ただ見過ごせなかっただけ

 僕は弱い者虐めを見るのが嫌いだ。だから、今回は気まぐれに助けただけ。僕は抵抗出来ない人の気持ちが理解出来ない。嫌なら嫌と言わないとエスカレートするだけだと分かるからだ。


ーー懐かれなければ良いけど。


 僕は一人が好きだから、友達は要らない。一人の方が身軽だ。


「俺と友達になってくれ!」

「嫌だよ。僕は一人が好きなんだ。友達は邪魔なだけ」

「俺は抵抗が出来ないから教えて欲しいんだ!」

「分かったよ。過剰に僕に構うなよ」

「嫌だ。俺はお前といっぱい話がしたい」


ーー厄介な相手に好かれてしまったな。そんな予感はしていたけど、抵抗出来ない理由を聞いたら僕は放置出来なくなる。そんな予感がするんだ。


 僕は連絡先を聞かれて、適当に教えておいた。作ったけど誰もいないアカウント。

 別に寂しいわけじゃない。いざとなったら教えられるように作っておいたやつ。


ーー一人が好きなんだけどな。


「なんで俺を助けてくれたんだ?」


 家に帰り夕食が終わり、スマホを見た。するとそんなメッセージが入っている。無視をすると明日纏わり付かれそうだと思い、適当な理由を考えた。


「なんとなく、うるさかっただけ」

「なら、なんですぐに助けなかったんだ?」

「自分で対応するのが当たり前だろう」

「当たり前なのか? 抵抗しないのが当たり前の俺からは理解が出来ない」


 僕は一旦お風呂に入る事にした。


ーー本当に助けないと夢見が悪いで合っていたけど、本当に重症のやつを拾っちゃったな。


 僕は人が怖いだけなんだ。虐待を受けて育っているから、放置出来ないだけ。世の中ではアダルトチルドレンというらしい。

  今日も僕の家では両親の怒鳴り合いが聞こえてくる。でもそれもいつもの事。僕が一発殴られたらまたお互いを罵り合うだけ。だから、僕に殴られる恐怖はない。必死に死なないように歯を食い縛るだけ。

 止めてと抵抗すらしない。学校では抵抗しないとエスカレートするけど、家では逆だ。


 今日も僕は見えない所を殴られて部屋に戻った。


「抵抗に意味がある場合とない場合があるんだ。今回はあるだけさ」

「ある場合とない場合?」

「そう、エスカレートする場合としない場合」

「何故そんな事が分かるんだ?」

「逆に理解できないやつが僕には理解できない。だから放置してくれないか?」

「嫌だ。俺は恩返しがしたい。初めて助けてくれた恩人に」

「そこまで大した事をしたつもりはない」

「俺は馬鹿だから教えてくれ!」

「馬鹿だから助けたけど、過剰に関わる気はない」


ーー馬鹿だと言って引いてくれたら良いんだけど。


 僕の期待とは真逆だった。誰も信じたくないし、心の内側には誰も入れたくない。だから予防線を張るために滅多に人助けをしないんだ。


 明日のために早めに寝たふりをしようと思い、スマホを机に置いて本を取り出す。今日買ってきたばかりの本だ。お金だけは両親が過剰に与えてくれる。愛情の代わりだ。


ーー本だけが僕の救いだ。

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