第27話 覚悟

俺達はアヤメさんの協力のもとエレベーターを登る。


エレベーターはテレビ局みたいに複雑に設置されていた。前世ではテロの対策とか何とか聞いたことがある。


そしてどうやらシズネのお母さんは最上階に居るらしい。足を失い閉じ込められていると言っていた。


エレベーターが止まり中継の階に到着する。


俺達は不審がられないよう歩いて行動する。


「止まって」


アヤメさんが止まるように言う。


「次の角の先、エレベーターの道を塞いでる奴らがいる。どうやら君達は元々警戒されてたみたい」


「どうする?」


サリアが俺に聞く。


どうせエレベーターに乗らなければ最上階に辿り着けない。


「戦うぞ」


俺はサリアに目を向けると


「分かったわ」


と戦う意思を見せてくれる。


こいつ度胸あるな。


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俺達が前に出ると軍服を着た集団は俺達に一斉にチェイナーを向ける。


アヤメさんは戦えないので後ろに下がっていてもらう。


「何だガキかよ!」


どうやら俺達が現れるのは予想外だったらしい。


「ガキはママのおっぱいでも啜ってな!」


男達はギャハハハハ!と笑い始める。


どうやら完全に舐められてるな。


だから俺も…煽る。


カードゲーマーは煽られたら煽り返してしまう生き物なのだ。


基本大人の対応は出来ない。


「おっさん達そんなに大人数で警戒するなんて怖いの〜?」


子供特有の高い声で煽ってやる。


すると…かかった。


「おいガキ…あんまり舐めた口聞くと殺すぞ」


急に低い声を出し威圧し始める。


彼等もカードゲーマーとしての習性を持っているらしい。煽り耐性がかなり低い。


「あんた…よくこの状況で煽れるわね…」


サリアが呆れたように言う。


「雑魚共!ガキにビビってチェインもできないのか〜?」


「ガキが調子に乗りやがって…」


更に煽ってやれば…カードゲーマーは激昂してくれる。何て分かりやすい生き物だろう。


男達はギャーギャー喚きながらチェイナーを撃ってくる。


鎖が腕や足に絡み付く。


サリアも俺より少ないが鎖を巻き付けられたようだ。


「俺達が勝ったらお前ら絶対服従な」


男達が賭けの内容を宣言する。


そしてチェインが始まる。


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「はい、勝ち」


俺に鎖を巻き付けたやつ全員とチェインをし全員に勝った。


まあ、当然だ。昨日めちゃくちゃデッキの調整したし、そもそもカードから戦い方の想定ついてるし…。


そんな事を考えているとサリアの方も決着がつく。


サリアも俺とカードショップ巡りをして玄野がまとめてくれた資料を渡してある為対策をしている。


相手のデッキの何が危険で何処が弱いのか理解している状況で負ける事は無く当然勝った。


しかし…チェイナーの鎖が動き出す。


彼等の腕や足に巻き付き引きちぎる。廊下が血みどろになっていく。


とても凄惨な光景だ。サリアは顔を青くしている。


俺とアヤメさんはサリアを連れてさっさとエレベーターに向かった。


倒れてる奴は…まあいっか。あいつらから仕掛けてきたし。自業自得という事で。


「何…あれ…?」


エレベーターの中で前屈みになり嗚咽を繰り返すサリアが聞いてきた。


「あれがチェイナーだよ。前に言ったやつ」


ウメタロウ・ウメハラとのチェインの時に使われた物をサリアに言っていた。


「大丈夫?少し休んで行く?」


アヤメさんが気を遣い休む事を提案する。


「いや…もう大丈夫よ…」


サリアはそう言って気丈に振る舞うが顔がまだ青い。


休ませてやりたいがまだやる事が残っている。しばし辛抱してもらおう。


「リアン君は大丈夫なんだ」


「一度経験があるので」


「強いんだね…私もまだ慣れないよ」


アヤメさんが震えるような声で言う。


慣れているというより考えてないだけだけどね。


そしてエレベーターが止まり最上階に到着する。


廊下に出て歩いていると背後から声を掛けられる。


「良くここまで来たな」


後ろを向くとガタイの良い中年の男が壁にもたれかかっていた。


「だがお前達もここまでだ」


そう言って男はチェイナーを向ける。


こいつはヤバいな。今までの奴等と雰囲気が違う。


何度も戦いに勝ってきた奴の目をしている。さっきまでの奴の威圧感とはまるで違う。静かな、しかし確かな重圧を感じる。


その雰囲気にサリアとアヤメさんが一歩後退る。


しかし俺は昂っていた。


この城で一番チェインが強い奴…ここだろ!


