第24話 二人の逃亡劇
「君のポロンは独特な形をしてるね」
「貰い物なんです」
何故こんな事を聞かれたのかと言うと今の俺のポロンの位置にあるのは、見た目としては未来的な白い時計から伸びている鎖が俺の右腕に巻き付いているという感じになっている。
そして俺のポロンはというと…
『マスター、私はこのポロンという機械より優秀です』
という謎のマウントを取り始め、俺のポロンに玄野から出てきた鎖をぶっ刺すとデータを全部読み取り俺の右腕に居着いてしまった。
俺のデータが…と思ったがポロンと同じように使えるようで安心した。それどこか音声で色々やってくれるサービスが付いて来たので玄野の言う通り優秀なのだろう。ただし多少の小言がうるさいが…。
ヘレン先輩はシズネに話を聞く為に控え室に向かった。
俺は決勝戦まで時間が空いてるので昼飯でも食べようと思い外に出る。
サリアも誘ったが用事があると断られてしまった。
久々に一人での食事なのでがっつりラーメンでも食べようかなと思い、玄野に話しかける。
「オッケー玄野、近くのラーメン屋」
『…普通に聞いてくれませんか?』
めちゃくちゃ嫌そうに抗議をしてくる。
「近くに美味しいラーメン屋ない?」
『ありますよ…。複数候補があるので選んで下さい』
玄野は呆れたように言ってくる。
俺はどれが良いかなと吟味しているとヘレン先輩が走って戻って来た。
「大変だよリアン君!サリアとシズネが逃げた!」
わーお。事件じゃん。
「きっと何か事情があるんですよ…」
無いかもしれないけど…。
俺がてきとうな事を言ってるとヘレン先輩は「今、生徒会の皆んなにも探させている」と真面目に言われた。
「それに、サリアは決勝戦を控えている。このままでは不戦敗になってしまう。そうなれば国からの印象も悪くなるし、なにより、家に泥を被せてしまう」
確かにそれはまずいな。サリアの家は有名だ。しかしその娘が"龍鎖 チェインカルナ"を奪いに来たスパイと共に逃げたというのは外聞が悪すぎる。
「こっちから何度も電話を掛けても一向に出ないし…それで君にも捜索を手伝って欲しい」
「良いですけど…役に立つか分かりませんよ?」
「大丈夫だ今は人手が欲しいから」とフォローになっていない事を言われながら「君からも電話を掛けてくれないか?」と言われ、電話を掛ける。
ブブッブブッとマナーモードにしている振動が鳴る。
「もしもし?何か用?今忙しいんだけど?」
「あ、出た」
「嘘!?」
ヘレン先輩は小さい声で驚く。
この人本当に嫌われてない?
「もしもし。今何処にいる?」
「居場所は言えないわ」
いや…何となく分かる。それも嫌な予感がする。
「じゃあこれだけ答えて。何でこんな事したの?」
「気に食わなかったからよ。話はこれまで、じゃ!」
そう言うとサリアは電話を切ってしまった。
碌な理由じゃないな。
俺はダッシュで心当たりのある場所へ向かう。
ヘレン先輩にもついて来て貰う。
そう…俺の部屋へ。
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私はシズネを連れ出した後どうするか考えていた。
私がカルナを持っている事がバレた今、カンザキが襲って来るのは私、それにカンザキが回収したいであろうシズネも連れ出している。
カンザキから見れば鴨がネギを背負って来たように見えるだろう。
そしてシズネを捕まえたいグランミディアの生徒会も追いかけて来ている。
追手を巻く為に先ずは隠れる場所を探さなくては。
私の部屋とシズネの部屋はとっくに特定されているだろう。
そもそも女子寮全体が危険だ。
なら、あいつの部屋なら!
