなってしまう。決して取られるわけにはいかなかった。


「そこをどいてくれ。悪いが渡すわけにはいかない」


もう空腹も限界だった俺は早く何か食べてこの飢餓感を何とかしたかった。目の前のこの状況もやばいが俺の腹の状況もやばい。


「あんまし、こういう人が大勢いる場所で騒ぎを起こしたくなかったんだが聞き分けのないやつには躾けをしてやらねえとな」


ボス格の男がそう言うと、取り巻きの男たちもぞろぞろと俺の方へと向かってきた。あー、めんどくさい。こっちは腹が減ってんだよ。空腹でイライラしている俺はこんなやばい状況にもかかわらず恐怖よりも怒りの方が勝っていた。もう限界だ。


俺がカリウスの方を向いて、こいつらの掃討を命令しようとしたその時―――


―――「兄ちゃん……?そこにいるでかいワニってまさか群れのボスのカリウス・クロコダイルじゃねえのか?」


「そうだけど、それがどうかしたのか?」


男は先ほどまで余裕をたたえた下卑な笑みを浮かべていたが、打って変わって顔面が蒼白になり手足が微かに震えていた。


「何でそんなの連れてんだよッ!?」


男はビビっているのを隠すためのなのか、虚勢を張りながら俺にそう問いかける。


「なぜって?こいつは俺が捕獲したからだ。」


「捕獲?嘘だろ……?」


「カリウス・クロコダイルのボスといったらここらのエリアじゃあギルドクエストA級の難易度だぞ…?なんで装備もしてねえあんたにそんなことができるんだ!?」


それは、主に俺の捕まえたスライムであるアインが活躍してくれたからだがそんなことは言えない……。何故か分からないが今、この男は俺にビビっている、俺が凄いやつだと錯覚させてこの街の案内でもしてもらおう。


「そんなことはどうでもいいだろ。今は俺にケンカをうったことについてどう謝罪してくれるかの方が大切だ。俺の命令次第でお前たちまとめてこのカリウスが一掃できるんだぞ」


俺がそう言うとボス格の男はビビり散らしておりもう最初の飄々とした態度から丸っきり変わっていた。


取り巻きの男共はというと……


「お前が弱そうなやつがワニ革持ってるって見つけてきたんだろ」


「はぁ?奪えって言ったのはお前だろ!」


などと、お互いに責任の擦り付け合いをしており目も当てられない状況だった。いい加減、腹もすいていた俺はこいつらにこの街の案内をさせて早く飯が食いたいという思いでいっぱいだった。


「黙れッ!」


俺が一喝すると、取り巻きの男共は一瞬にして黙りこくった。俺は完全にこいつらの畏怖の対象になっているな。


実際の俺は全く強くないのだが、今は誤解されている方が都合がいい。


「俺はこの街に初めて来たんだが、このワニ革を売って飯を食いたい。この街を案内してくれないか?そうしてくれたらさっきの不敬は水に流そう」


「そんなことでいいのなら……」


取り巻きの一人が俺にそう答えた。


「おいプライドはねえのかてめえには!」


先程のボス格の男が声を震わせながら、俺に許しを請うた男に対して詰る。


だが俺が体をカリウスの方に向けて目線だけそのボス格の男に向けて牽制すると、その男はもうこれ以上何も言わなかった。俺の命令次第でカリウスが動き出すのというのがよほど怖かったのだろう。


「まあ、いい。案内を頼む」


まずはこの街で一番賑わっているであろう、この剣と盾の看板が立っている店でワニ革を売却してきた。


両手に抱えてたもので4000コインをもらった。この『コイン』の価値が俺にはまだ良く分かっていないが、こんだけあれば飯くらいは食えるだろう。


ワニ革を売った後は飯が食える場所を案内させた。

もうなんでもいいから早く腹に詰め込みたい。


ハンバーガーショップに案内してくれたので、俺はそこでバーガーと炭酸飲料とポテトを購入した。おいおいこんなにいっぱい買って100コインでいいのかよ。


ワニ革最高!!俺はワニ革の価値を思い知りつつ、購入したそれらを一瞬で全て腹に流し込んだ。


異世界にもハンバーガーとかあるのか現実の世界と食事はあまり変わらないんだな、とか思いつつ一目散に食べ進める。


ペットのアインとカリウスもそれぞれ、専用のエサが先ほどワニ革を売ったショップに売っていたのであらかじめ購入しておいた。今はこいつらもそれを食べて腹を満たしている。


ふー……とりあえず、腹は膨れたな。


腹がいっぱいになったとこで俺はこれからどうするか、考えていた。


まだこの街に残って何かコインで購入できる装備品でも見てみるか。






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