第23話 開花

サリアは盤面を見下ろして戦況を確認する。


私は…あいつに勝つ為にチェインを続けてきた。なのに…結局あいつとは満足に戦えず…リアンを裏切った奴に…負ける…?


負けたくない…負けたくない負けたくない負けたくない…私は…勝ちたい!!


サリアはその瞬間、頭に今までのチェインの記憶が全て流れて来た。そして…リアンに言われた事を思い出していた。


「カードゲームは運ゲーだよ。だから俺達カードゲーマーはその運を引き寄せる為にサーチカードやドローカードを入れまくる」

「だから負ける事なんて考えなくて良い。次引くカードが何なら勝てるか考えておけ。フィールドと墓地と手札、盤面の全てを確認し、理解しろ。全ての勝利の道程ルートを考えろ。そうすれば…次に何が来るか自ずと分かる」


そうだ。負ける事なんて考えなくて良い!自分と相手の盤面に集中しろ!全て理解しろ!そうすれば何が来るか…分かる!


「来い!!カルナ!!」


サリア7ターン目


「ドロー!!」


結局私はまたあいつに助けられたのかな?


「コネクトフェイズ」

「メインフェイズ」

「コネクト0で"繋がれた龍像"をチェイン。更にコネクト4で"スフェイラ山の赤竜"と"疾風ゼイリード"をチェイン」

「"疾風ゼイリード"のチェイン時スキル、疾風加速。デッキから一枚ドロー」

「そして…」


サリアは目を瞑るとこの勝負の全てのターンが蘇ってくる。


目を開くとサリアの瞳は燃えるように輝いていた。


「"疾風ゼイリード"にコネクト6でWチェイン!」

「鎖の称号持つ龍の王よ、カルナの名の元に神を喰らえ!!」


「―――"龍鎖 チェインカルナ"‼︎」


狼のようなスリムなフォルムに、鱗が朱色に輝く。背から生えた5対10本の鎖を垂らし、黄金の瞳が敵を射抜く。鎖をさながらマントの様に翻し咆哮する。


「"龍鎖 チェインカルナ"のWチェイン時スキル発動、龍鎖。相手モンスター1体の結合力を0にし、そのモンスターは攻撃できず、スキルを発動できない」

「私は"花武将 義宗"を選択」


"龍鎖 チェインカルナ"の背中から生えている鎖が"花武将 義宗"に絡みつき、縛り上げる。


すると"花武将 義宗"は力が抜けたように体がへたれる。


「更にストーリーカード(イベント)、"アリシア協定"をコネクト消費2で発動。相手モンスター1体を選択する。そのモンスターはこのターン戦闘で破壊されない。そして、自分のモンスター一体の結合力(c)を30上げる。"花武将 義宗"を選択、そして結合力(c)を上げるのはカルナ!」


"花武将 義宗"は鎖で縛られた上に糸で体の隅々まで拘束される。


そして"龍鎖 チェインカルナ"は咆哮を上げる。


「バトルフェイズ、"スフェイラ山の赤竜"で"花武将 義宗"を攻撃」

「"スフェイラ山の赤竜"攻撃時スキル発動、赤熱化。攻撃中、結合力(c)を10上げる」

「更にソウルモンスター"繋がれた龍像"二体のスキル、龍気。龍種のモンスターの結合力(c)を10上げる」


"スフェイラ山の赤竜"は赤い裏子を更に赤く染め上げ湯気が立ち込める。そして口からブレスを放ち"花武将 義宗"に直撃した。


しかし、鎖と糸に縛られた"花武将 義宗"はその場に残る。糸が"花武将 義宗"を生かしていた。


"スフェイラ山の赤竜"の結合力はスキルによって40+10+10+10で70。よって70のダメージが直撃した。シズネのライフは80。


「"龍鎖 チェインカルナ"で"花武将 義宗"を攻撃」

「ソウルモンスター"繋がれた龍像"二体のスキル、龍気。龍種のモンスターの結合力(c)を10上げる」


"龍鎖 チェインカルナ"は口に炎を溜めていく。口内で溜まった炎が荒れ狂い歯の隙間から噴き出してくる。限界まで溜められた炎を"花武将 義宗"に向かって放つ。それはレーザーのように"花武将 義宗"を飲み込む。それでもブレスは止まらず"妖花刀の鞘"を焼き殺した。


