第23話 引き出しの中に広がる世界
どうやらまずいことになった。
どうやって入って来たのか? いつ入って来たのかも分からない。僕が魔力を感知するため、トレーニングを行って居た何処かのタイミングで、この禁書庫に入って来たのだろう。
ザーザ先生も、僕がトレーニングに集中してるため、彼も彼で僕の様子を見ていて気付くことが出来なかったみたいだ。もし、これがトレーニングの合間で有れば、再開する前に誰も来ていないことを確認し、トレーニングに入っていた。例え誰かが入ってきても、予めフィオーネさんの振りをすることができ、事なきを得る算段だった。
しかし、現実はうまくはいかないらしい……僕等の気付かない間に部屋に入って来た。そして、もう距離にして五メートル有るか無いかの距離にいた。
思考を巡らせてもみたものの、良い言い訳など浮かぶわけもなく。ましてフィオーネさんの机で、桃色の小さい悪鬼とこの世界には無い服装をした女の子がいるのだ、怪しさレベルMAXでしかない。
「おい、貴様!? 此処で一体何をしている」
「あっ、貴方こそ!? 此処で何をされているのですか?」
「……警備で……みっ、見廻りだが……」
しまった、僕は焦ってて逆切れし場違いな質問をしてしまった。
見回りに来ているのは、聞くまでもないのに(汗)
「ですよね~~」
「で、お前は一体ここで何をしている」
どうしよう、めっちゃ僕等を睨みつけてる。うわって思ってギュッと目を瞑る。ヤバイヤバイヤバイ、とパニックになっていたその時、急に頭の中で誰かの声が響いた!? 『唱えて、ララバイ』その声に言われるがままに僕は唱えた。
そう言うと、さっきまで僕達を警戒していた警備の男が、突然膝から崩れるように前へ倒れた。
(うわっ、顔面から行った、
念のため近づいてみると、グゥワヮヮ、プヒュー、グゥガガガ、ガッガッガッと、と寝息を立てていた。どうやら、額の防具のお陰で辛うじて鼻の直撃は避けられたらしい。
(良かったぁ~~)
"No ! Don't do that. Mr. Zarza"
「ザーザさん、やめなさい、ダメだったら」
魔法が効いているので問題無いと言うと、ザーザさんは倒れた警備兵のお尻に乗っては、色んなポーズをしてみせた。それに飽きるとお尻を起点に、滑り台のように背中をヒャッハーーと滑ると、空中で一回転した後、後頭部に着地した。
”グキッ”って、何か鈍い音がしたが、ここは見なかったことにした。
「アハハハ(汗) じゃ、じゃあフィオーネさんを助けに行きましょうか……」
"Are you ready?"
意を決して例の四段目の引き出しを引いた。
開いた引き出しの中から物凄い勢いで風がブワっと吹き抜けた、かと思うと今度は逆に掃除機のように僕達の頭を吸い込んだ。
引き出しの中に顔を突っ込んだ状態の筈なのに、そこには見たことも無い森林地帯が眼下に広がっていた。ちょうど真ん中辺りには、巨大な大蛇が這ったようにクネクネと長く伸びた大きな川が見える。元の世界で言うところのアマゾン川のようだった。
禁書庫の部屋に居たときは気付かなかったが、薄っすらと空は明るんでいた。随分時間が経過していたらしい。月明りに照らされた大きな川の表面は徐々に徐々にその全貌を太陽の光が照らされることにより、さっきとは別の顔を表し始めた。暗いときには穏やかな顔をしていたそれは、物凄い濁流が流れている恐ろしい表情へと変貌していく。
それにしてもさっきまで、引き出しの中を覗き込んでいたはずなのに、いつの間にか空に投げ出されているなんて。今は二人とももう何千メートルもの高さの空を漂っている。左右を見渡せば所々雲が浮かんでいるのが見えた。
いま僕らは浮かんでる訳でも、空を飛行してる訳でも無い、今は物凄い高さにいるから余り実感は湧かないのだが、間違い無く徐々に徐々に下へと降下している。
さっきまで、引き出しの中を覗き込んでいたはずなのに、いつの間にか空に投げ出されていたのだ。今は二人とももう何千メートルもの高さの空を漂っていた。所々雲が浮かんでいるのが見えた。
それより僕らは浮かんでる訳でも、空を飛行してる訳でも無い、今は物凄い高さにいるから余り実感は湧かないが、間違い無く徐々に徐々に下へと降下している。
つまり地上へと落ちているのだ!?
