第15話 隠し部屋と緑色のパニエ
ゴゴゴゴゴゴ……プシューーーーーーー
ちょうどこの場所とは反対側で不可思議な音が鳴り響いていた。
僕はその動きが完全に止まる前に、その場所に辿り着くため急いで立ち上がると、少し早歩きでその場を目指した。
カッカッカッカッカッカッカッカ…………カッタン、カッタン、カッタン、カッタン
プシューーーーーーーーーー
驚いた!?
光が漏れ出る部屋が本棚の奥から姿を顕したのだ。
そしてその光は、この部屋のほぼ全体を照らし、と同時にやはり此処が本棚が置かれている場所で間違いが無いことが分かった。
そして先程の部屋の四面が動いているカラクリも判明した。
何てことは無かった。全ては自分のただの思い込みから、複雑な解釈を行っていたのだ。
この部屋は元々が四角形の構造ではなく、六角形で出来ていたという。
普通部屋と言えば四面の四角形の構造だという観念が、この部屋も四つの壁と言うか面で囲われていると思い込んでいた、だだそれだけだった。
この世界が異世界で、魔法も有ることから勝手に建造物も動くものだと思っていた。ひょっとしてそういう所も有るかも知れないが、今回は違うようだ。
改めて、先ほど取っても、元の場所に戻る不思議な本を、光で照らし出された本棚の本をマジマジと見て手で取りだそうとすると、後ろから声がした。
「アラ、珍しい。こんな時間にお客様ですか?」
振り向くと、光で眩しく顔がハッキリとは見えないが、先ほど姿を表した部屋の主の声で間違いなかった。目を凝らすと視界には、椅子に座る緑色のパニエの長いスカートに、靴はシンプルなデザインに色は赤一色が映る。
しかし腰から上にかけては眩しくて、顔は見えないままだ。黙ったままであるのは、失礼であり、また怪しいものだと言っているのと同じなので、すぐさま声の主へ返事をした。
「すいません、勝手にお邪魔してしまいまして」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それにしてももう夜の八時は回ってるので、図書館は閉館していたはずですが?」
声の主は今の自分よりも年下だろうか? 歯切れの良い小鳩がホーホロと鳴くより少し高めの声だ。ローゼンマリアさんの様な艶っぽい声とはまるで違うが、落ち着きの有る風は有る。
「すいません、帰ろうと思ったのですが……」
「ああ、帰る前に扉が閉まってしまいましたか?」
「ええ……ええそうなんです。そんな感じです」
「アラ、でもどうしてこの部屋に入れたのかしら?」
!?
ビックリした……
さっきまで椅子に座っていた彼女がもう隣に居た。
瞬間移動の類いだろうか……?
自分の髪が微かに風で靡いている。
彼女は首を少し傾げた仕草で、人差し指を下唇にあて、訝しげな目で横から覗き込んできた。沈黙していると余計に怪しいので、少し動揺しつつも応える事にした。
「すい…ません、ウロ……ウロしていたら、扉が開いていたので、間違えて入ってしまいました……」
「間違えて入った……禁書庫に?」
少し唇をすぼめて、兎の様な瞳までとは行かないが、クリッとした赤い目をパチクリさせる。敵意の有るような感じは無いが、不思議そうに僕を見つめる。
「…………あっ、えっと」(ちっ、近い)
「ウンウンなるほどぉ~~大丈夫ですよ。貴女からは悪意を感じません。きっと貴女自身も分からない力で此処に導かれたんでしょうから」
!?
「えっ! どうしてそれを?」
「呪い? では無いと思いますが……何かのスペルが貴女の周りを覆っているのは間違い無いかと?」
「呪い? スペル?」
両手を胸の辺りで軽くパチッと鳴る感じで合わせると、『う~ん、古の魔法の様なので、詳しくはアタクシにも分かりません』と呟き、その後首を横へ倒し唇を右側へ歪めた。
何か思い当たる節が有るのか? 考えている様にも見えた。
そして何かを思いついたのか、先ほどの光源の有る部屋へ戻ると、椅子に乗り、本を探し始めた。
面倒くさがりなのか、届きそうに無いのに手を伸ばし、目的の本を取ろうとしていた。
ドスンッ!