「俺が囮になるからサリアとアヤメさんは先に行ってろ」


「でも…」


「行け」


サリアが何か言おうとしたが直ぐに言葉を遮る。


俺は今完全にこいつと戦う事しか考えていなかった。


サリアは逡巡し


「分かったわ」


と言うと素直に引き下がる。


「いいの?」


アヤメさんが聞いてくる。


「はい」


俺は男の目を離さずに答える。


「先で待ってるから」


「頼むわよ。リアン君」


そう言ってサリアとアヤメさんは走り出した。


「あの人等を追わなくて良いんですか?」


俺が男に聞く。


「君を行かせる方が危険だと判断した」


先程のギャハハハと笑う男達と違ってガキだと油断しない。油断してくれたら助かるんだが…。


「始めようではないか少年。血湧き肉躍る殺し合いを!」


そう言ってチェイナーを発射し、鎖が巻き付く。


今までとは違う場所に…。


そう、首だ。


今までは腕や足といったこの世界では命の危険になり得ない場所にチェイナーの鎖を巻き付けたチェインしかしてこなかった。


しかしこれから始まるのは本当の命の奪い合いだ。


だが俺には納得いかない事があった。


何言ってんだこいつ?チェインは殺し合いじゃなくてカードゲームだぞ?


手足を賭けようがカードを賭けようが…例え命を賭けようがチェインはカードゲームだ。それ以上でもそれ以下でもない。


こいつはチェインを殺し合いだと言った。許せん!


こいつにチェインがカードゲームである事を分からせてやる!


