34 三騎
*
水泥は
蒸州内は水源が豊かだ。ここまでの道中では水の確保も
しかしこの先はそうもいかない。革袋二つ分に水を詰める事になる。それでもこの先にあると聞いている三か所の水源が
馬上で、少しだけ
産の時からの付き合いであるし、養育も一部手伝ったため、水泥も彼を自身の子のように一部錯覚して育てていた側面はある。その影響が
かねてより水泥は、隴欣の症状を緩和する術はないものかと、知己問わず声をかけていた。
多少
噂の出所はどうあっても明かされなかったが、どうやらあるのは事実らしい。半信半疑だったが、なんとか
水泥は、黙って
麻硝は今
しかし、
泣き疲れて眠った豊来を紅江に渡して、水泥は親子に背を向けた。
大きく健やかに育って欲しいと心から思う。
そして、彼等四人の安寧なる未来を祈った。
間もなく蒸州の囲いを抜けようという時に、前方に二つの騎影が見えた。水泥はわずかにその相好を崩す。
ああ、よかった、と。
近くまで寄ると、馬から降りていた二人が拱手して待っている事が分かった。少しだけ急いで近寄り、水泥も馬から降りた。
「
「はい」
「お待ちいたしておりました」
二人は静かに頭を垂れた。
「我々、禁軍大将軍
「並びに――
水泥はゆっくり微笑む。
「はい。それで合っています。お手数おかけいたしますが、よろしくおねがいします」
言いながら、水泥は丁寧に
その様子に、李毛は思わず目を
場合によっては油断の
人柄、と言う事だろう。
この時、李毛の脳裏に去来したのは、やはり大将軍の事である。
軍という機構は本来、兵になど多くの思考を求めない。序列の上位を維持し守る盾となる為にその
――お前にも心と、自力で歩いてきた過去があるだろう。だったら自分の頭で考えろ。進むべき道とは、お前自身の足が
まっすぐに掛けられたあの言葉が、李毛の心臓に常にある。取りも直さず、それは常に
光を失った両の眼で、誰よりも遠い国家の未来を見据えている。その大将軍から直々にこの護衛の任務を拝命した。李毛が受けぬはずもなかったのだ。
時は弥生の末。
この時李毛は――
明けない闇夜の中、三騎は
本来であれば瀛洲まで無事に送り届ける旨大将軍側より、
仙山と危坐の繋がりを知る者は多くない。
今回彼等が共有する
戦という物は、圧倒的に物量が多い陣営が勝つように出来ている。
姮娥の総人口は凡そ五千万。
内、禁軍で五百万、黄師で百万。
臨赤の総数は二千万。その内訳は、まつろわぬ民で五百万。姮娥で一千五百万。内、兵として機能するものが五百万だ。
仙山は七年前には二万あったものが一万五千に減じている。
五邑全体は人口が三千弱。
そして――妣國は二億だ。
かつて夜見がこの圧倒的に兵力の異なる妣國に対して持ちこたえる事ができたのは、
国主たる
禁軍中、大将軍の掌握下にあるのは現在四百五十万。黄師で九十万。この黄師の内六十万は瓊高臼の預かりである。つまり三十万が大将軍の下に入っている。
これに対する物が仙山に限られるのであれば、数の上では月朝の側に軍配が上がろう。しかし大将軍及び瓊高臼と、仙山の合算であればこれは容易に逆転する。かつ仙山とまつろわぬ民によって、臨赤、延いては危坐州が辛くも結ばれているという事実がある以上、
無論、懸念事項は山積している。
仙山と瓊高臼の黄師が
かつ、
この内、最も散華刀の扱いに
『
これは死屍散華の量を文字通り際限なく増大させるのだ。
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軌を一にする――《「北史」崔鴻伝から。両輪の幅を同一にする意》国家が統一される。
参照https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E8%BB%8C%E3%82%92%E4%B8%80%E3%81%AB%E3%81%99%E3%82%8B/
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