この世界にパラシュートが有るとか無いとか関係なく、それに相当する物が無ければ、僕等に待つのは死か、運が良ければ真下に見える何れかの木に引っ掛かるかだ。でも、こんな高さから落ちて無傷で済む分けがない。
無傷で木の枝に引っかかっているのは、漫画の世界の話だけだ。
そう、現実は地面の直撃から免れても木の枝は柔らかくない。最悪体の一部に突き刺さることだって有る。それに葉の部分だって鋭利な場合、新しい紙と同じように、スパッと鋭く肌を斬ることだって考えられる。しかも一枚の紙とは異なり、無数にも有る鋭利な葉は、僕の体を悉く斬り刻むことになるだろう。
そうこのままでは、大森林に二体の新鮮な死体がもれなく、此処に住まう住民に提供される未来が待っている。
何か秘策を考えないと……
何とか出来ないものだろうか?
手始めに空中の中で手足をバタバタさせる。 もちろん何も起きない。
手足がダメなら今度は首や背中を逸らしたり、腰を捻ったりして見た。
当たり前かも知れないけど、対して動きは変わらない。
(それにしても寒い……)
何か良い方法は無いものだろうか……そうだ、魔法!?
ザーザ先生に何か良い魔法はないか訊いてみよう!?
ザーザ先生の方を振り向くと、何故か彼は両手を顔で抑えていた。良く見ると、桃色の肌が紅潮していて、いつも以上に赤い。普通は死を目前なのだから、顔が青ざめてもおかしくないのに、どうしたと言うのだろうか? 彼には空の上は熱いのだろうか?
一体どうしたのですか? と彼に尋ねると、片方の手で僕の腰の辺りを指した。
ん? 彼が何を言いたいのか? 分からなかったので、もう一度尋ねると、彼は僕に『アンタは一国のお姫様だろ、恥じらいと言うものを知らないのか?』と少し窘めるように言われた。
もう一度彼の言葉を頭の中で整理した後、今一度自分の下腹部を確認した。あ~~あなる程、制服の姿だから、臍出しにルックになっていた。
彼には見るに堪えないってことらしい。僕は服でお腹を隠すと、イタズラに彼にウィンクしてみせた。
しかし、彼は先ほどと同じで猶も僕に注意をしてきた!?
"Not talking about your navel! It's even worse. The one's embarrassing thing is exposed from your under."
「臍じゃ無い!? もっとアンタからヤバイものが晒けだされている」
ん? もう一度下を見てみる。
カァーーーーーーーーーー(恥)
みるみる自分でも顔が紅潮して行くのが分かった。徐々に女の子と言う意識も強くなって来ているらしい。落下しているので、スカートが捲れ上がり、下着が丸見え状態なのだ。
最初にこの世界に飛ばされた時はトランクスだったのだが、ローゼンマリアさんの屋敷に飛ばされた最初の夜、寝る前に替えの下着を用意して貰った。
その時出されたのは、当然女性物の下着で正直困ったが、断ることも出来ないのと、同じものを明日また履くのは男の自分でも嫌だったので、清潔のため仕方が無く着替えた。
着替える際にいつも有る物が無かったことは、此処では敢えて触れないでおく(汗)
選んだ下着は、全体は水色で真ん中には少し大きめのピンクのリボンが可愛く付いており、足くぐりと左右の合間にピンク色のレースがあしらわれたショーツだ。
それが、ザーザ先生にバッチリ見えてしまっている。一国の姫が、相手が魔族だとしても、殿方にパンツ丸出しで平気な顔をしていたのだ。
ザーザ先生が諌めるのも無理はない。
僕は慌てふためいて必死にスカートを抑えようとするが、下からの空気抵抗に抗えるはずもなく、両手でショーツが隠れる程度に抑えるのがやっとだった。
" Rather than that, could we possible to stop this fall/drop?"