「リアン・ミーサーク」


「キクスケ・キクチ」


「「チェイン バトル‼︎」」


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キクスケ・キクチ5ターン目


俺の盤面はコネクト4、フィールドには "灼熱纏うベスラ"。手札は4枚、墓地4枚、ライフは110。


キクスケ・キクチの盤面はコネクト4、フィールドには"花武者 正久"。手札は2枚、墓地1枚、ライフは190。


「ドロー」

「ストーリーカード(イベント)をセット」

「メインフェイズ」

「コネクト4で"花武者 五右衛門"をチェイン。"花武者 五右衛門"のチェイン時スキル華舞。ソウルモンスターが植生種のモンスターならデッキから一枚ドロー」

「そして、コネクト5で"花武者 五右衛門"にWチェイン」

「華々しく散る花弁は神が咲く国カンザキに栄光と繁栄を齎す。国の勝利の為に!」

「"花武将 義宗"!」


蔦で作られている"花武者 義央"を更に太い蔦が覆っていく。そして現れたのは右の腕の上に更にもう一本腕を生やし、鎧を着た武将の姿であった。


「バトルフェイズ、"花武将 義宗"で"灼熱纏うベスラ"を攻撃」

「"花武将 義宗"の攻撃時スキル、ニ腕。攻撃する時、結合力(c)20上げる」


"花武将 義宗"は腰に下げた刀を抜き"灼熱纏うベスラ"を切り裂く。


俺は30のダメージを受けライフは80。


「"花武者 正久"でソウルアタック」


さらに30のダメージを受け残りライフ50。


「ターンエンド」


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リアン5ターン目


「ドロー」

「コネクトフェイズ」

「メインフェイズ」

「コネクト4で"疾風ゼイリード"をチェイン」

「"疾風ゼイリード"のチェイン時スキル、疾風加速。疾風加速によりデッキの1番上のカードを1枚ドロー」


デッキからカードをドローする。


「そして、ストーリーカード(魔術)"龍の招集"をコネクト消費1で発動、自分のフィールドのモンスターが1体以下なら、デッキの上から3枚をドロー」

「さらに、ストーリーカード(魔術)"鎖編み"をコネクトを消費する代わりに手札を一枚捨て発動。デッキ一番上のカードをコネクトゾーンに置く」


足りない…。


「そして、"バイコード"と"ジム"二体をコネクト4でチェイン。三体のチェイン時スキル発動、リロード、山札の上から二枚を墓地に置き墓地の好きなカード一枚をデッキに戻してシャッフルする


"バイコード"と"ジム"のチェイン時スキルは同じなので連続でスキルを発動させる。二枚カードを墓地に落とし、一枚をデッキに戻しシャッフルする。それをもうニ度行う。


足りない…。俺の墓地は12枚。相手のライフは190。このターン戻したカードが3枚。あと4枚足りない…。


「くっそ…」


俺は舌打ちをしながらエンドフェイズに移る。


「エンドフェイズ時、ソウルモンスター"機械仕掛けの歯車時計クロノマギア・エクスマキナ"のスキル発動、装填式熱光弾マギアバースト

「お互いエンドフェイズ時、カードをデッキに戻した枚数×10のスキルダメージを相手に与える」


このターンデッキに戻したカードは二枚なので30のスキルダメージを与える。


白い時計が変形し砲身を作ると青い弾丸を放つ。


キクスケ・キクチのライフは160。


「ターンエンド」


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キクスケ・キクチ6ターン目


「私はな、長年の戦いで才能を開花させ嗅覚で勝ち筋や相手の感情が分かるようになった」


そう言ってキクチは鼻を指す。


「少年、びびっているな」


「…」


俺は何も答えない。


「君は本当の命の奪い合いをした事がないのだろう?ならば仕方ない事だ。それにデッキが金属生命種のデッキとは、その才能が勿体無い」


キクチは残念そうに言う。


「残念な事だ。あと3年もすれば俺を越えるほどの逸材だというのに…。ならばこそ俺がこの手でお前を殺してやる!」

「俺のターン、ドロー」

「コネクトはしない」

「メインフェイズ」

「ストーリーカード(イベント)"霧の結界"。相手の最後にチェインされたモンスターを墓地に送る」


"ジム"が手札に戻ってくる。


「さらにストーリーカード(コネクトアイテム)"妖花刀 菊一文字"を"花武将 義宗"に装備」


フィールド一面に菊の花が咲き誇る。"花武将 義宗"が菊の花畑に佇む。


そよ風に一面の菊の花が揺らされ花びらが舞い散る。


舞い散った花びらが集い刀を模していく。菊の花びらが模した刀を"花武将 義宗"が握ると花びらが弾け菊色のオーラを纏った刀が現れる。


「バトルフェイズ、"花武将 義宗"で"バイコード"を攻撃」

「"妖花刀 菊一文字"は装備モンスターが攻撃した時、そのモンスターを破壊する。そして装備モンスターの攻撃対象は次に移る」

「"バイコード"を破壊!そして攻撃対象が"ジム"へと変更」

「"花武将 義宗"の攻撃時スキル、ニ腕。攻撃する時、結合力(c)20上げる」

「さらにソウルモンスター"妖花刀の鞘"のスキル、花紅柳緑(かこうりゅうりょく)装備モンスターの攻撃時、結合力(c)を10上げる」


"花武将 義宗"は右の二つの腕と左腕で"妖花刀 菊一文字"を居合いの構えをとる。


鉄球が突っ込んで来るのに合わせ、刀を引き抜く。"ジム"が半分に切断された。


俺は40のダメージを受け残りライフ10。


=========================================

リアン6ターン目


俺は手が震えていた。顔を伏せ額から汗が流れる。


その様子を見た玄野が小声で話しかけてくる。


『マスター気づいていますか?マスターはキクチの言う通り恐れているのです』


…まれ。


『この調子ではマスターは負けます。私が指示を出すので従って下さい』


「…」


黙れ…。


『まず、コネクトを行い…』


黙れ。


『マスター?』


黙れ!


