第237話 意志の強さ
Side:天霧 英人
「ッ……」
地面に倒れる斧聖。
それを見て、取り巻きのロシア軍兵士が俺を取り囲む。
「アバルキンさん ! ? アンタが先にやられてどうするんすか! 起きてください!」
ロシア兵の一人が、気を失って倒れる斧聖に声をかけ続ける。
そしてこの兵士、中々に強力なソウルスキルを所持していた。
______
名前:ニコライ・メドルジェフ
ジョブ:無し
Lv100
ユニークスキル
:吸力放魔
______
ジョブが無いのにも関わらずこんな戦場に連れて来られる程、このスキルは強力なものだった。
______
『
:力(エネルギー)を吸収し、魔力として放出する。
______
魔法攻撃はもちろん、運動エネルギーなんかも吸収できる。
吸収した力は蓄えられ、任意で放魔(魔力攻撃)として放出できる。
限界まで貯めた後の「放魔」は、今のレイナ達でも致命傷になり得る。
もしこの人がジョブを得ていたら、各国の力関係は全然違っただろうな。
「アバルキンさん! クソ……こうなったら俺たちでやるしか無いっす――」
「「「「っ……」」」」
ロシア兵はニコライさんを含めて五人。
斧聖が倒されたことで、皆畏縮してしまっている。
「降参は、今からでも受け付けてますよ」
最初から殺し合う気はあまり無いし、斧聖だって気絶に留めてある。
それに唯一希望があるニコライさんのソウルスキルは、俺との相性が最悪だ。
そもそも、ソウルスキル自体が俺と相性が良く無いんだけどね。
「舐めてると痛い目見るっすよ?」
「ニコライさん。あなたの『吸力放魔』は強力ですが、対処法もちゃんとある」
繕っていた表情から、完全に余裕が消えた。
「っ ! ? 俺の名前とユニーク……どうやって知ったんすかね……」
「吸収しきれない程の火力で攻撃とか、力を与えずに行動不能にさせるとか……俺にはその両方が可能です」
ニコライさんはおそらく、降参の宣言をするはずだ。
レイナ達と同様に、ニコライさんもかなり消耗している。
もうソウルが底をつきかけている。
ソウルが無ければ、エネルギーを吸収できない。
これまでの戦いで、何か強力な攻撃でも吸収したんだろう。
吸収したエネルギーも既に放出した様だし、戦う力は残っていないはずだ。
「……俺たちを、殺す気は無いんすか?」
「ありませんね。仲間とまでは言いませんが、これから協力していく事になりますし」
シルフから、少しだけ世界の状況を聞いた。
世界というのは地球だけの事じゃなくて、宇宙や銀河全体の話だ。
魔神ゼラは、既に地球以外の人間が住む星々を制圧したらしい。
ゼラは星々を回って、人間達を殺し回っているそうだ。
理由はわからないけどね。
家畜として魔族が賄う分だけを残し、後は皆殺し。
そうして宇宙を回り、残す文明は地球のみとなっている状況だそうだ。
「……分かったっす。投降するっす」
「おいニコライ ! ?」
両手を上げ、地面に膝をついた。
「俺たちの負けっすよ……敵を見誤っていた。彼もそうっすけど、あの青い鬼にすら勝てっこないのは、皆もわかってるでしょう?」
「くっ……」
しばしの沈黙の後、他の四人も降伏を宣言した。
一応彼らを拘束し、斧聖を含めた全員を召喚したドラゴニュート兵に運ばせた。
さて……警戒はしていたけど、結局攻撃はしてこなかったな。
俺は離れた場所でこちらを伺う青鬼に目を向ける。
「人間は本当に面白い生き物えなぁ……ククク」
青鬼は口元に手を当て、不快な笑みを浮かべる。
「お前は降参しなくていい」
九州の人々を殺したツケを清算してもらわないとな。
「安心するえなぁ。する気も無いぞえ? ――極火魔法・殲滅の
――トン
青鬼が錫杖を地面に突くと、俺の周囲に火が灯る。
無数の小さな火球が俺を包囲した。
「魔素領域支配術」か……魔法の極地のひとつ。
周囲の魔素を自分の魔力に変え、ほぼ無制限に魔法を行使できる。
――ゴオオ!
周囲の火の玉が燃え上がり、そのひとつひとつから鞭の様な炎が飛び出す。
炎の鞭は荒れ狂いながら、俺の体に叩きつけられる。
「どうじゃ? 妾の熱い仕置きは」
――パァン!
炎の鞭は体に当たると弾け、一瞬激しく燃え上がる。
それが秒間で平均37回。
――パパパパァアン!!!
