76 朴訥
*
会議の後、
混血児の
しかし、その供とするはずだった二人がこんな形で
まだ見ぬ
悟堂が目覚めたのは
その目覚めを確認し、悟堂本人の意思を
結果、仙山大本営の
本当であれば、自分もそこにいたはずの場所だった。
たらればで今の境遇を否定したいとは思わなかったが、それでも、もう一つの起こり得た今に思いを
だが、それも思い描いた程に生易しい道ではなかったろう。今の食国になら分かるが、仙山程度の規模の集で朝廷に牙を
この仙山の策略で白浪が大いに辛酸を舐めさせられた事もまた事実。今の自分は、そこに
もう、仙山という道は、食国の進むべき物ではなくなっていた。
この報せを
出立の間際、母と少しだけ話をした。
母とは元々あまり言葉を交わす方ではなかった。
久方ぶりの母子二人の対話である。こうして
ただ静かに、食国から言葉が出てくるのを待った。
「――ごめん、母さん。何から話せばいいのか見当も付かない」
そうとしか口火を切れなくて、素直に告げると宇迦之は微かに笑った。
「構わないのよ。時間はあるから」
二人だけの時、母の話し方は、こうやって
「あなたに母さんと呼ばれるのは久しぶりね。ずっと
ぽそりという母の言葉に食国は片眉を上げた。
「人前だからだよ。母さんこそ、二人じゃない時はもっと
「こちらに決まっているでしょ。辺境の生まれ育ちなんだから。一応宮廷に属した以上、それなりの事を心がけているだけ。なんなら
「――いや。良いかな。口の悪いのは僕だけで十分だよ」
半笑いでそう断ってから、ややあって、食国は肩を下げるとぽつりと零した。
「ごめんなさい。無茶な役を押し付けて」
結局、結論がそれであった以上、その謝罪から進めるしかなく、食国が
「それこそ構わないわ。わたくしが適任だと判断したからでしょう?」
母の言葉に、食国は首肯すると、ややあってから真っ直ぐな視線を母に向けた。
「母さんは、いつも反対しないでいてくれる」
「そうだったかしら」
「そうだよ。僕が
「そうね。そうだったわね」
「ねぇ、あれ、ずっと不思議だったんだ。だって野犴がかつての仲間を見つけて迎えに来たって事だったじゃない。それに付いて行かないっていうのを受け入れられたって、客観的に見たら、ちょっと考えられなくて。……理由を聞いてもいい?」
宇迦之は少しばかり自身の
「――だって、自分の男を自分で選べるような年の者にあれこれ言うのはおかしくない?」
母のその
そう。無関心そうで朴訥としているのに、切り口がやたらと鋭くて
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