第3話 二度目の捕獲

 アインの能力を一通り把握した俺はひとまず、このスライムだらけの場所を抜けてもっと強いモンスターのいる場所を探していた。俺の後ろには忠実についてくるアインがいる。アインは言葉が通じていないようだが、俺のことは主人だと認識しているみたいで、俺の後ろを何も言わずついてくる。


 俺は最初の動揺も忘れて普通にこの狂気じみた世界を楽しんでいた。相変わらず俺のステータスは低いままだが、俺がこうして移動をつづける理由として、早くこの世界のことについて詳しく知るためにも色々な場所を巡る必要があると考えたからだ。その中であわよくば強キャラをペットに出来さえすれば異世界攻略も楽になると思ったというのもある。


スライムより強そうなモンスターを探そうと思ったものの、現状の俺とアインの強さでは強敵に勝ち目はなさそうだ。超強そうなヤツは避けたほうが良いだろう。何かちょうどいい敵はいないのか。俺とアインでも何とか戦えそうなレベルの敵が望ましいがそんな都合の良いモンスターはいないものか……。


そんなことを考えながら俺はあてもなくふらふらとさまよっていた。


しかし、そんな都合の良いモンスターに何の情報もなく遭遇するはずもなく……


気づけば俺とアインは草原の奥の方まで進んでおり、異様な雰囲気に包まれている所まで来てしまった。


「何だここ……さっきまでとは全然雰囲気が違うぞ」


先程まではまさに、ゲームでいう序盤の場所という雰囲気で辺りにはスライムしかおらず、そのスライムもこちらに積極的に攻撃してこない温厚な性格だった。


だが、今は物陰からこちらを伺っている謎の生物がいる。姿は見えないが、息をひそめてこちらが来るのを待っているのが明らかだった。完全に捕食者そのものだ。


「やべえな……これ」


気づけば、辺り一面囲まれているように見える。恐らく、こちらが気が付いていない間に先回りして同心円状に俺たちを囲っていたのだろう。


相手は群か……。


しかも好戦的で恐らく強い。この異様な雰囲気が俺にそう教えていた。


相手はもう、既に俺たちを仕留めた気でいるのか、あれほど姿を頑なに見せなかった奴らが簡単に姿を見せてきた。

そこには全長およそ1メートルほどで漆黒の外骨格に覆われており、瞳は紅く、禍々しいオーラを放っている生物がいた。なんかワニみたいな見た目だな……。


「おいおい……なんだこの禍々しい雰囲気。絶対序盤で戦う敵じゃないだろ」


しかも群だ。普通に戦っていては恐らく勝てない。ただ、ワニと呼ぶには少し小さい印象を受ける。群れをなさなければならないとなると、恐らく一匹、一匹は思ったほど強くないのではないかと俺は予想していた。半分希望も入ってはいるが……。


それにどこかに群れを統率している奴がいるはず……。こういう群れで生活する生物にはボスがいると相場が決まっている。このモンスターがどうかは知らないが、他に打開する方法が見つからない俺としては希望的観測にすがるしかなかった。


もしいるとすれば群れのボスを何とかすればどうにかなりそうだな。


ここは異世界、どうせ俺は一度人生を終えている。もうこうなりゃ半分自棄だ。当たって砕けろの精神で行くしかない。


そんなことを考えているうちにモンスターがどんどん距離を詰めてくる。

じりじりと俺とアインを逃がすものかと、慎重に、そして確実に仕留めにかかっている。


そしてそのうちの一匹が俺に攻撃を仕掛けてきた―――


―――ムニュ


あれ?……。咄嗟に自分の身を庇うような体勢をとった俺には何が起こったのか分からなかった。しかし、目の前のこの状況から察するに恐らくアインが俺を庇ってくれたのだろう。


「アイン!大丈夫かッ!」


俺は急いでアインに駆け寄る。しかし、アインはケロッとしており全く効いていないようだった。

あれ?……もしかしてアインって強い?


アインの固有スキル『スライム』は物理攻撃を80%カットしてくれるとはいえ、まさか全くダメージを通していないとは……。


次に、アインはスキル『変幻自在』を使い、目の前のワニと同じ生物に擬態し始めた。


俺はそんなこと一言も命令していない。アインの奴いったいどうしたんだ。まさかペットって勝手に自分の意思で戦い始めるのか?



『変幻自在』は姿を似せることはできても能力には一切影響を及ぼさない。つまりアインは見た目は禍々しいワニになったとしても攻撃力はたったの1だ。


そんなことをしても意味がないはず……。そう俺が思っていると…。


アインは突然、群れの中に紛れ込み、姿が見えなくなってしまった。


俺も群れのワニ共もアインの謎の行動に虚を突かれて一切、行動できなかった。


その群れの中の一匹が突然、他のワニを攻撃し始めて、ワニ同士で同士討ちし始めた。


おいおい……。なんか仲間割れし始めたな。


恐らくアインが最初の一撃を食らわしたのだろう。それから仲間割れが誘発されたというわけか。このワニみたいなモンスターはあまり頭が良くなさそうだな……。


そうこうしているうちに明らかに群れのボスと思われる全長3メートルほどのワニが見方を蹴散らしてこちらに近づいてきた。


どうやら仲間割れを扇動しているのが俺たちだとこのボスワニには分かっているらしい。流石、ボスだな。ほかの奴らとは知能が違うってことか。


アインのおかげでボスが分かった。あとは俺の仕事だ。

とはいったものの、いまだに俺の固有スキル『テイマー』の発動条件が分からない。


こうなりゃ、捕まえることは度外視して倒す勢いで行くしかない。


俺は咄嗟にワニの背中に乗り、パンチしてみたが、硬い外骨格に覆われており全くダメージが通らない。


これでは、倒せそうにないな。しかし、相手のワニも背中に乗られては攻撃する手段がなさそうだった。尻尾も俺まで届きそうで届かず、お互いに打つ手なし。


すると群れに紛れていたアインがこのボスワニに擬態してこちらに迫ってきた。


おいおい……いくら巨大な体になったってステータスは変わらないんだぞ……。

こっちに来たところで倒されるのがオチって……あれ……


俺が乗っているボスワニは酷くおびえているようだった。そうか…。このボスはアインのスキル『変幻自在』が能力が変わらないスキルだってわかっていないんだ。だからアインのことをメチャクチャ強いやつだと勘違いしてるな……。


ボスワニが完全に畏怖を覚えているように見えた。その時―――


―――『カリウス・クロコダイルがあなたによって捕獲されました。』



あれ?……。なんか知らんがこのボスワニゲットってことか?


また俺は何もせずに捕まえちまったな……。

今回、アインしか仕事をしていない……。


いまいち『テイマー』の発動条件が良く分からないが、このワニが恐怖したことで捕まえられたってのがヒントかもしれないな。


捕まえる相手が俺たちに対して『恐怖』を覚えることが捕獲できる条件の一つだったりするのかも。


何はともあれ、このボスワニを手に入れたことで戦力が大幅に上がったことは確かだ。これからはもうちょっと強いやつにも挑めるかもしれない。


最初は戸惑っていた異世界転生だったが、今ではもう完全にエンジョイしていた。



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