110のダメージ。


winnerサリア・コンティノール


「ハァハァハァ…」


息切れが止まらない。しかし感じるのは疲労感では無く高揚感である事にサリアは驚いていた。


口角が上がって行く。


そうだ…これが…これこそが…


「楽しい!」


この時、サリアはリアンと似た笑顔をしていた。


==================================


シズネは試合を終え控え室で顔を伏せ座っていた。


コンコンとノックの音が鳴るが今は出る気になれない。


「入るわよ」


入って来たのは先程までチェインをしていたサリア・コンティノールだった。


「裏切り者には相応しい姿ね」


「何しに来たんですか?」


シズネは暗く深く絶望したような表情で、しかし敵意を向けながら答えた。


「リアンに謝らせる為よ。本当は殺してやりたかったけど…リアンはそれをしても喜ばないだろうし…」


「謝らせたかったんですか?良いですよ。どうせもう終わりなんですから」


シズネは諦めたように言う。


「どういう意味?」


「貴方のような名家の育ちの人には分からないでしょうね!」


突然シズネは大声で怒りを露わにした。


「だから終わりってどういう意味よ」


努めてサリアは冷静に質問する。


歯軋りをしながらシズネは何かが爆発したように自分の境遇や母が人質にされている事を叫んだ。


それは自分が楽になりたいからか諦めからきたものが漏れ出したのか…。


サリアは静かに「…そう」と答え、


「それでアンタはどうしたいの?」


「え?」


サリアのまさかの質問に驚いた顔をする。


「アンタはそれでいいの?」


「もう良いんですよ」


シズネは疲れた表情をする


「そ、だからアンタは所詮人の言いなりになる人生なのよ」


「何が言いたいんですか!」


「助けたいなら助けたいって言えば良いじゃない」


「そんな事出来るわけないですよ!」


「アンタを見てるとイライラしてくるわ。出来ない出来ないって」


「でも…」


「なら、私が助けてやるわ。そのアンタのお母さん」


「え?」


「その代わり、お母さんを救えたらリアンに謝りなさい」


「どうやって…」


「そんなの後で考えれば良いのよ」


==================================


俺達はVIP席で優雅にサリアとシズネのチェインを眺めていた。


「あのストーリーカード(コネクトアイテム)って何ですか?」


「ああ…あれはコネクトゾーン最後にコネクトされたカードに重ねて最後にチェイン(召喚)されたモンスターに装備する事ができるカードだよ。でもコネクトアイテムが装備されている間はコネクトが出来ないし、装備モンスターが破壊されるとコネクトアイテムも破壊されてしまうから使い所が難しいカードだね」


ヘレン先輩は「まぁストーリーカード(コネクトアイテム)は2年になってから習う範囲だから知らないのも仕方ないよ」

と言ってくれる。


相変わらずヘレン先輩は何でも知ってるな。


するとサリアはカルナをチェインした。


あれ?何でカルナを持ってるんだ?預けたんじゃないの?


そう思い、ヘレン先輩に聞くとどうやら今回だけ使わせて欲しいと言われ渋々渡したらしい。


色々ヘレン先輩に聞いているとチェインが終わった。


良い勝負だったなー。なんか最後サリアの目が燃えてるように見えたけど、見間違いか。


「いやー良い試合だったね!サリアも開花したみたいだし!」


「開花?」


「開花っていうのは才能が開花したって意味だよ」


そう言うとヘレン先輩は才能について説明してくれる。


「才能って言うのはチェインについての才能なんだけど最近才能の種類がある程度分かって来たんだよね。人間が世代交代を重ねて進化して生まれて来たものなんだけど。それで才能って言うのは数十人に一人の確率で表れて基本16歳になると開花するって言われてるんだけど…サリアはもう既に開花している」


「でもサリアは13歳ですよね」


「そう。でも極稀に16未満で才能が開花する人間が居るんだよ。それを皆んなは天才って呼ぶ」


おお!天才…なんかかっこいい!


「彼女のタイプからして視覚系の才能だと思う」


「他にどんな種類の才能があるんですか?」


「今分かってるのは考えることに対する才能である思考系、見て瞬間的に判断したり記憶できる視覚系、感覚を匂いという形で感じ取れる嗅覚系、相手の音で感情を読み取る聴覚系の四つだよ」


「ヘレン先輩は何か才能持ってないんですか?」


「私も持ってるよ。サリアと同じ視覚系。私のは次の一手ネクストビジョンっていう才能だよ」


「なんかかっこいいですね!」

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