打ち付ける炎の熱は感じない。
今の俺のソウルボディは、耐久値19万強になっている。
このまま攻撃を受け続けても、俺の体に傷は付かない。
「魔力の無いお主は、魔法が使えぬと見たえ……どうするのじゃ? このまま灰になってはつまらんぞえ?」
魔法が使えない? ああ……そういうことか。
俺の肉体は既に死に、魔力は流れていない。
代替のソウルボディも、魔力での強化は適さない。
青鬼は俺を見て、直ぐにそれを見抜いたんだろうな。
魔素は三次元への干渉力が高い。
だから肉体の強化や、炎や風といった現象を起こすのは魔素が最適。
俺には魔力主体の戦闘は不可能に思えるが、実際はそうでは無い。
それを証明しよう。
「魔法戦と行こう――トグロ」
両腕に龍装するトグロのガントレットが、俺に応える。
『グォアア!』
「エーテルドライブ・双極」
右手のガントレットは黄金に輝き、やがて雷を轟かせる。
――バチバチバチ! ゴロゴロゴロ!
そして左手からは、銀色の冷気が漏れ出す。
トグロのもう一つの属性は氷だ。
――パキパキパキ
漏れ出た冷気が地面に触れて霜を作る。
俺に魔力は無い。
だが大気には、魔素が溢れている。
ミランダさんが前に言っていた。
『魔素と魔力の違いは、意志が乗っているかどうかなのよ』
「意志」とは、魂から生ずる。
魂から出た「意志」をソウルが肉体に届け、脳がそれを受け取り肉体に指令を出す。
大雑把に言えば、こうして生き物は生きている。
そして本来、「意志」が届くのは己の肉体のみ。
その「意志」を体外、空気中の魔素に届けるのは至難の業。
ちょっと修行しただけでは身に付かないし、年月をかければ良いというものでも無いらしい。
だが俺は、「魂の権能」を得た。
ソウルの扱いは、俺がこの世で一番になった。
「――魔素領域支配術」
俺のソウルが、周囲に拡散される。
「ほお……奇妙なことじゃ。魔力は無いのに領域は使えるのかえ? これは面白うなってきたぞえ……」
周囲で暴れる炎の鞭は、ピタリと止まった。
「魔素領域支配術」同士の戦いは、「意志」の強さがものを言う。
青鬼の「意志」は、俺のものに上書きされていく。
俺に近い場所の炎から、徐々に遠くの炎へと「意思」が伝わる。
「くっ ! ? 中々じゃのう……まさか、これほど簡単に領域が返されるとは」
当たり前だ……
「お前程度じゃ、俺の『意志』は返せない」
「言いおるえなぁ……小童が――極火魔法・黒曜波」
青鬼の頭上に黒い炎の塊が出現した。
強烈な熱波が届き、周囲の地面が炎上を始める。
それと同時に、大地の悲鳴が魂に響いてくる。
ごめん……すぐに消すから。
「凍獄」
左手を黒炎にかざすと、炎は一瞬で氷に変わる。
――パキーン!
「馬鹿な ! ? あり得ぬぞ!」
今のは大気の魔素ではなく、青鬼自身の魔力で生まれた黒炎だ。
元々自分の「意志」が宿った魔力は、大気の魔素を使った魔力よりも、「意志」の上書きは難しい。
だからおそらく、青鬼は驚愕している。
「もうちょっとお前と魔法戦を楽しみたかったんだけど……気が変わった」
俺の魂には、常に誰かの「魂の叫び」が聞こえている。
人の心の叫びはもちろん、自然や動物達の悲鳴が聞こえている。
それが「魂の神玉」を持つ、俺の定めなのだと。
そう理解し、少しばかり慣れてきていた。
だがさっきの大地の悲鳴は、他の多くよりも新鮮で、強く大きく聞こえてきた。
魔法は周囲への負担が大きすぎるな……あまり積極的にやるものではない。
「悪いけど、これで終わりにするよ」
右手を空に掲げ、遥か上空へと意志を届ける。
――ゴロゴロゴロ!
夜の大空に、無数の稲妻が走る。
「妾を魔法で仕留める気かえ? 傲慢が過ぎようぞ」
「言ったろう? お前程度じゃ、俺の『意志』は返せないって――強制送喚」
「なっ──」
青鬼を丸ごとソウルで包み、遥か上空へと転送した。
「――
瞬間、大空に無限とも思える稲妻が一斉に轟いた。
――パァン!
最初の稲妻が青鬼に直撃した。
『アァアアア ! ?』
青鬼の悲鳴は、俺の魂に鮮明に聞こえてくる。
青鬼は魔力障壁で防御を試みるも、魔力障壁は生成された途端にその意志を失い消え去っていく。
――パパパパァン!!!
空は不規則で複雑な蜘蛛の巣の様に、稲光が走り続ける。
青鬼の悲鳴は、しばらく俺の魂に響き渡り続けた。
青鬼は稲妻に宿った俺の「意志」を上書きしようと抵抗を試みていたが、最後までそれは叶わなかった。
精霊には魂が見える。
そのシルフが言っていた。
俺の魂は、「四つの魂が一つになっている」と。
だから、俺の魂には四人分のソウルが宿っている。
そして魂から湧き出る「意志」の強度も、その分強くなっていると。
四つの魂の内、ひとつは元々の俺の魂だ。
そして他の三つの魂は誰なのか……おそらくもう、答えは出ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます