第11話 本質的クズ尼
遂にこの日がやって来た。どれほど待ち侘びた事か。
サリアはフィールドを目の前に思い耽る。
あの日リアンに負けてから私は努力を続け、この場に立つ事が出来た。今日こそアイツを倒す。
闘志を燃やした瞳は赤く輝きを放っており観客を賑わかせた。
対する相手見て観客はどよめく。
「誰だよアイツ」
「知らなーい」
「ほら、オーザンの生徒とチェインした不良だよ」
「ブルート君じゃないのー?」
観客の一人が不満を言い、そこから連鎖的にブルートの名前が上がる。
ブルートって誰よ。
「あんな言いたい放題されちゃって良いの?」
挑発する様に言うと、リアンは俯いている顔をあげて答える。…目を見開かせ、口角を釣り上げながら。
「今はお前との戦いに集中したい」
私は彼の顔を見て背筋がゾクっとした。…と同時に私も自然と口角が上がっている事に気付いた。
あの時と同じ目。
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私の家は名門と言われるものだった。
歴史は古く代々優秀な軍人を輩出して来た家系だが、チェインが現れてから、しかしその才能はチェインをもモノにした。
そして私にも将来優秀な軍人になる為にと厳しい稽古を受けさせられた。
その反動か私はかなり我儘に育ったと思う。
しかし、周りに人は沢山いた。取り巻きという奴らだ。彼らは私に媚を売り甘い汁を啜りたかったのだろう。
私の顔が良かった事も原因の一つだとは思う。
しかし、そんな時私は厳しい稽古の次の日イライラしてチェインで取り巻きの一人を倒した。
直ぐに他の取り巻きは「さすがサリアさん‼︎」と声を掛けて来たが気にならなかった。
それ程、高揚していたのだ。
楽しい!
それから私は同じ塾の人や同年代の子に片っ端から声を掛けて行き喧嘩を売ってはチェインでボコボコにした。
勝負に応じない相手や私に勝った相手には嫌がらせをし、無理矢理戦わせた。私に勝った奴にはカードを奪ったりしてやった。
今考えると虐めと言われる行為にも至っていただろう。しかし当時は分かっていなかった。
ボコボコにした相手は舎弟としてついてくる様になった。
いつしか私は恐れられる様になった。
楽しかった。
弱い奴を倒すのが。
負けて悔しそうにしながら恐怖する姿が。
そして次のターゲットとしていつも一人でデッキを弄っている奴を狙う事にした。
私はこいつが気に食わなかった。いつも楽しそうにカードを見ている姿が。私は嫌になる程チェインの稽古を付けさせられているというのに…。
「ちっ」
思わず舌打ちが出てしまったが、取り敢えず取り巻き達にあいつを呼び出す様にと言う。
取り巻き達は次のターゲットを理解すると即座に行動した。
彼等も弱い人間が倒される姿を見たいのだろう。自分より弱い人間がいると安心したい為に。
そんな取り巻き達を鼻で笑いながら呼び出した場所に向かう。
場所に着くとあいつは俯きながら顔を俯かせて震えていた。
仕方が無い事だ大人数に囲まれて呼び出されれば誰だってびびる。
私はあいつが負けて泣きそうな顔を思い浮かべながら準備を終えた。
あいつも準備が終わったのかデッキを置く。
「ククッ…」
小さな笑いを抑える様な声が聞こえた。
私以外には聞こえていなそうだが確かに聞こえた。そして私はあいつを見やる。
ゾクッ…
背筋が凍る様な悪寒がした。
あいつの顔が対面している私に見えるか見えないか程に上がり私を見ていた。
目を見開きながら歯を剥き出しにした笑顔で。
「ひっ」
私は思わず声を出してしまった。
「?」
取り巻き達が疑問に思いながら私を見る。
「何でもないわ!」
私は気丈に振る舞う為に声を張り上げて言った。
あいつは何事もなかったかの様に顔を上げてニコニコしていた。
そこからは一方的だった。
あいつは坦々と私のモンスターを処理して行き完全に試合をコントロールした。
「"スフェイラ山の赤竜"で"疾風ゼイリード"を攻撃!」
「ストーリーカード、"賢者と神官と勇者への供物"をコネクト消費6で発動!」
「"龍鎖 チェインカルナ"で"
試合が終わるとあいつは満足そうな顔をしながら去って行った。
負けた、私が。いつも能天気でヘラヘラしてる様な奴なんかに。
許さない…!絶対に‼︎
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