第21話 エレメントを吸収してみよう


 それを聞いてなのか? ザーザ先生は次の授業に進んだ。



 今度はこの調整する方法を第三の瞳で行うと言うものだ。



 先程から不思議な体験ばかりだけど、第三の瞳でフォーカスすると、周りに渦巻いている色とりどりのエレメントの色彩に、明らかな変化が起きた。



 言葉で表せば『赤』・『青』・『緑』・『黄』なのだけど、先程見えていた輝きのある色とは異質の純粋な『赤』・『青』・『緑』・『黄』を眼で捉えることが出来た。



 この段階がクリアー出来たのも、どうやらザーザ先生にはお見通しらしく、僕に今度は両手の手の平を軽く開くように言った。



 目一杯に開くのではなく、ちょうど手で水を掬える柄杓型のような開き具合が良いらしい。



 それが出来たら、次にそこヘ好きな一色を選び、手の中に吸収されて行くイメージで、集めるようにしなさいと、言われた。段々本格的に先生っぽい口調になったのは気にしないことにしよう。



 そんな事が果たして出来るのか? と思っていたが、ザーザ先生は色を捉えられているので、問題なく出来るはずだ、と自信を持って言うので、彼の言うことを信じ、四色の中で一際色濃く見える『青』色を選び、吸収するイメージで構えた。



!?



「………………」



 何も起きない………



 色は見えているのに、こちらに吸収される気配が一切ない。



 ザーザ先生を期待を込めて、横目でチラッと見るも、まるで欧米人がするかのように、肩をすくめて。一言、"I don't know,why?"と言うと、醜い口を更に曲げただけだった。



 って、おい!?



吸収出来ないことに驚いて、ザーザ先生に聞いたら帰って来る答えは、『何故か? 分からない』って言う。それを聴いて思わず二度も驚いてしまいましたよ!


 

 そして呆れて僕も先生と同じポーズをとった……その時だった!?


 

 ええええ!?



 三度目の正直ならぬ三度目のビックリ!?



 同じように両手を開き肩を竦めた瞬間、手の平に『青』のエレメントが集まって来た。吸収すると言われたので、てっきり体内に入るかと思っていたが、それらは手の平の上で螺旋を描くように集まる。



 色で思い込みでそう思ってしまうのか? それとも元々この『青』のエレメントの性質なのだろうか? 手の平がヒンヤリとする。



 どういう事? って顔でザーザ先生を見ると、顎の下に軽く手を添えながら、ウンウンと縦に頷き、ドヤ顔で『私が言いたかったのは正にコレ』って顔をして見せた。



 そのドヤ顔にプラス眉毛の上下は正直辞めて欲しい。



 それに、さっき分からないって言ってなかったけ?



 ホンのちょっぴり殺意が湧いた。ホンのちょっぴり。



 

 今この手に集約している塊をザーザ先生に投げたらどうなるのだろう? 某漫画の必殺技に似ている。もし同じ効果が有ったなら、間違いなくザーザ先生はグルグル回転しながら、天に召されるだろう。



 でも、さすがに魔法の使い方を教えてくれてるので、彼には投げないとして、でも何となくこの螺旋に集まった『青』の玉を何処かに向かって、投げたい衝動にかられた。なので、念のためザーザ先生にコレを投げても良いのか尋ねた。



 やっぱ、駄目だった。



 集めたエレメントを、投げようと考える輩が出てくるとは思って居なかったらしく、アンタは発想が普通じゃ無いと言われた。



 いや、忍者ならぶつけるよ普通! って説明したら、『忍者?』って真面目に知らない顔をされたので、こっちの独り言なので、気にしないで下さいと、言って誤魔化した。



 どうやらこの世界には忍者は居ないらしい。でも、ひょっとすると他の呼び方とか、彼等は暗躍が仕事なので、姿を見たことが無いかも知れない。元の世界でも、まだ忍者と言う言葉は残っていても、現存しては居ないので、もしかしたら滅んでしまったのかも知れない。



 この世界には魔法も有ることだし、もし居るのなら、是非忍者にも有ってみたい。



 それより投げては行けない理由なのだが、エレメントは集める前の霧散していた状態は、無害その物なのだが、一旦集めるとエネルギー体として融合しており、手から解放することで、もしかしたら爆発する恐れが有るとのことだった。



 やっぱり投げてみたい。少年心じゃないけど? 男子たるもの威力を見てみたい気がする。やっぱ、これって螺旋〇じゃないの? まあ、敢えて本当の技名は言わないけど。誰も見ていないところで、後日コッソリ試してみよう。



 何故、投げちゃダメなのかは? ザーザ先生も昔魔族学校で魔法について教わった頃、先生に散々、『危険なので、投げてはいけません』と言われたから。



 投げるのではなく、体内へ吸収する。それがこの世界のエレメントの正しい使い方らしい。



 それよりも何か漫画でパピルスとかって名前でとても不幸な親元に生まれた少年が悪魔学校に入るのが有ったような、無かったような? 



 まあ何にしても、魔族が通う学校が普通に有るのに驚いた!?



 魔族とかモンスターって、何となく僕の中のでは、彼等は混沌の中から湧き出すように誕生するイメージしかない。そして子どもとか大人って言う基準など無くって、ただただ普通に誕生したら、そのままの姿で現れると思っていた。



 でも、学校って言うのが有るとなると? この醜いザーザ先生にもご両親が……ちょっと、彼の赤ん坊の姿を想像したら、気持ち悪くなった。考えるはよそう。



 それより、この手に集約された『青』の螺旋玉をどうしよう?



 結構集まって来たと思ったけど……どうやらこの部屋には、テニスボール位の大きさが限界らしい。もうこの部屋に『青』のエレメントが見当たらない。



 無限って訳では無いみたいだ。もしも実践で使うことになったら、これは知って置いて損はない情報の一つだと思う。



 エレメントは決して無限でない、有限なのだということを。



場所によってはこの『青』のエレメントの量が少ない場所も有るに違いない。魔族がいると分かった以上、もし遭遇すれば将来的に戦闘と言うことになるかも知れない。魔法が使える者同士でも、このエレメントによる属性の関係で、場所によって優劣が決まる可能性だって有る。魔法は決して万能では無いってことだ。



 でも、家族が居るって聴いてしまったら、なるべく戦闘は回避して、平和的に行ければいいなと思う。実際、元の世界で戦闘の経験なんてない、まして喧嘩なんか一度もしたことが無い。武道の経験は、祖父の家に過ごしていた時に、ある程度経験はあるけど、せいぜい剣道と弓道を精神修行の一環で叩き込まれたくらい。あと、お婆様から薙刀を少々。



 でも、それを人はおろか生物に直接向けた事なんて無い。



 それより気になるのは、やはり現在囚われの身であるフィオーネさんを救出する際、あの黒いモンスターとのバトルは避けられないのだろうか? ザーザ先生の話だと、かなり狂暴な性格だと聞いている。



 戦闘は避けられないのかもしれない……



そんな分かりもしない未来のことよりも、まずは今の問題をクリアーすることに集中しなくちゃいけない。何故か? 一向に体内へ吸収されないのだ。



 相変わらず、物凄い勢いでエレメントの玉は回転をしている。

これって、ズレたりしたら指が吹き飛ぶって危険性は無いのだろうか?