「そんなことよりも、この落下を止めることは出来ませんか?」
そんなこと? いやいや、女の子なんだから、もっと自分を大切にするべきだと更に非難された(汗)
しかし、今は恥じらいについて問答している場合じゃない。
何故なら、確実に僕等は下へ下へと落ちて言っているのだから。
"Well, please stop talking about my underwear issue any more,OK! Anyway, at this rate, both of them will fall to the ground and die."
「もぉーー私の下着の話はいいですから!? このままだと二人とも地面に落ちて死んでしまいますよ~~」
それを聞いて彼も我に返ったのか、空中でロダンの考える人のポーズになった。数秒して私にこう答えた。そう、魔法を使いなさいと……
" I know what are you gonna say, but what sort of magic should I use?"
「そんなことは分かって居ます。でも、何の魔法を使えばいいんですか?」
そう言うと、彼はあからさまに"あっ!?"って顔をした。
僕が魔法が使えなくなっていたことをすっかり忘れていたのだ。さっきまた使えるようになったばかりで、どんな魔法を使えるのかまでは、全く未知の状態だ。
しかし、それでもザーザ先生は眉間に皺を寄せ、不思議な顔で僕を見詰める。まるでオカシイな~~と何か言いたげな顔だ。
"What's wrong? Why are you gazing me with suspicious eyes?"
「どうしたんですか? どうしてそんな人を疑うような目で見るんですか?」
"Well, I thoght you had already remembered how to use your magic, didn't you?"
「いや、もう魔法の使い方を思いだしたと思ったんだが、違ったのか?」
”I remembered?Why?What do you mean?”
「思い出した? どういう意味ですか?」
”Earlier, I said nothing, but you used "Lullaby"."
「さっき、私は何も言って無いのに、ララバイを使った」
”Uh, well...that's because..."
「あっ、それは……」
"What is that?"
「それは?」
"In my head, someone told me like that..."
「頭の中で、誰かがそう呟いたので……」
"Ok, so why don't you listen to it again?"
「なるほど、じゃあまた聴いてみればどうだい?」
そんな簡単に上手く行くわけが、疑いつつももう頼みはこれしかない。僕はさっき頭の中で声を発した誰かに縋るようにギュッと瞼を閉じた。
「唱えるの、Wing Flaw Levitia(ウィン フロウ レヴィーシア)」
唱えた瞬間、まるで自分の背中に翼が生えた感覚になり、そして地面へと引っ張られていた先程の感覚は無くなった。
浮いている。
コレでもう大丈夫。
って言っても、もう知らない間にこんな高さになるまで落ちていたとは。もう目と鼻の先には大きな川のウネリガ見えた。残り数十メートルの高さ。
あと数十秒、いや数秒唱えることが遅れていたら……僕も彼もこの大きな川の濁流に呑み込まれていた。
「成功しましたね……ってアレ?」
ノーーーーと言う声が眼下から聴こえる。そうか、僕は魔法で飛べてもザーザ先生は魔法が使えない。さて、どうしたものか? 浮遊は出来ても、もうあんなところまで落ちている。このまま行けば、彼は……
バッシャーーーーン!?
遅かった、見事あの大きな川へとダイブした。
僕はそっと両手を合わせ、今まで色々助けて貰ったことに感謝した。
「短い間でしたけど、いままで『まだ、死んで無い!? 早く助けろ~~』ああやっぱり、まだ生きてましたか」
僕はそう言うと、誤魔化すかのようにお茶目にテヘペロした。
……まあ、その後急いで彼を川から引き揚げたんだけど、こっ酷く説教されたのは言わないでおく。
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