第2話 鏡の美少女


 オークション会場から逃げるため、彼女の指示に従い馬車の有る外へ向かおうとした。


 

 目の間には少し埃で汚れた、黄褐色の大きな布が見える。


 

 僕は勢いよくその布をくぐり抜けた!!


 

 しかし舞台袖のカーテンを潜った先には、舞台裏など無かった。


 

 それどころか、布捲ったあとには、身体が光に包まれていた。



 そして、気付いた時には、僕の目の前には一人の金色こんじきの髪の女の子が立っていた。



 その女の子は、物凄く大きく瞳を開き、口をあんぐりと開けたまま、僕の方を見ていた。何か恐ろしいものでも見ているかの様な眼だ。それはすぐにでも顎が床に落ちそうな勢いだった。



 後ろに何かいる…僕は恐ろしくなり、まだ見ぬ後ろの影に瞳孔が開く。



 釣られて自分もその方向を振り返ると、そこにはとても大きな映し鏡が有った。目の前には二人の少女が驚いた表情で立って居た。



 もう一度、彼女の方向へ向き直したが、思わず鏡を二度見した!!



 そこには自分が映って居なかったからだ。鏡には女の子が二人しか居ない。

一人はまるでシルクを金に染めた様な髪で、ほんのり青みががったレースのドレスを着た女の子、そしてもう一人は僕が通っている学校と同じ制服を着た可愛らしい女の子がそこには居た。



      ……僕と同じ制服を着た? 可愛らしい女の子?



 はっ?



 どう言う事だ、鏡に映っているのはどちらも女の子で、僕はと言うと映っておらず、代わりに自分と同じ高校の他のクラスの女子生徒が映り込んでいた。



 どうやら、僕と同じでもう一人この世界に迷い込んだらしい……



 いや、もしかすると、もっと多くの人がこの世界に転送されたのかも知れない。ひょっとして学校ごと何てことも有り得るかも。


 

 そうだ!! どうせならこの機会に自分の女性に対する苦手意識を克服するチャンスかも知れない。しかも物凄い可愛い子だ。もう一人の金髪の女の子と引けは取らない、寧ろ少しこの子の方が一歩リードしてるほどだ。



 でも、どうしたものか?



 自分は鏡に映っては居ない。



 どうやって声を掛けようか?


 

 まあ、考えて居ても仕方がない、取り敢えず行動あるのみ。この方向だと金髪の女の子しか見えないので、多分自分はちょうど彼女達の間に居るのだろう。


 

 もう一度鏡の方向へ振り返り、見えないだろうけど、こんにちはと手を振って挨拶した。



 すると制服の彼女は僕と同じ様に手を振った。



 ん?


 見えている……

 のだろうか?



 思わず顎に手を当てると、自分と同じ様に彼女も顎に手をあてた。



           どういう事だ?



 女の子をいくら知らないと言っても、あの顎の手の当てかたは少し変だ。普通は僕と同じ男性が取るポーズじゃ無いだろうか? 女の子の場合は、普通人差し指を顎に当てる感じだ……と思う。



 そうそうこの金髪の子の様に。



「あのぉ~さっきから何をされてるのですか? 天使様?」


 

 えっ! 天使? 



 どこどこ? 天使ってどこ!?



 そう思っていたら、チョンチョンと彼女に触れられた。



 「えっ、僕? アナタには僕が見えるんですか?」



 僕は自分の姿が見えないのに、彼女には僕の姿が見えるみたいなので驚いた。


 

 それにしても何でこんなに声が高いのだろう?


 

 確かにまだ珍しく未だに声変わりはしてないのだが、それにしてもいつもより声が高い。



「はいっ、見えます。ワタクシにはハッキリと天使様!」



 先程驚いた表情とは真逆のウットリとした目をして僕の両の手を握る。



 ……ドクンッ


 

 心臓が跳ね上がる。こんな美しい異国の、いや異世界の美少女に手を掴まれてしまった。これもこれで女の子に馴れるのにはとても良い機会なのだろうが、願わくばもう少し普通の女の子からスタートさせて欲しかった(汗)いや、普通の子って何だ!? と言われたらまずいので、取り合えずこの場で謝っておこう、誰にだよ!?



 彼女の体温が自分の手へと伝わるのが分かった。僕は彼女の顔を恥ずかしくてマジマジと見ることが出来ないので、視線を手の方へ移した。



 えっ! 

 誰の手? 物凄く手が小さい。


 

 まさかと思い鏡を見ると、そこには金髪の女の子に手を握られてるもう一人の女の子が映っていた。



「(嘘でしょ?)」思わず、ボソッと呟いていた。



「何が、嘘なのですか? 天使様?」



 キョトンとした表情で首をかしげ、彼女は僕(もう一人の女の子)に向かって言ったので、慌てて『何でもない……の』と女の子の振りをして言い返した。すると彼女は僕から手を放し、そしてカーテシーの仕草をした。



「天使様、お逢い出来き光栄ですわ、まさか願いが叶うだなんて夢をみてるみたいですわ!」



「いえ……僕は天使じゃ……ない……の」



「えっ!? 申し訳ありません、お声が小さくて聴き取る事が出来なかったのですが……」



「いえ、こっちの話なので、気にしないで」



「そうですか、それで……あのぉ……」



 彼女は顔を赤らめモジモジしだしたが、寧ろこちらの方が恥ずかしくて仕方なかった。



 僕はずっと男の姿でこの世界に飛ばされたと思っていたのだ。しかし実際は鏡に映るもう一人の女の子が、それがいま、自分なのだと言うことを気付いてしまい、顔から首筋にかけて沸騰した状態だ!!


 

 さきほど鏡を見る度に物凄い可愛いとか、この子と仲良くなれたらとか、僕は自分を見て言ってたのだから(汗)


 

 もう一度チラッと鏡を見る、間違いないこの美少女は僕自身だ。



 しかし本当に可愛い、睫毛が長く、顔が小さくて唇が小さい。左右対称のシンメトリーで、少し左右の瞳の大きさが異なるのが更なる魅力を引き出していた。


 

 僕は物凄く彼女(女の子の自分)に引き込まれていった。



 ……金髪の彼女から声が掛かるまで、視線を外すことが出来なかった程に。



「あのぉーー天使様?」



「えっ! 僕? じゃ無かった、ワタシッ?」



「ハイ、そうです天使様」



「あっ、ごめんなさい、何かいい掛けてたのに……」



「いえ、こちらこそ、忙しいのに天界からワザワザお越しいただいて有り難う御座います」



 彼女のキラキラ揺れる瞳を見ると、自分が同じ人間だ何て言うことが出来なかった。嘘でも良いから、天使の振りをすることに決めた。



 そして彼女の話を聴くと内容はこうだった。


 彼女の名は、


       "カトリーナ・フォン・ゼアフォード"



 今度、国王主催のダンスパーティーが有り、そこで子爵の令嬢としてパーティに参加するのだが、そこで意中の公爵の子息であるアイゼンハルト卿とうまく行くことを願い、と或る占いの本を入手した。



 そこには、天使様が来るように祈り、もし降臨されたら、天使様が持つ何かアイテムを一つ貰うことで、願いが叶うと言うものだった。


            

           ……アイテム?

          

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