第234話 炎の化身
Side:天道 レイナ
「よお……こん中で、一番アツい奴はどいつだぁ? 俺と遊んでくれや」
炎を纏った男は、今まで相手にしてきたどんな生物よりも格上だと直感的に理解した。
圧倒的な力の体現、青鬼が霞んでしまうほどの強者だった。
何なのよ……こいつは。
見た感じ鬼では無さそうね……
「チッ……どいつもこいつも黙りやがって、腰抜けしか居ねぇのか?」
まずい……彼はおそらく話の通じるタイプじゃない。
場の緊張感が極限まで高まっている。
そんな中、ジンが男に話を始めた。
「アッシュ。どういうつもりだ?」
「テメエは……あ? お前ジンか? そういやさっきもいたっけなぁ。なんだよジン〜久しぶりだなあ!」
どうやらジンの知り合いらしいわね。
「アッシュ、鬼王に用があるのだろう? 奴はここにはいない。あの山だ」
ジンが阿蘇山を指差してそう言った。
「知ってるぜ? そんな事はよぉ。何だか取り込み中らしくてな……どうせなら完全な状態でやり合いてぇのよ。それまで、俺様の暇潰しに付き合ってくれや」
話がよく分からないわ……結局あいつは味方なの?
「ジン、あいつは何者――」
ジンにそう聞こうとしたけれど、事態は待ってはくれなかった。
「アハハハ! まだこんなのが日本にいたなんてね! 俺が遊んであげるよ!」
レオナルドが、アッシュと呼ばれた男に突撃していく。
「ちょっと待ってレオナルド ! 」
私はすっかり、彼の習性を忘れていた。
わざわざ英人と戦う為だけに日本に来た男だったわね。
「良いねぇ! テメエみてぇな奴は嫌いじゃねえ!」
レオナルドはいつの間にか握っていた銀剣で斬りかかった。
素早くアッシュの懐に潜り込み、銀剣でその首を狙う。
その一撃はかなり本気に近いものだと、幾度となく手合わせをした私には分かった。
しかしアッシュは表情ひとつ変える事なく、その一撃を素手で止めた。
――パシン!
そしてアッシュが剣を掴んだ瞬間、アッシュの纏う炎に一瞬だけ亀裂が入った。
「っ ! ? マジかよ ! ?」
レオナルドが驚愕の声を上げ、次の瞬間にはアッシュから数メートル離れた所に現れていた。
「ハハハ! テメェ因果系の能力者だな! 面白え!」
やっぱり……さっきのレオナルドの一撃はソウルスキルが使われていた。
「因果必結」の能力で「斬った」という結果を持って来たんだろうけれど、アッシュに傷は付かなかった。
つまりレオナルドの攻撃力では、アッシュに傷をつける事すらできない。
「あんた……中々やばいね」
そんな一瞬の膠着を突いて、今度はロシア軍が動いた。
「よそ見してるとおっ死んじまうぜ? ゲハハ!」
大斧を振り上げた斧聖が、背後からアッシュに攻撃を仕掛けた。
「悪りぃ悪りぃ……見てなかったわ」
――ガーン!
斧聖の斧を、アッシュは額で受け止めた。
避ける事も、防御する事も無かった。
「馬鹿な ! ? くっ……今だニコライ! 全部吐き出せ!!!」
斧聖の背後からニコライと呼ばれた男が現れ、至近距離でアッシュに両掌を向けた。
「放魔!」
向けられた掌から、超高密度の黒炎が放たれた。
――ドカーン!
激しい黒炎の爆発が起こり、周囲に爆発の余波が撒き散らされる。
「ガウェイン ! ?」
ランスロットが、慌ててガウェインの名前を叫んだ。
「界!」
その次の瞬間には、再び視界は黒い炎で埋め尽くされていた。
私は咄嗟に、正面に氷の壁を作っていた。
けれどなぜか炎は、氷壁よりも前で左右に逸れていた。
「これは……」
思わず漏れた私の疑問には、ランスロットが答えた。
「ガウェインのユニークスキルです。この結界の内側は安全です」
「そう……」
すごい……あの黒い炎を、完璧に防いでいるわ。
「いやぁ……とんでもない場所に来てしまったっすなぁ殿下」
「全くだ。ここは魔境だな……どんなダンジョンよりも生きた心地がしない」
イギリスの方達がそう話していると、炎はすぐに収まった。
「界を解きます。申し訳ありません殿下……赤鬼との戦いでかなり消耗していた様です。そろそろ使えなくなるかと」
「分かった。よくやってくれたガウェイン」
界を解いた瞬間、外の音が聞こえる様になった。
そして、まだまだアッシュへの攻撃は止まらなかった。
「妾も混ぜておくれ――黒焼」
黒炎の塊が、高速でアッシュへと放たれる。
そして黒炎はアッシュに衝突し、黒い火柱が上がった。
――ドーン!
「兄上……我々も攻撃に加わりますか?」
「そうだね……でも彼を倒せるビジョンが見えないな。どうする? レイナ姫」
アーサーが私に決断を求めた。
どうする……正直言って、あいつは規格外なのよね。
それに完全に敵でもないみたいだし――
判断に迷っていると、ジンがどこからか現れた。
「その必要は無い。時期にアッシュの暴挙は収まる」
何を根拠にそう言っているのか分からないけれど……
「あなた、どこかへ行ってたの?」
「ああ。ちょっとな」
詳しくは答えてくれなかった。
そう話している内に、黒い火柱が収まった。
「バカな ! ? 妾の魔法は直撃したはず……」
中にいたアッシュは無傷だった。
まるで何事もなかったかの様にそこにいた。
「ぬりぃんだよ……テメェの炎はよぉ」
アッシュが纏う炎の熱量が増し、周囲を焼き尽くさんと荒れ狂う。
「もっと燃やせや! そんなもんか? テメェらの魂は!」
荒れ狂う炎は天にまで届き、周囲の気温はもはや火の中にいる様だった。
「もっとアツくなれ! 魂を燃やせ! 俺に見せてみろ!」
熱量はどんどん増していき、やがて周囲の至る所で火の手が上がり始めた。
「まずいぞ……ジン殿。彼の暴挙はいつ収まるのだ ! ? このままでは――」
雪嶋さんが焦燥した様子でジンにそう言った時、どこからともなく声が聞こえた。
『そこまでだアッシュ――』
魂に直接聞こえてくるその声は、私が待ち望んだ声だった。
私は反射的に周囲を見回すが、その姿はどこにもない。
「英人!」
声の主を探して、私は叫んでいた。
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