『マスター!』


「黙れって言ってんだよ!ガラクタが!」


『ッ!』


俺がびびってる?ふざけるな!


俺は…俺は…!


死ぬのを恐れているのか…?怖いのか?


「糞が!」


俺は今まで命に関わらない手や足を賭けてチェインをしてきた。しかし今回鎖が巻き付いたのは首。この世界でも首が千切れれば死ぬのは避けられない。



…いや、違う。


思い出せ!俺は何の為に転生した!?


カードゲームをする為だろ!


死ぬ事を恐れてどうする?


覚悟を決めろ。俺はこの人生で何を求める?


俺は…勝ちたい!


俺は盤面を見渡し、目を閉じる。


「ドロー!」


ビキ…


「コネクトはしない」

「メインフェイズ」


ビキビキ…


「ストーリーカード(イベント)"クラッシュアンカー"をコネクト消費2で発動」

「自分の最後にチェインされたモンスターを破壊する事で相手の最後にチェインされたモンスターを破壊」


俺は"灼熱纏うべスラ"と"花武将 義宗"を選択し、破壊する。


"妖花刀 菊一文字"は装備モンスターが破壊された事により墓地に送られる。


あぁ…懐かしい。この感覚。


目が渇く。


ひび割れるような痛み。


そして…全てを理解出来るような万能感。


「ストーリーカード(魔術)、"装填と発火リロード&バーン"をコネクト消費3で発動」

「自分のソウルモンスターが金属生命種の時発動できる。自分の墓地のカードを好きな枚数デッキに戻す。その後デッキに戻した枚数ドロー出来る」


これで俺のフィールドは何も無くなった。


俺は墓地のカードを全てデッキに戻しシャッフル。そしてカードを引く。


「エンドフェイズ時、ソウルモンスター"機械仕掛けの歯車時計クロノマギア・エクスマキナ"のスキル発動、装填式熱光弾マギアバースト

「お互いエンドフェイズ時、カードをデッキに戻した枚数×10のスキルダメージを相手に与える」


このターンデッキに戻したカードの枚数は23枚。よって10×23でスキルダメージは230。


「耐えられる物なら耐えてみろ軍人!玄野の火力は初期ライフにも届き得るぞ!」


白い時計が変形し砲身を作ると青い弾丸を放つ。


"妖花刀の鞘"は体を弾丸に貫かれ粉々になった。


パネルにwinner リアン・ミーサークと文字が浮かび上がる。


「…しゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


俺は心の底から叫んでいた。


襲いくるのはとてつもない高揚感と疲労感そして目の痛み。


頭を使い過ぎたのかぐらっと体が倒れそうになる。


『流石ですマスター。まさかここから巻き返すとは』


玄野が褒めてくれる。


『しかしこの私に向かってガラクタとは…マスターも偉くなりましたね』


「ごめん。熱くなっちゃって」


そう言って玄野の機嫌を伺う。


『まあ契約を果たしてくれるのなら構いませんよ』


契約の内容分からないけど許してくれたかな?


「まさかオリジナルとは…驚いたな!オリジナルはアリシアでも珍しかったからな」


キクスケ・キクチが話しかけてくる。


「それに金属生命種があそこまで強かったとは知らなかった…。最後に良い物を見せて貰った!」


そう言って最後にガハハハ!とひとしきり笑うと鎖が首に絡まり付き引き千切る。


血が首から噴水のように吹き出す。


俺はそれを黙って見ている事しかできなかった。


足下に首が転がる。


俺は元日本人らしく首の無い遺体にしゃがみ手を合わせる。


俺は覚悟が足りなかった人を殺す覚悟…を人が死ぬ覚悟を。


俺が殺したのか…?


「ま、いっか」



は?


俺は今…何て言った?


それは…駄目だろ。それはあまりにも──。


『マスター?何か言いましたか?』


「ん?…いや、何でもない。早くサリア達を追いかけよう」

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