第13話  清めの儀式の塔

 門を出たため、僕はてっきり外に出たと思っていた。



 どうやら思い違いのようだ?



 一体どの位の広さがこの公爵家では有るのだろう? それにさっきの門がある場所も庭園の一部と考えると、どれくらいの門が内部に設置されているのだろうか? 



 まあ、今日は辺りも薄暗くなって来たので、また明日にでも聴いてみることにしよう。



 それより異世界の儀式を観るのが愉しみだ。と言っても僕が元の世界で見たのは、祖父に連れて貰ったバリ島でのレゴンダンスやバロンダンスくらいしか無いのだけど、でもローゼンマリアさん自身が参加するのだから、ひょっとしてレゴンダンスの様に彼女自身が踊るのだろうか?


(儀式で踊る彼女は女神様に違いない!!)



 バリで見た、本場は正直イマイチという印象が有る。そう言うと踊り子達には失礼なのかも知れないが、レゴンダンスはと言う意味が込められたダンス名だ。



 僕は子どもながらも、申し訳無いが踊り子の女性の方は、どの人達もパッとしない印象の人達ばかりだった。



 だからもしあの時、彼女の様な人があのダンスを踊っていたら、小学生だった自分も心が踊り、魂を奪われる感覚を感じていたのかもしれない。



 もうすぐ目的地に近づくという事も有り、僕の手を引きながら少し駆け足で微笑む彼女の姿が、まるで踊り子が舞う様にも見えた。



「あともうすぐで到着しますわ、ユートピュア様」



 さっきまで遠くに見えていた塔が、近づけば近付く程大きな物だと分かる。細く見えていたのは遠近感のせいだと分かった。実際は太くて高い塔だった。その塔の頂辺からは、うす紫がかった煙りと小さい炎の様な物が時おりパチパチと弾けては消えるのが見えた。あの中で一体何を燃やしているのだろうか?



 いったいあの中でどのような儀式が行われるのだろうか? 僕はあの高い塔を見ながら、これから得体の知れない何かが起こる事を肌で感じていた。



 僕はローゼンマリアさんに手を引かれながら、高い塔をぼぉ~~っと眺めていた。



「どうされました? 着きましたわ、ユートピュア様?」



「えっ! あっ、はい」



「ようこそ、お越しくださいました。もう用意は出来ております。いつでもお入りいただけますよ。」



「では、行きましょうか、ユートピュア様」



 そう言うと、塔の扉を侍従の一人がユックリと開いた。するとさっきまでは、庭の木々の香りしかしていなかったこの空間が、みるみるうちに薔薇の香りで満たされて行った。


 次に薔薇よりも香りは薄いが、ラベンダーとカモミールの匂いが鼻腔をくすぐる。とても幸せな気分になった。


(うわ~~いい匂い!! そうだ、もし儀式が終わった後、この世界にもあるのなら、お風呂にでも入れてもらおう)



 そう思っていた矢先、彼女のトンデモ発言で我に返る事になるとは思ってもみなかった。



「アア、今日はなんて日なのでしょう~~、お会い出来ただけで無く、まさかユートピュア様のお背中をお流し出来る日が来るなんて、楽しみですわ♡」



「へっ、背中を流す?」



「はい、お清めのお湯に浸かる前に、体の汚れを落としませんと、汗や脂が残っているせいで、気持ちよく湯船に浸かれませんから」



「お清めって……お風呂の事ですか?」



「お風呂? って何ですか?」



「あっ、いえ、そのぉお風呂と言うのはですね~~まず服を脱いで、裸になり、体を洗ってから、温かいお湯に浸かる事を私の国ではお風呂と呼んでいます」



「ああなるほどぉ、そう! それです」


(嘘っ! 今からお風呂……しかも二人っきりで!?)



 ヤバイ、彼女がドレスを脱いで湯船に浸かるとこを思わず想像してしまった(汗)そうきっと、雪解け水の様にスベスベで、ゲレンデの雪よりもより白いその肌は、温かな湯船の中でゆっくりとピンク色に染まって行く映像が。



 うっ……



 今の僕には無いはずの物が反応した様な? な訳ない、んな訳ない。いかんいかん、これでは丸っきり変態じゃ無いか。気持ちを切り替え無くっちゃ。



 フーハーッフーハーフゥーーーーーーー



 ヨシッOK!って、そんなに簡単に気持ちを切り替えられるかぁ~~



「どっ、どうされたんですの? ユートピュア様」



「はっ、はひぃいいい、いえ、何でもありゃひゃひゃ」



「ありゃ? ひゃひゃひゃ?」



 うわ~~~~ちょっと待て、コレってかなりやばく無いか?



 イキナリもっの凄くハードルが上がったんですけど(汗)



 おっお風呂って♨



 今の自分は確かに身体は女の子なので、まず彼女に警戒される事はないだろう。けど、だけどさ……僕の心が持たないよ。



 い・ま・か・ら、二人っきりで、しかも真っ裸……まだ、異世界でモンスターに遭遇して戦闘とかの方が気持ちがどれだけ楽だっただろうか?



 百歩譲っても、今の僕の対女の子への対応レベルは、マイナスで間違いない。そう、さっきの部屋に二人っきりが限界Death!!



「ユートピュア様、ユートピュア様?」



「あっ、はい」


(緊張のあまり自分の世界に入っていたらしい……)



「どうされたのですか?」



「いえ、これから服を脱ぐんですよね?」



「ええ、何か問題でも御座いまして?」



「いやぁ………何と言うか、今日初めて会ったばかりですし」



「ワタクシと入るのが……やはり嫌なのですね?」



「いえ、そうじゃなくって……女同士でも恥ずかしいかなと、こういう経験って生前も無かったし……」



「アア!? それでしたら安心してください、いい方法があります。先ずワタクシが入って服を脱ぎますので、終わってから後で入れば、湯けむりでお清めの場では、裸がくっきりとは見えないと思いますの」



「なるほど!? でも中には、お手伝いの方は?」


(全然なるほど…じゃないけど)



「ここはプライベートの場で、ワタクシ個人も誰にも邪魔されたくないので、中には誰もおりませんので安心下さい。じゃあ、先に行きますわね」


 一先ず第一関門の二人で仲良く脱ぎ脱ぎの時間は避けられた。まあ、本当は喜ぶべきイベントなのだろうけど……でも第二関門の背中洗いと、最終関門の一緒にお風呂が待ち受けている。


 心臓がもつのだろうか? 早鐘とはよく言ったもので、物凄い速度で揺れていた。


 扉の奥で、バタンッともう一つの扉らしきものが閉まる音が聴こえたので、念の為ノックを数回し、何も反応が無かったので、ユックリと目の前の扉を開いた。どうやら人影は無さそうだ。なので中に入る。すると奥に大きくて長い暖簾の様な物が有ったので、無意識にそれをどけ奥に入ろうとした。


 気付いた頃には時既に遅く、右手でそれを横へ開いていたので、例の魔法が発動し、また僕は何処かの場所に飛ばされていた。


 …………目の前は薄暗く、微かに幾つかの棚が聳え立つのが見えた。


 此処は一体何処なのだろう?

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