そう思い、シズネと共にリアンの部屋に入り込んだ。
以前から頻繁にリアンの部屋には出入りしているのでパスワードと合鍵は貰っている。
そんなこんなで冷蔵庫と棚を漁りジュースとお菓子を食べながら一息付く。
「…これからどうするのですか?」
「そうね。アンタのお母さんは何処にいるの?」
「カンザキです」
「なら、先ずはカンザキに行く手段を考えなきゃね」
「そこも考えずに連れ出したんですか!?」
「仕方なかったじゃない」
「はあ…」
シズネはこの人について来て良かったのだろうかと思い溜め息を吐く。
そこで扉がガチャリと開く。
シズネはバッと立ち上がり隠れる場所を探す。
サリアはあっやばいといった様子で固まっている。
そこに入って来たのはこの部屋の主であるリアンと従姉妹である生徒会長だった。
「何してんの?」
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恐らく一番見つかりにくく安全な場所。それを考えた時サリアが一番に思いつくであろう場所は行きなれていて勝手の分かっている俺の部屋だ。
鍵とパスワードを入れ扉を開けると固まっているサリアが見えた。
普段なら気にしないが逃亡場所に俺の部屋を使われるとは思っても見なかった。
そして質問したところでヘレン先輩が後から入って来る。
「サリア!こんな所で何してんの!」
ヘレン先輩はお怒りのようだ。
俺は取り敢えず事情を聞こうとヘレン先輩を落ち着けようとするが、どうやらかなり心配していたみたいだ。
サリアを抱きしめながら「良かった…」と何度も呟いている
そして事情を聞こうとサリアに質問する。
「何でこんな事したの?」
すると押し入れの中からシズネが出て来る。
「それについては私が説明します」
ヘレン先輩がシズネを警戒しながら睨む。
俺はシュガーコーヒーを全員分淹れながら話を聞く事にした。
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「甘いわね」
「甘過ぎるよー」
「甘過ぎますね」
事情の説明を終えると俺のシュガーコーヒーについて評価をし始める女共。
この甘さが良いと分からないなんて可哀想な味覚だ。
シズネが語った過去は壮絶で今もその状況が続いている事が理解できた。
そしてそれに感化され助けようとしたサリアだが、カンザキの生徒達や生徒会の人間に追い回され今の状況に至る事を知った。
その状況にヘレン先輩はサリアが人を助けようとしている事に感動しつつ、しかしまだ中等部の人間が国の事情に首を突っ込もうというのはあまりにも危険すぎると話した。
しかし、それでも納得いかないサリアはヘレン先輩に食い下がる。
「納得いきません生徒会長!」
「分かって欲しい。それと今は学園じゃないから昔みたいに姉さんと呼んで」
ヘレン先輩はわかって欲しい気持ちと最後に自分の要望をぶつける。
するとシズネが割って話に入る
「良いんですサリアさん。貴方の気持ちは伝わりましたから。私は大丈夫です」
そう言うシズネは覚悟をしているように見えた。
「あーもう!仕方無い!」
ヘレン先輩は諦めたようにサリアがシズネを助ける事を了承した。
「ただし、助けに行くのはオルベル祭が終わった後。きちんと優勝してからシズネのお母さんを助けに行く。そして助けに行くのに私も同行する。この事を家に報告する。これを守るれるなら行って良いよ」
許可をくれるばかりか手伝ってくれると言う。
家族想いな人だなーと思っていると
「それと、リアン君も連れて行って」
なんで?
「これは私が首を突っ込んだ問題です。リアンは関係無い!」
「リアン君はチェインの実力"だけ"はあるから戦力になるからね」
「しかし…」
サリアは更に言い募ろうとするがヘレン先輩はそれを許さない。
「サリアはリアン君を巻き込みたく無いんだ?」
「なら、俺の家に隠れちゃダメでしょ」
「リアンの家が一番安全だと思ったからよ…」
サリアは顔を赤らめながら言う。
いや、俺の部屋は女子寮よりセキュリティ低いよ…。
「で?リアン君はカンザキに行く?」
俺は少し悩み…まぁいっか。いっぱいチェインできそうだし。
「行きます」
「よし!決まりだね!」
ヘレン先輩はパンッと手を叩くと話を戻す。
そして、オルベル祭が終わってから助けに行く事。家に連絡を取って飛行機の手続きをしてくれる事、シズネの親が皇族なのでそう簡単に殺されない事を話し解散となった。
帰り際ヘレン先輩に
「シズネ君の部屋は今危険な状態だから泊めてあげてね」
と言われた。
は?
「は?」
俺の心の声とシズネの声が重なる。
クラスメイトとはいえ、あんまり知らない女子を家に置くなんて普通あり得ない。
ヘレン先輩の部屋でいいじゃんとかサリアの部屋はとか思ったがヘレン先輩は更に言い募る。
「そういえばサリアも部屋危ないから泊まって行きな?」
「そ、そう言う事なら仕方無いわね。泊まるわよ」
サリアは偶に泊まったりするから良い。
しかし今何故、了承しちゃうの?そしてちゃっかりシズネは居座ってるし、何やねんこいつ。
俺の年齢だと転生してるから犯罪になるとか従姉妹を男の家に置いて行くか?とかシズネって皇族じゃないの?とか色々考えたが結局頭の中でま、いっかとなった。
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話し合いを終えた俺達はスタジアムに戻りサリアの決勝戦を観戦する。シズネは危ないのでお留守番だ。
対戦相手が出て来る。
相手はあのグレイ君だった。
「おい。女!何でグランミディアの代表がリアンじゃなくてお前なんだよ!」
「やらせの試合で代表にされたのよ」
サリアが不満気に言うとグレイは「また、国の都合かよ。ケッ」と言い捨てる。
「安心しなさい。私は殆ど毎日リアンとチェインしてるから退屈はさせないわよ」
「それは楽しみだぜ!」
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winnerサリア・コンティノール
グレイ君強くなったなー。
しかしやはりカルナが強い。フィニッシャーとして優秀だ。
序盤のルートも完璧だった。そしてまたサリアの目が燃えるように光って見えた。もう才能が完全に開花しているらしい。
控え室から出て来たサリアと寮に帰る。寮までヘレン先輩が護衛しながら足早に帰ったので見つからなくて済んだ。
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