第1話 カーテンの向こう側は
カーテンがゲートだ何て聞いたことがない。そのまま歩いてステージへ行くと思って居たのに、少し段差が有る感じで、ストンッて落ちた訳じゃないけど、ふんわりとこの世界に降り立った。
最初に降りた場所は最悪だった。
何かのオークションが行われている場所だと思われる。急に自分がそのステージに現れたので皆騒然としていた。
最初は何事か驚いていたが、すぐに『オオオオオオ!』と言う感嘆の声がすると物凄い拍手へと変わっていった。
そして直ぐにステージと反対の客席側からは、数字の羅列が飛び交い始めた。
僕のすぐ横にいる人物も、気を取り直したのか? 勝手に売買を再開し始めた。冗談じゃ無い、飛ばされたと思ったら、いきなり売られるのか?
しかも多分また人為的にでは有るが、飛ばされるに違いない……
しかもみんな仮面を被って居て、表情が見えない、どんな人間でどんな集まりなのかも怪しい。
特にさっきから物凄い勢いで数字を上乗せしだしたあのデブ、多分この格好だから僕の事を女の子と勘違いしているのか? 舌舐めずりが激しくいまにも吐きそうだ。
もし……落札されたら正体を知られたら、殺されるに違いない。
だって、自分は男なんだから……
服をはぎとられた後、奴は詐欺だと発狂するに違いない。男でも喜ぶデブだったら自分の操はつんだかもしれない。そんな趣味は無いのに、一瞬自分とあのデブのベッドシーンが浮かんでしまった。
ヤバイ!! 想像するだけでまた吐き気を催して来た。
どうせ買われるなら、あのハの字の形をした髭の男か、スマートな体格の彼だと有難い。女の人の場合であれば、身の危険…特にXXXな事は無いにせよ、身バレしたら何と言い訳すれば良いか分からないし、自分より大人の女性とか、どう話せば良いのかも分からない?
そもそもあまり女の子に対してこう言っちゃ何だが免疫が無いのだ。
高校二年生にもなって恥ずかしい限りである。
というのも、小学校から中学校まで全寮制の男子校だった。
親と言うよりも父方の祖父が僕をエリートに育てようと躍起になっていた。自分の息子が駄目だったから、孫を優秀にしようとしたのだ。
でも、正直頭の善し悪し何て環境が大きいと自分は思う。
実際自分が通った学校の教育は特殊だった。親の仕事の関係で転勤を機に高校は転入となり、住む場所の関係で共学の学校となったのだが、中学で受けていた授業内容よりも遥かに遅れていて、その時にそのことに気が付いたのだ。
高校では一つの正解しか無い解答を導く学習。
中学までは解答よりもその過程、例えば数学の場合は、この数値を導き出すにはどの様な数式が使えるのか? 英語の授業では文法教育では無く、会話を中心に行い、この会話にはこの文法が使われてると初めて説明される方式だった。言葉を読んで身につくものではない。聴いて身につくものである。
転校と言うことで少し勉強に対し不安に思ったが、授業はむしろ簡単過ぎて拍子抜けしたのを覚えている。
それよりも一番の問題は、幼稚園以来接していない、女の子と言う存在がいきなり目の前に現れたことだった!!
しかも大分成長した姿でだ……全体的に丸みを帯びていることにビックリしたのを覚えている。
だって、自分の女の子のイメージは幼稚園のままで止まっているのだ。もちろん何処かに出かける時や、テレビか何かで小学生の女の子、中学生の女の子の姿は見たことが有る。
でもでもだ、高校になってイキナリ目の前に現れるのは、二次元とか脳に収納された情報と異なりプレッシャーがそりゃもう半端なかった……
彼女達に矢継ぎ早に質問されても何を話せば良いか分からないし?
……どう返事をすればいいのかさえ分からなかった。
授業で出される問題で有れば解答を導き出すことは出来る。答えが決まっているからだ。でも、異性と言う異なる生命体からは聴いたことも無い高くて、ドキッとしてしまう様な声、それだけを耳にするだけで自分は萎縮してしまい何も話せなかった。
そのことで男子としか話さない男の娘というレッテルが張られていった。
僕に対して彼女達の中で誤解のイメージが出来上がったのは、それほど時間が掛からなかったのだ。
そして彼女達からのお誘いはいつの間にか、無くなくなって居た……。
高校二年生になってもそれは変わらなかった。ジャンケンで負けて、取り敢えずクラスメートの女の子に借りたこの制服。
借りるときも…『本当はこっちが着たかったんでしょ、良かったじゃん願いが叶って(笑)』
”そうじゃないんだ棚橋さん” !!
その言葉も言えないまま借りたこの制服で、僕はいまこのステージに立っている。
自分が予想していたよりも、遥かにオークションはヒートアップしていた。
未だに終わりを迎えない落札。
一つ嬉しかったことと言えば、あのデブはもう席に座り肩肘をついて不貞腐れていた。多分これ以上出せるお金が無いため、脱落したのだろう。
ざまあみろ!!
でもだからって、安心している場合じゃ無い……。
此処に居れば、何れにせよ誰かに買い叩かれるのは目に見えている。
何とかここから抜け出す方法を考え無くては……
そう思った時だった!!
突然爆発音とともに剣を携えた何人かの武装した集団と、まるで鞭を自分の体の一部様に、自在に操る一人のお姉さんが舞台に飛び込んできた。
彼女はこのオークションのホストを蹴り飛ばすと、見慣れない服を着た僕を見て少し訝しげな目をした後『外に助けの馬車が用意して有るわ、それで一緒に逃げるの、さあ行きなさい』と叫び、僕を舞台裏へ走れと指示した。
一瞬自分も何が起きているのか? 分からなかったので、キョトンとしていると……
「何をやっているの! さあ、早く行って!!」と罵声を上げるように、彼女は叫んだ。
この機を逃せば、間違い無く誰かに売り飛ばされるに違い無い!!
千載一遇のチャンスとは正にこのことを言うのだろう。なんと彼女に言って良いのか分からなかったので、コクリと縦に頷くと、急いで舞台の袖まで走った。
そしてカーテンの様な布を捲り、馬車のある外まで走ろうとしたその時だ!!
不思議な光に包まれると、僕はまた何処かへ移動していた……
気が付いた時には、自分はまた別の場所に足を踏み入れていた……
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