第14話 壁の並ぶ不可思議な部屋


 また間違いなく何処かに跳ばされた……

今度は一体何処へ飛ばされたのだろう?



 カーテンの様に布上でかつ横へ退かすものに関してこの力は発動するらしい。この力が発動されるのはカーテンの類だけと思っていた。



 それにしても、ローゼンマリアさんは今頃お一人で湯船に浸かっているに違い無い。少し彼女の柔肌を拝めれないのは残念だ。


(いや、違う違う。何を僕は考えてるんだ)



 それより彼女には悪い事をしてしまった。



 でも、自分のコントロールの範囲外で起こるこの不可思議な、空間移動魔法の発動が起こる限り、どうすることも出来ない。



 それでもやっぱり……罪悪感は残る。



 先程まで心臓がはち切れそうに成る程緊張し、彼女との裸の付き合いをする覚悟を決めたというのに、この真っ暗な新たな空間に今はいる。

全然違う場所なのに一瞬で移動したため、さっきと同じで心臓はまだ暴れていた。まるでこの暗闇に怯えている様にも思えてしまうが、これはさっきのドキドキにより齎されている。



 まあ、実際いきなり真っ暗な世界に放り込まれたので、ビビっていないと言えば嘘になるが💦



 しかし本当に一体此処は何処だ!? 何処なんだ?



 暗くて何も見えない、けれど何か壁の様な物が幾つも幾つもそびえ立っている気配はする。閉塞感と言うのだろうか?



 これ以上前に進めない感じがする。



 何故、そう感じているのかというと、もしも更に先に空間がある場合、息を吐いてもそのまま流れて行き、戻ってこない。でも、今自分が立っているその場所は、息の行き場所を塞ぐ感じがし、そして僅かばかりだが、それを押し返された様な圧迫感が有る。もしもこれと同じ状況を体感したい場合、実際に暗い部屋か瞳を閉じて、その先に何も無い場所で息を吐き、次に壁に向かって吐いて見ると同じ体験を出来ると思う。



 眼がこの仄暗い世界に段々と慣れて来たのか、まだまだもやっとした像しか捉えることは出来ないが、左右を見渡すと、やはり壁の様な物が規則的に並んでいるのが見えるというか感じる。取り敢えずその壁と壁の間に入ってみる事にした。


(しかし規則的に並ぶ壁の様な物って何だろう?)



 案外浮かばない……想像力が乏しいのかもしれない。浮かんだ物と言えばたった一つだ。



 …………本棚



 規則的に並んでいる物となるとコレの他に何が有るだろうか?

まさか、このファンタジー世界にサーバー機器が並んでいるなら別だが、もしそうだとしてもこんな物音一つしない空間な訳が無い。



 子どもの頃一度だけ入った事が有る、それは祖父の家に一台の大きなサーバー機器が置かれている部屋があったからで、従兄弟と隠れんぼをしていた時に偶然入ったのがその部屋だった。



 大きな本棚みたいな鉄の塊から物凄い音が鳴っているのを憶えている。今思えば、機器を冷却する為の大型のファンの回転音と思われる。



 かと言って本当に此処は何処なのだろうか?

もし誰か居るなら、そっと耳打ちをして教えて欲しいくらいだ。



 壁と向き合う姿勢を取り、ゆっくりと確実に一歩ずつ前に進む事にした。

 トンッ…………直ぐに足先がぶつかった。


 ほんの二歩足を進めただけの距離にそれは有る。


 今度はゆっくりと腕を上げ、指と手の甲がそこへぶつかると、ゆっくりゆっくりと上げて行った。


 ズズッズズッ……ズズズ…………ズズズズ


 目視する事は出来ないが、何かに触れて入る事は間違い無い。触れれば音がする。今度は先程よりも更にゆっくり左右に滑らす。


 ススス、カタカタ、スススス、カタカタッッカタ。


 壁のような物には段差が有り、所々に隙間の様な凹みを感じる。指先に変えると更にその感触が確かとなる。


 間違いない……指で探り当てた一番出っ張ったそれを、親指と人差し指中指で掴み、引っ張り出す事にした。


 僅かにそれは動いたが、身体が女の子の姿のせいなのかわからないが? 片手では引き抜く事が出来ない。仕方なく両手を使ってそれを力を込めて引き抜くことにした。


 間違い無いこれは本棚で、そして今僕が手に握っている物は間違い無く本だ。今度は感触を確かめる。形は直方体、尖って無く、丸みが有り表面が若干であるがザラザラしている。恐らく結構良い素材の物を使っている。


 次にそっと開いてみる…………


(あれ? あれれ? ビクともしない)


 どういう訳か、角度を変えても開く事が出来ない。留め金を使用したタイプでも無く、通常で有れば開く事が出来るのだが、何度試しても開く事が出来なかった。


 そもそも暗くて何も見ることは出来ないので、開けても意味は無いのだけれでも、それでも開く事で此処が本の有る、いや本が揃う場所である書庫か図書館である事を確信したい自分がいた。


 もちろん本が有るからって絶対にその場所だって、決めつける事は出来ないけれど…


 仕方無く本で有ろう物を元の位置に戻す事に決め、さっき抜き取って出来たであろう隙間を手探りで探した。しかしまた奇妙な事が起きた。何度探しても有るはずの隙間が無い…………


 別の本が横に倒れたとしても、斜めになるのでその隙間を見つける事が出来る筈。幾ら暗くて見えないと言っても、普通では考えられない事が起きた。

まるでコンビニの飲料水の冷蔵庫の様に、その隙間は埋められていた。


 しかし驚きはそれだけでは無かった!


 これでは元に戻せないし、どうしたものかと左手に持っている物を上げようとしたその時。


(無い…………)


 左手に持って居た筈の物が無くなっていた。


 まさかとは思ったが、こうなると考えられる事が一つ、先程の本棚の隙間へ自ら元ある場所へ戻った可能性が考えられた。


 そんな馬鹿な事がとは思っていたが、ここは異世界。この現象を確かめるため、幾つかの本でランダムに試してみることにした。暗くて何の本を持っているか何てのは分からなかったが、最初の本と同じ様に開く事が出来なかった。

 

 また不思議な事に本棚から抜き取ると、急に質感自体が変化し、滑り気が有ったり、物凄く熱くなったり、液体を触っている様な感触になったりとするというものも有り、共通して言えるのは、暫くするとやはり手から無くなる事だった。


 そして同じく本棚の隙間が綺麗サッパリと埋まっており、本のような物体自ら手から消え、そして元の位置に戻っているとしか説明がつかない


 つまり、最初の推察は間違っていない事が分かった。

 

 まあ実際に眼で確かめてる訳では無いので、本とは全く別物の何か?かもしれないのだけれども……開く事が出来ないため、本だと言う確信が揺らぎ始めていた。


 しかし、もう一つ此処で分かった事は、ここが本が有る場所だと仮定して、人の出入りが有る場所だと言う事。先程から歩いても、本の様な物を引き抜いても、埃一つたたないからだ。


 もし、人の出入りが無い場合、少し歩くだけでも埃が舞うはずだ。もちろん暗い部屋なので素早く動ける訳ではないが、ゆっくりと歩いていたとしても人があまり立ち入らない場所で有れば、埃が舞い、鼻が痒くなったり、喉にイガイガが生じる。


 しかし此処ではその様な現象は起きない。


 今は何時なのかは分からないが、ローゼンマリアさんの場所から移動する頃にはもう日が傾いていた。ここの部屋は元々外の光が入らない構造なのかもしれないが、もう夜の時間帯の為、誰もこの部屋には出入りしていないのかもしれない。


 だからと言ってこんな訳も分からない場所にずっと居ても仕方が無いし、人が出入りする場所と分かった以上、此処に長居をするのは無用であり、今度もシュタッフェン公爵家の様に歓迎されるとは限らない。


僕は見えない暗がりの中をゆっくりと、部屋の四隅へ向かって歩くことにした。そう目的をこの場所がどこなのか? ハッキリさせることから、扉を探し此処から出ることへとチェンジした。


ぼぉーーっと目に映る各本棚のようなものを頼りに歩いていくと、とうとうそれ以上空間のある場所が無くなった。


それは壁際に到達したことを意味していた。


今度は四隅の何処に扉が有るのか不明なので、壁に手をついたまま、カニ歩きの要領で右手方向に横へ横へと進む。


まず最初の第一面には扉と思しきものは見当たら無かった。そして二つ目の面には、壁では無く、本の様な肌触りと凹みが有り、引き抜いて見ると同じ様に抜き取ることが出来た。


恐らくだが、壁の中に棚の様な空間が有り、その中に物体を入れることのできる構造だと思われる。しかしこの面にも結局変わったところは見当たらず、扉を見つけることが出来なかった。


 三つ目の面も同じため、残りの最後の四つ目の面に希望を抱いたが、なんと最後の面にさえ扉と言う扉は存在しなかった。


(暗くて見えないから、見落としがあるのかも?)


 仕方なく最初からやり直すため、また最初の一面に戻るため右へ右へと進む。しかし此処でまたおかしな現象に直面した。何と一つ目の面には何も無い壁が有るはずなのに、その他の面と同じ様に本の様な凹凸が面に存在しているのだ。


(どういうこと!? さっきは何も無かったのに……)


 見落としていたと過程して、先程よりも慎重に面を手触りだけを手掛かりに確かめる。一面には壁の中に本棚の様な凹凸が有り、二つ目の面にも同じく在った。しかし今度は三つ目の面は壁だけで、凹凸では無くなっていた。


 そう今度は凹凸があるはずの面が壁に取って変わったのだ。


 本の様な物を引き抜くことは出来ても、決して開くことが出来ず、そしてそれは勝手に元の場所に戻り、壁だった面は自分が移動している間に面と面が入れ替わる。そしてこの部屋には扉と言う物が存在せず、此処からは出ることも出来ない。


 密室に閉じ込められた可能性が有る……


 此処にはカーテンの様に引くことの出来る布さえ無い。

つまり僕は此処から不思議な力を使って、脱出が出来ないと言うことを表している。


 もしも脱出する経路が見つからないとマズイぞっ。


 明日には誰かが此処に入って来るかもしれない。いや、夜間の見回りの人もいるかもしれない。


 内側から扉が見つからないとしても、外側からは簡単に入ることが出来る構造なのだろうか?


 少し焦りはあったが、呼吸を整え気を引き締める。


(そう、こういう時は急がば回れだ)


 まずは体力を確保しないと、さすがに疲れたので一旦腰を下ろした。


 ……ッツ


 本棚側を背に靠れ掛かった時だ、ちょうど首の高さ辺りに出っ張っている物が有り、少し後頭部をそこに打ち付けてしまった。怪我になるような大事には至らなかったが、邪魔なので引っ張ることにした。


(抜けない!?)


 すぐ横にずれれば良かったものの、僕はなんとなく抵抗したくなったので両手に力を込めて思いっきり引っ張った。


 一ミリも動かない。


「それならば、引いて駄目なら、押っしって、みっなっーーーー」


 もうその場で休みたい一心でただヤケクソに、反対のことをした。


 そしたら……


 部屋の何処かで何かが動く音が聞こえ始めたんだ……

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