(まあ、そうなるよね……)
予想通りの事が起きた。
その光景を見て思わず額に手を当てた。
目も当てられない光景が僕の眼前には映し出されていた。
まるで強風で傘が逆さに開いた時の様に、緑のパニエは反対に捲れ上がり、白のレースの裏地が花開き、露わになった細長い白の塔の頂辺には赤いW(ダブル)型のモニュメントが配われた一種の現代アートが目の前に現れた。
此処では、デルタ部分はデリケートゾーンなので、敢えて触れない事にする。
そう見なかった事で。
幸い光が二本の塔の間に漏れ出て居たので、眩しくて、ハッキリ見えていない……と思う。
いや、思いたい……
僕はただただ、開いた口が塞がらなかった。
「大丈夫ですか!?」
声を掛けると先程と同じで、もうスグ隣に立っていた。そして開口一番の発言が『もしかしてアタクシの見ました?』だった。
そっと否定をして、何を探して居たのかを尋ねた。
「オホン、コレはコレは失礼遊ばせ、古代魔法(エンシェントスペル)の本を探して居りましたの。見つかったのは良いのですが……」
そう言うと彼女は苦笑いした。
「どうかしたんですか?」
「文字がなにぶん特殊な文字なので、読めないかも……いや、読めるかも、う~ん、やっぱ読めないかも」
(どっちなんだ?)
本を開いて 、浸すら睨めっこしてる彼女に、イラッとしたのが少しと、一体どんな本を読んでるのだろう? と言う好奇心の感情がないまぜになり、思わず彼女から本を奪ってしまった。
「なななっ! 何を! アタクシが理解出来ないのにっ、アナタが読めるとは思えないのですが(驚)」
「すいません、ちょっとだけ静かにして貰えますか!」
「あっ、ハイ……(なんでアタクシがブツブツブツ)」
驚いた! 書かれてる文字はまるで日本語だった……まあそういう風に見えてるだけなのかもしれない。
しかし、自分にはハッキリと、内容が読み取る事が出来た。
彼女は古代魔法について書かれた本を探していたと言っていたが、之って古代に書かれた恋愛小説に見えるんだけど?
気のせいなのだろうか……文字が日本語には見えるが、間違った解釈で脳に情報が伝わってるとも言いきれない。なので、彼女に恐る恐る確認することにした。
「あのぉ……」
「ハイ、何か?(どうせ読めなかったんでしょブツブツブツ)」
「この本間違ってませんか?」
(さっきからブツくさ言っているみたいだが、無視する事にしよう)
「エッ、どれどれ(アタクシが間違えるはずがブツブツブツ)」
眼を一生懸命細めて本を眺めてるが、文字自体読めてるのかも怪しい(汗)
ふと、彼女のお腹の辺りで何かが揺れていた。
ガラスの様なものが光に反射していた。
これって眼鏡じゃないだろうか?
「あのぉ……」
「いま忙しいのに、何ですか?」
「いえ、ソレを忘れてません?」
僕は彼女のお腹の辺りを指さしてから、自分のお腹の前で両手の親指と人差し指を使ってアルファベットのCの形をすると、それを自分の眼の辺りに持ち上げる様な動作を行った。
すると彼女は気付いたのか?
軽く咳払いをした後、眼鏡らしき物を掛けると、また本を眺め始めた。
すると、今度は喉に何か引っ掛かった様に『んっん~』と言うと、スグに"バタン!"と本を閉じ、またさっきの部屋へ戻って行った。
今度は本棚じゃ無く、机の引き出しを開け始め、『ああでもない、こうでもない』とやり始めた。
三段目の引き出しを開けた時、怪物が唸る様な叫び声が聞こえた!!!!
しかし彼女は、何事も無かったかの様にそのまま閉めると、また、すぐに次の引き出しを開けまた、そして『こうでもない、ああでもない』とやる始末だった。
結局、机の引き出しには何も無かったらしく、今度は本棚の横に有る木製の引き出しを開け始める。
さっきの変な大声が気になったので、引き出しだとしても、ただの引き出しじゃ無いような気がした。
開ける前に大丈夫なのか? 問い掛けると、問題無いと言ったので。これ以上言うと、またブツブツ言われそうなので、口にチャックをした。
しかし、四段目の引き出しを開いた時それは起こった!
大きな黒い手が彼女を掴むと、それは引き出しの中に彼女ごと連れ去ってしまったのだ!?
"バンッ!"
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