 試しに少し手を傾けてみる。角度を傾斜をつけても、物理的なボールとかとは違い、傾けた方向へどうやら転がることは無かった。同じ位置で何かに固定されたように回転を続けている。手の平を地面と平行にしても同じで、エレメントの球体は落ちることは無い。



 良かった、位置がズレて肉体にダメージを与えることは無いらしい。



 でも、もしこの球体が転がって指を破壊したら、僕はどうしてたのだろう? ザーザ先生がヒールだとかキュアとか使える訳じゃなし、魔法が有るからといって、そんな治癒系の魔法が有るとも限らない。そもそもそんな名前じゃないかもしれないし。



 なにより彼が魔法自体使えないのだから、指がそれで飛び散ったら、出血多量でジエンドだ。



 魔法ってことで少し心が浮足だったとはいえ、実行する前に、彼にちゃんと訊いてからにするべきだった。今更ながら、あの螺旋玉が僕の指に触れたらと想像したら、ゾッとした。何も起こらなくて良かった。



 あれ?



 魔法が使えないはずのに、何で未だに彼はエレメントが見えるんだ?


 

 僕はザーザ先生に聴いて見ることにした。そうしたら彼は理由は分からないが、エレメントは見ることが出来るらしい。



 肝心の『闇』の力にコンタクトが取れないと、少し悔しい表情を見せた。



 それは魔王が滅んだからじゃ無いかと言ってはみたが、魔族は滅んで居ないらしく、今でも魔法が使える魔族は普通にいるらしい。



 ザーザー先生は、どうしてかは分からないが、彼等とは違い、巨人の姿から突然小さくなってしまった。そして魔力を失い司令官の威厳が無くなると、途端に部下達の態度が変わったという。彼は自分の居場所が無くなったことを察し、殺される前に、命からがら都市を離れた。



 何日も荒野を彷徨い、生きるため食べ物を探し歩く。ようやく辿り着いた森をうろついて居たところ、人間が仕掛けた罠に捕まったという。そして、見世物小屋で晒し者にされる毎日、唾を吐かれ、割れた酒瓶をぶつけられ、それに飽きると、また誰かに購入されては、色んな場所を転々と回る。最終的には、フィオーネさんの目に留まり、いちペットとして飼われるに至ったと言う。幸い彼女はそのような虐待の類は一切なく、普通に愛玩されていたという。



 まあ、叫んで五月蠅いと思われると、すぐにあの時みたいに引き出しをすぐに閉められる事は有るらしい……いや、あれは確かにザーザ先生が悪いでしょう。



 その話を聞いて、少しホッとしたものの、さっきの過去の過酷な話を聞いて胸がチクチクした。



僕が最初に降り立った場所、そこは何処かのオークション会場だった。もし同じように買われていたら、一体いま頃どんな生き方を強いられて居たのだろうか? 僕がもし彼と同じ立場なら、まだ生きていられるのだろうか?


 

 まあ、起きていないことをウジウジ考えても仕方ない!?



 それよりもだ、この『青』のエレメントをどう吸収するかだ。

 僕は先程ザーザ先生から教わったことを順番に思い出す。呼吸も感知も第三の瞳も全てイメージで上手く行った。



 そうだ!? 吸い込むと言うイメージを、より明確にすれば上手く行くのでは無いだろうか? 吸収する物と言えば……そう掃除機。僕は頭の中で手の平が掃除機になるイメージを思い浮かべた。



 駄目だ、上手くいかない。掃除機のイメージって案外浮かばないぞ。タイソン、パナス、火立、西芝、メーカー名は思いつくけど、掃除機ってどんなだっけ? 普段家で掃除は母親がするから、コレってのが出てこない。



 他に吸収する物は無いだろうか?



        吸収、吸収、吸収、吸収……



 いや待て、体内にエレメントを取り込めば良いってことだから、吸い込むんじゃなくって、取り込むと考えればいいんじゃないか!? 手に口が移動したイメージでゴクン、って飲んじゃえばどうだろうか? 



 これも成功するかは分からなかったが、取り敢えずトライ&エラー方式で試すことにした。



 ゴクンッと一飲み……そんなイメージで、



 最初は何も起きなかったが、次の瞬間あの『青』の玉は、見事手の中へ消えて行った。



 出来た! 出来ましたザーザ先生!?



 そう言うと、彼はまるで自分が出来たかのように手を叩いて喜んでくれた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る