第14話 生徒会の思惑
お互いの準備が整い、いざ勝負と言ったところで待ったが掛かった。
「この勝負、一時中断せよ!」
声を上げたのは生徒会長に付き従っている生徒会役員だった。
観客達が騒ぎ出す。
何事かと顔を向けると生徒会長は笑顔で俺達に話しかけた。
「やあやあ、初めまして、お二人さん。私は生徒会執行部会長のヘレン・ザーディア。よろしくね」
小柄でお調子者の様な喋り方の少女…ヘレンは自分が生徒会長だと言う。
生徒会長とは本来中等部にいるではない。生徒会とは各国の高等部にそれぞれ存在し、生徒会は全員高等部で構成されている。
つまり生徒会は高等部にしか存在しない。
そんな生徒会が中等部のそれも選抜戦に介入するなんて事は異常事態と言えた。
「何の用でしょう?」
とサリアが聞く。
「この度選抜戦のルールが変わった事を伝えに来た」
それは本来あり得ない事だった。いくら生徒会長といえどルールを変える事は、今まで何年と選抜戦を行われている中で不可能だと言えた。生徒会長はそんな事関係ないとばかりに話を続ける。
「ルールの変更点は使用するデッキをこちらが構築した3つの中からランダムで君達に配られる。そして敗者は今使っているデッキを没収とする」
それは端的に言えば「こっちの都合のためにヤラセに付き合ってね。あと君のカード貰っとくね」と言われている様なものだった。
観客達は騒ぎ始める。しかし相手は高校生だ。自分達より体が大きい相手に何も言えない。
デッキを変えられるのは流石にヤバイ。下手すりゃ全部バニラカードのデッキなんて物を渡されるかもしれない。
しかし一番問題なのは負ければデッキを没収という部分だ。
あちらの目的としては恐らく俺のカードを狙っているのだろう。
まぁカルナだろうな
俺のデッキはレアなカードも入っているが金さえあればカードショップ等で普通に買えるカードだ。
唯一カルナだけが何処にも置いてない。何故だろうと調べた事もあったが結局分からなかった。
お父さんなんかやっちゃったのかな?
そんな中一人が反論した。
「待ってください。いくら生徒会の命令だとしても私は聞き入れません」
生徒会側はまさかの反論者に驚きを隠せないでいた。
本来サリアはどちらかといえば生徒会側の人間だ。しかし、そう思われていただけで実際は違ったらしい。
「何故貴女が反論するのですか?」
生徒会長の側近である女が困惑しながら聞く。
デッキを渡し国の代表者にしようと考えていたくらいだ。そして恐らくランダムだと言いつつ、強いデッキをサリアに渡すだろう。そんなところで反論しても裏切り者と捉えられたかもしれない。
それにこの状況はサリアにとって圧倒的に有利な筈だ。そんな事をサリアが分かっていない筈がなかった。
しかし、彼女は怒りを滲ませながら反論した。
「納得いきません。急にデッキを変更しろとか負けた方のデッキを没収するだとか」
俺も便乗しよう。
「そうだそうだー!」
サリアはギッとこちらを向く。睨まれてしまった。
すると生徒会長は一歩前に出てサリアに諭す様に語りかける。
「これは貴女の為でもあるんだよ。君には私達も期待してるんだから」
そう言って彼女にデッキを渡す。
しかし…
「受け取れません!」
「…そっか。じゃあ仕方ないね」
そう言うと生徒会長はニヤニヤしながらサリアに近づき耳元で何かを話す。
するとサリアは顔が青ざめていき一瞬俺の方を見ると意を決したように宣言する。
「それでも構いません!ルールを元に戻して下さい!」
「これでも駄目かー」
ナハハ…と困った笑みを浮かべる生徒会長。
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生徒会長は小声で周りに聞こえないように。
(私の言う事を聞けば勝たせてあげるよ?)
サリアは睨んだまま動かない
「…そっか。じゃあ仕方ないね」
生徒会長と言った少女は私の耳元で一番後悔している記憶を脅しに使って来た。
(このルールに従わないと言うなら貴女の過去をバラすよ♪)
サリアはこの瞬間驚き、そして直ぐに敵意を向けた。
(何の事ですか?)
シラを切ろうとしたが汗が止まらない。
生徒会長は真顔になると
(惚けても無駄だよ。過去の事は消えない。君が彼や多くの人を虐め苦しめて来た事、知らないと思うかい?)
(───ッ⁉︎)
いつかこういう日が来るだろうと思っていたが、サリアは脅しで使われるとは思ってもいなかった。
今までにそういう行為をしてきた相手には全員に謝罪をしたしその場では許しをもらう事はできたが、やはり許せなかった人間はいたらしい。
そう言った人間が生徒会に私の過去を話し今の状況になったのだろう。
しかし、それでも、リアンは私との勝負を楽しみにしてくれている。そして、私も楽しみにしている。理由はそれだけで十分。
それなのに私自身でその楽しみを奪う訳にはいかない!例え過去を晒され最低な女として生きる事になったとしても!
スゥー
「それでも構いません!ルールを元に戻して下さい!」
サリアは静かに息をすると覚悟を決めそう宣言した。
「…やろう」
覚悟を決めた矢先リアンが勝負に応じようとする。
「リアン!?これがどう言う勝負か分かっているの⁉︎」
「分かってるよ」
「ならなんで…?」
「友達が苦しんでるところは見たくないから」
リアンは穏やかな表情で笑いかける。
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俺はサリアに詰め寄る生徒会長に顔を青くしながら何かを我慢する様に決意を固めた表情をする彼女を見た。
恐らく何か言われたのだろう。それでもサリアは折れずに俺と正々堂々とした勝負をしたいと言った。流石俺の友達。
俺だって今の本気のサリアとゲームをしたい。
しかし、何故彼女が苦しまなければならないのか。
そう考えるとどうにも怒りが湧いてくる。
どうすればサリアは苦しまなくて済む?どうすれば笑顔が戻ってくる?
あいつは笑顔でシャカパチして台パンしている姿が良く映える。
考えた結果は俺が勝負に応じる事だ。まぁ確実にほぼ100%負けるだろうけど。
トレーディングカードゲームというのはデッキが勝敗の要因になる事が多い。環境デッキなどと言われる言葉が生まれる程だ。
そして俺はカルナを失うだろう。それでも友達の為ならデッキの1つや2つどうって事ない。
しかしそれでもあいつらにデッキを渡すのは癪に障る。腸が煮え繰り返りそうだ。
だからカルナは彼女に渡そう。そう決心する。
「やる気になってくれたみたいで良かったよ!」
生徒会長は早く始めようと言った様子だ。
だから俺は
「生徒会長、始める前に少し時間を下さい」
「何かなー?怖気付いちゃったー?ナハハハハハ!」
「いえ、サリアに渡したいものがあってね。サリア!」
俺はサリアに呼びかける。
「お前にこれを渡す」
そう言って俺はカードを1枚サリアに渡す。
「これは!でもこれはリアンのお父さんの形見で…それにあんたが一番嫌いな事は自分のカードを取られる事でしょ!」
「だからこそだ。だからこそあいつらに渡すよりお前に持っていて欲しい」
「…」
サリアは深く考え込み沈黙する。
「お前に託す!」
サリアは先ほどの様な、しかし顔色は良いままで覚悟を決めた表情をする。
「分かったわ。確かに託された!」
「は?何を言って…そんな事良い訳ないだろ!」
生徒会長が会話に入り込んでくる。まさか俺が父親の形見であるカードを手放すなどとは考えていなかったみたいだ。
「カードの譲渡や交換は国外の人間と行う場合許可が必要ですが、国内の人間であれば自由。校則に書いてあります。オルベル学園では校則こそが法、そうですよね?」
生徒会長はクッと言った顔をしたが流石に校則には逆らえないので渋々引き下がるしかない。
「では、始めましょうか。サリア思いっきりかかって来い」
「当たり前よ」
生徒会役員の女が憎々しげな顔を浮かべ俺にデッキを渡して来る。
「リアン・ミーサーク」
「サリア・コンティノール」
「「チェイン バトル‼︎」」
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