第5夜「幽霊」


 ――夜明け前にアレを買いに行かなきゃならない。


 そう思いながら家を出ると玄関先に女の幽霊が立っていた。たたずんでいた。



 とても古典的な白い着物を着た長い髪の女だった。


 私にアレをくれようとして待っていた。



 不快だった。

 幽霊のアレは見かけばかりで使えないと聞く。


 私は、完全に見えないフリを決め込んで、彼女の脇をすり抜け、駐車場に向かった。


 背後にとても落胆した「気配」を感じた。



 バックミラーをのぞくと、彼女は別の人にアレを差し出していた。その人がそれを受け取ったのでとても満足した様子に見えた。


 私は、救われた気分になった。


 少し、胸の痛みは残っていたが。




 おわり


 

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