第4話 「イスト」達の「イズム」~ドーゲン坂ヴィレッジ

一応は、その他にも実は毎日食べられる、質がいい訳ではないが配給食品よりは格段に美味いといえる、同じく無料な炊き出しがあるにはあるのだが…。


 いわゆる「イスト」と住民が呼んでいる複数の、それぞれ別々などうも対立し合ってるいくつかの集団が、それらを各地で行っている。


 まあ強制ではないものの、ただ炊き出しの前には彼らの退屈な「イズム」の演説があり、すぐゴミになるパンフレットを渡されて読まねばならない。「イスト」達はそれぞれの炊き出しの演説で、「君たちはメガコーポなどの資本家に搾取されている!」とか「我らが祖国、ニホン人の誇りを取り戻し、ニホンを再興しよう!」とか「我らのアナーキズムの理想は踏みにじられ革命は裏切られた!」とか、あとは単純に「統一機構の独裁支配を倒せ!」などなど演説を長々と垂れる。


 その後「我々に『委任状』を託して欲しい」と、これも強制でないが、うんざりするほどしつこく頼まれる。


 だがせっかくそれなりの額で「委任状」はブローカーに売れるのに、ちょっとした炊き出しの飯代とでは全然割に合わずバーター取引する気はなく、2,3回行って嫌気がさして、食費が浮くのは分かっててもそれ以来行っていない。


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 聞いて回ったがやはり今日はヨヨギ・ヴィレッジでは「慈善活動」の炊き出しはやっていないらしく、とぼとぼと歩き、ここらへんでは一番大きめの集落である、ドーゲン坂・ヴィレッジならもしかしてやっていないか?と思った。


 ドーゲン坂・ヴィレッジ、「ドーゲン坂」とも呼ばれる、焼け焦げた商業ビルを補強したりその前でテントをしたりと賑わっている集落へ、がれきの撤去だけはされた、ひび割れた道を歩いて行く。


 ドーゲン坂はその南に広がる湖、「ハチ湖」のほとりにあるが、あまりその湖は魚がいるわけでもないし、有害なため飲み水には使えないらしく、その集落からでる生活排水でかなり汚れてヘドロだらけで悪臭を放っている。


 街の中と外は、がれきが片付けられていて、舗装がちゃんとされひび割れていない道が通っているところが「ヴィレッジ」と「荒野」との境界線だ。


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 舗装された道へと入りヴィレッジに到着すると、しばらくは治安はあまり良くなく、電子ドラッグなどの常用者もいて、それなりに危険な路地裏の近道をナイフを隠し持ち警戒しながら歩き、路地を出ると広がる大通りに面した馴染みの酒場までたどり着いた。


 この辺の建物も補強やリフォームがされていてかなりマシになっていて、ちゃんと割れていない修理されたガラス扉で開けて入る。席に座り、少し小太りの老け顔で損をしているようなウェイトレスに「冷たいエールを一杯」と頼んで外をぼーっと見てみた。


 集落から見やすい位置にある大型の空中投影で、「臨時投票日4月5日を忘れずに」と広報されている。


 臨時の票の付与か…と思い耳をすますと、今回イレギュラーな事が「上」であったらしい、緊急総会が開かれるからのようだ、と酒場に来ているレイバーらしき人達の席で酒のつまみの話にして盛り上がって情報交換している。


 よし、「上」の事情など知ったことではないが、また「委任状」が売れて臨時ボーナスになるな、と少し気分が良くなり、もうすぐ臨時収入があるのだからと、もう一杯エールを頼んだ。

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