第12話 本質的カス野郎
次の日からあいつの生活は地獄に変わった。
靴を隠されるのは当たり前、暴力や陰口、暴言等あらゆる嫌がらせをしてやり心を折ってやると意気込みやってやった。
「あいついつもカード弄ってて気持ち悪い」
「リアンの靴隠してやろうぜ!」
「いいねー!」
しかし、当のあいつは気にした素振りもなく生活している。
気に食わない!
次はどんな嫌がらせをしてやろう。そうだ!裸の写真をばら撒いてやろう。
そんな事を考えていると、親から呼ばれ塾に一緒に行く事になった。面談室に通されると目の前にあいつとあいつの親がいた。
何だろうと疑問に思って椅子に座っていると、先生が入ってきて言った。
「今回集まって頂いた理由は、リアン君が虐められている件についてです」
サリアは頭が真っ白になった。虐めしていたという感覚が無かったからだ。
しかしサリアと同じ様に状況を分かっていない人間がもう一人いた。
あいつだ。
あいつは「へ?」という顔をしながら困惑していた。
しかし先生は親達に塾であった事を説明して行く。
そしてサリアは今までして来た事に気付き絶望した。
私があんな低俗な事をしてたなんて…。
親達が私を睨む。大人の睨みに子供の心は耐えられず泣きそうになってしまう。
しかし、そこでサリアに助け船を出した人間がいた。
「まあまあ、俺も気付かない程度の些細な事ですよ。俺は気にしてませんから」と先生に言う。
は?こいつは何を言ってるんだあれ程の事をしておいて些細な事?
ふざけるな‼︎それじゃあ、私は何の為にあんな事をやったと思っているんだ!?それに、これで私を助けたつもりか?
イライラが募って行く。同時に自分が惨めに思えて仕方なかった。
結局この事は話し合いで決着し、後日また謝罪に行く事になった。
家に帰ると両親に物凄い叱られた。自分のした事に関しては反省している。しかし、あいつの事を考えるとモヤモヤが消えない。
後日あいつの家に着くと謝罪した。あいつは「OK」と言うと直ぐに家に引っ込んでしまった。まるで私の謝罪に価値が無いとでも言う様に。
それからチェインの稽古であいつの顔がチラつく様になった。
あの時の目が頭から張り付いて離れない。稽古に集中できない。
このままではダメだ。
サリアは問題を解決する為に原因を考えた。絶対にあの日、チェインで惨敗した事だと理解した。
サリアは気になる事は解決しないと気が済まない性だ。だから行動は早く、直様元凶の元へ向かった。
「私とチェインしなさい」
サリアはリアンの家に来て早々そう言った。
「いいよ」
それからサリアが勝つまで止めないと言う意思のもとチェインが始まった。
何度も戦った、それこそ日が暮れるまで、しかし一度も勝てなかった。
異常な集中力とデッキの性能差で次の手を読まれ、対処される。
悔しくて次の日も挑んだ。負けた。その次の日も。負けた。
次の日も。負けた。次の日も。次の日も。次の日も
ある時、サリアは疑問に思った。何故こんなにもチェインに夢中になれるのか。
「なんであんたはずっとチェインをしてるの?」
「好きだからだよ」
「毎日やってたら飽きるでしょ。それに嫌になる時だって…」
「無いよ」
サリアの言葉は直ぐに遮られた。
「カードを嫌になった事は一度だって無い」
その言葉は何処までも真剣で有無を言わさぬ迫力があった。サリアは口をつぐんでしまった。
「…どうしたら…そんなに好きになれるの?」
リアンは顎に手を当て、少し悩んだ仕草を見せる。
「才能…かな?」
「才能?」
「好きになる才能だよ。カードを好きになる才能、それと好きであり続ける才能」
「何それ」
サリアは呆れた様に言う。
「止められないんだ。止めたく無いし。カードゲームをしてない時でもカードの事を考えてる」
「依存症じゃない」
「そうかもね」
「…」
サリアは考える様に下を向く。
好きになる、才能か…
「…私も、好きになれるかな?」
「本人次第だよ。ソウルアタック」
そう言うとリアンはトドメを刺した。
「チッ」
サリアは舌打ちをするとカードを纏め、再びチェインをする為の準備を始める。
この時、サリアは気付いていなかった。化け物に足を掴まれ、底無しの沼に引き摺り込まれている事に。
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